新たな出発点
しばらく待っていると、会場の方からこちらに走ってくる人影が見えた。
「お兄様!」
その人物は、俺の胸に凄い勢いで飛びついてきた。それはもちろん、俺の最愛の妹であるシャーロットだ。
俺はそんな可愛い妹を、しっかりと抱きとめた。
「お兄様、お久しぶりです! 生きていると信じておりました!」
シャルは俺の背中に手を回し、ギュッと抱きついてきた。しかも、そのまま俺の服に顔を擦り付け始めた。
「ほら、シャル、せっかくの化粧が落ちるぞ」
「そんなことはどうでもよいのです! はぁ、お兄様……」
俺の胸元で目を瞑り、鼻をくんくんと動かして匂いを嗅いでいる。
そろそろ、この重度のブラコンを治した方がいいのかもしれない。
いや、シャルに嫌われでもしたら、俺は死ぬ自信があるぞ。やっぱり治さないでおこう。
「シャルちゃん、久しぶり」
「あ! ソフィアお姉様! お久しぶりです!」
シャルはソフィに話しかけられると、一旦俺から離れ、ソフィに向かって頭を下げた。
一旦離れたおかげで、俺はシャルの姿をしっかりと見ることができた。
「シャル…… 綺麗になったな」
「いえ、私なんてソフィアお姉様に比べたら、そんな……」
「そんなことはないぞ。ソフィもシャルも、三年間でとても綺麗になった。だんだん大人の魅力が出てきたな」
シャルは体格も雰囲気も、子供らしさがだんだん抜けてきて、セクシーになってきているのだ。
「もう、お兄様ったら、妹をそんなに持ち上げてどうする気ですか?」
「可愛い妹の成長した姿が見られたんだ。嬉しくなって、勝手に言葉が出てしまったんだよ」
「ア、アル君のシスコンが悪化してる……」
失礼な。俺はもともとシャルのことを愛しているぞ。家族としてな。
シャルは、そんな俺の目を真っ直ぐな瞳で見つめた。
「あの、お兄様、やはり家にはお帰りになられないのでしょうか?」
そして、こんな暗くなるような質問が飛んできた。
「…… アバークロンビー家に戻ることはできない」
「そうですか……」
例えシャルに頼まれたとしても、これだけは譲れない。俺はやると決めたらやりきる男なのだ。
「ごめんな」
「いえ、私は、お兄様が生きていたというだけで満足ですから」
本当によくできた妹だ。
「でも、一度家には行くよ。一応な」
すると、シャルの顔はパァッと明るくなった。
「お待ちしております!」
きっとシャルなら、必要以上のおもてなしをしてくれるのだろうな。
「そういえば、学院はどうだ?」
「お友達もたくさんできましたし、毎日楽しいです」
俺と違って、ちゃんと友達はできているようだ。
兄として少し情けない気持ちになるが、今の俺には仲間がいるから問題ないと自分に言い聞かせた。
「シャルはちゃんと卒業するんだぞ?」
「大丈夫ですよ、お兄様。学年末テストでは一位でしたから」
「ほぅ、それはすごいな」
学力の方もまったく問題なさそうだ。テストで百位以内に入っているのなら、就職先も簡単に見つかるだろう。
「あとはお兄様のように、厄介ごとに巻き込まれないといいですが」
「大丈夫だ。たぶん俺が呪われてるだけだから」
異世界転生して、人生をやり直そうとしてから、何度危ない目にあったことか。これは絶対に女神の呪いにかかっていると思う。
「でも、一応気を付けておけよ?」
「はい、わかっております」
シャルなら大丈夫だとは思うが、気を付けておくことに越したことはない。
三人で話していると、唐突に楽器が鳴り始めた。それと同時に、何組かの男女が踊りを始める。
「今日はダンスまでやるのか」
「勇者様とお近づきになりたい人は、たくさんいますからね」
「なるほど」
一緒にダンスを踊って、アレックスの気を引こうということか。
アレックスの方を見てみると、既に周りが女性で溢れかえっていた。あの中から一人を選ぶとか、選ばれた人が嫉妬で殺されたりしそうだな。
よく見てみると、ターニャやランベルトまでたくさんの異性に囲まれていた。
「いろんな国でこんなことしてるのか。本当に大変なんだな」
「アル君はそう言うけど、私たちも例外じゃないよ?」
ソフィは会場の中に入るための扉を指差した。
そこには、俺たちのことを遠巻きに見ている、貴族たちがいた。
「あれは、俺たち待ちか?」
「絶対そうだね」
それにしてもすごい数だな。扉の横幅いっぱいいっぱいに人がいて、まったく通れそうにない。
「シャル、とりあえず父様の所へ戻った方がいい」
「はい、そうさせていただきます」
シャルは俺たちに一礼した後、その人混みを掻き分けて中に戻っていった。
「さてと、それじゃあ、ソフィ」
「どうしたの?」
俺は少し腰を曲げて屈み、ソフィに右手を差し出す。
「俺と一曲、踊ってくれませんか?」
「よろこんで」
ソフィは笑顔で俺の右手を取り、俺はそれを引いて会場へと向かった。




