豪速の人
実は一話前から章が変わっていたのですが、追加するのを忘れていました。申し訳ないです。
「さあ、今年も始まりました! 第十九回アバークロンビー剣闘祭! 今年は勇者の方々も参加するという、超特大イベントだぁ!!!」
一週間が経ち、今日はアバークロンビー剣闘祭だ。
最近の剣闘祭は参加人数が多くなってきたということで、闘技場が二つになっていた。そのため、各ブロック毎に闘技場を一つ使用できる。
「アル君、頑張ってねー!」
「…… 頑張って」
「おうよー」
もうすぐ第一試合が始まる。そして、第一試合は俺の出番だ。
俺はAブロックに入っていて、俺の他にもターニャとフィリップがAブロックだ。決勝戦では、俺とターニャが当たるか、俺とフィリップが当たるかだろう。
フィリップは、努力していたのがよくわかる剣の振り方をしていて、基本的なことはほとんど教える必要がなかった。
そのかわり、実戦での心構えや型にとらわれない体の動かし方などを教えた。どこまで使いこなせるかは、この一週間のフィリップの努力次第だろう。
Bブロックには、父様にアレックス、ランベルトがいる。
こっちはAブロックとは違って激戦になるんだろうな。特に決勝戦で当たるであろう、父様とアレックスの戦いは見ものだ。剣術だけになると、どちらが強いんだろうか?
「第一試合は、勇者パーティの一人! アル選手と! 最近金級になった冒険者! 豪速のジョン選手だぁ!!!」
豪速のジョンって、なんかどこかで聞いたことあるな。誰だっけか。
「ふん、勇者パーティだかなんだか知らないが、俺と当たったことを不幸に思うんだな」
俺の反対側の入場口から来た、豪速のジョンは、立合うなり勝つ宣言をしてきた。
「あっ、あの時の人か……」
今思い出した。七年前の剣闘祭で、俺に負けて、逃げるんだよ〜、した人じゃないか。
「ん? どこかで会ったことあるか?」
「いえ、気のせいでした」
「そうか、よし、ぶっ倒してやるぜ!」
やる気は満々で、自分の勝ちを疑ってないみたいだ。
そういえば、最近金級になったとか言ってたな。七年前は銀級だったから、結構頑張ったんだな。
「では! 第十九回アバークロンビー剣闘祭の記念すべき第一試合、開始!!!」
ああ、そういえばこんな始まり方だったなぁ。懐かしい。
俺がそんなことを思っていると、ジョンは既に俺の目の前に来ていて、剣を振りかぶっていた。なんかデジャヴだな。
俺は、剣を振ろうとしたジョンの懐に入り、振り下ろす前に腕を止めた。
「なっ!?」
ジョンは、自分の速さを上回られた驚きで、一瞬動きが止まった。
俺は、そんなジョンの顔に裏拳を打ち込み、怯んだところで腕を掴んで、そのまま投げた。
「かはっ!」
綺麗に投げられたジョンは、地面に背中を強打し、肺の空気が口から漏れ出た。
俺は、隙だらけになったジョンの額に剣先を突きつけた。
「勝者! アル選手!!!」
ワアアアアァァァァ!!!!!
「あとは、その慢心さえ直せればいいんでしょうけどね」
「クソ! 覚えてやがれ!」
ジョンは昔と同じように、逃げるんだよ〜しながら退場していった。
「アル君、お疲れ様。一瞬だったね」
「まあ、あのくらいなら剣を使うまでもなかったな」
「さっすが〜」
「あれ? オリヴィアは?」
「久しぶりに二人きりを楽しんで、だって」
「オリヴィアって、ほんとたまーに気を利かすよな」
「いつもは口調に似合わずでしゃばりだからね」
ソフィと二人で話をしながら、Bブロックの方を見に行く。すると、ランベルトとアレックスが戦っていた。
アレックスが長剣で攻め、ランベルトはそれを大楯で受けつつ、隙があれば片手剣で攻撃していた。
「拮抗してるね」
「いや、ランベルトの方が有利だ。ほんの少しだけな」
長剣はリーチこそ長いため、対人戦では有利に立ち回れることが多い。だが取り回しが悪く、振りも遅くなるため、盾を持っている相手だと攻撃が防がれやすいのだ。
「そうなの? 全然わかんない……」
「まあでも、たぶんアレックスが勝つぞ」
「え? そこまでわかるの?」
「ほら、見てみろ」
闘技場の方を見ると、ちょうどランベルトが長剣を防いで、カウンターを繰り出していた。
アレックスは、自分の方へ向かって振り下ろされる片手剣を見て、長剣を手放し、ランベルトへと突っ込んだ。
「うおっ!?」
一瞬で剣のリーチよりも近くに来たアレックスに、ランベルトは驚きで声を上げた。
アレックスはランベルトの右腕を両手で掴み、自分の体を回しながら捻って、そのままの勢いで投げる。まるで、合気道の四方投げだ。
アレックスは、仰向けに倒れたランベルトの首に、腰に隠していた短剣を当てた。
「試合終了!! アレックス選手! 長剣を捨て、短剣でフィニッシュだぁ!!!」
うおおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!
「アレンが勝った! どうしてわかったの?」
「あいつ、俺に負けてから体術ばっかりやってたからな。腰に短剣を隠してるのを見て、きっと長剣を捨てるだろうと思ったんだよ」
「へぇ〜、すごいなぁ」
ランベルトは、腰の短剣に気がつかなかったからこそ負けた。逆に言えば、それさえわかっていれば勝っていただろう。
次の俺の試合は準決勝で、またもや金級の冒険者だった。
細剣を使っていて、金髪。ついでに赤マントを着ていて、口癖は「僕の魅力に酔いしれろ」だった。
決めポーズをしながら決めゼリフ言う姿があまりにもうざかったため、皆まで言う前に蹴り飛ばしてやり、俺の勝ちとなった。
続けてAブロックの準決勝。対戦はフィリップvs.ターニャという、予想通りの二人が勝ち上がって来た。
「にゃにゃ〜、全力で来るにゃ」
「が、頑張ります」
フィリップは、勇者パーティの一人と戦えるということで、ガチガチに緊張していた。
結果、普通にボッコボコにされ、三十秒で試合終了。
ターニャの純粋な運動能力の高さによる強み対して、フィリップは体をまったく使えていなかったので、正直に言うと勝負になっていなかった。
まあ、相手が悪かったのもあるが、あんなに緊張していたら動けるわけないわな。剣術は悪くないが、対応力と精神力が足らんな。
「アル君、嬉しそうだね」
「そう見えるか?」
「頰が緩んでるよ?」
フィリップに、またなにかを教えることができると思うと、自然と頰が緩む。やはり、兄弟として一緒にいれることは嬉しいのかもしれない。
「仲直りできてよかったね」
ソフィは俺の方に体を向けて、優しく微笑んだ。
俺はなんだか気恥ずかしくなり、ソフィから目を逸らしつつ、頭を掴んでぐしゃぐしゃにしてやった。
俺がチラリと目だけを戻し、次に見たものは、髪を直しながら満足そうな笑みを浮かべているソフィの姿だった。