ドレス
今日は、国王主催の宴会が行われる。
宿屋には、前と同じように馬車が来ていて、それに乗って王城に向かった。そして、その馬車にはなぜか、ジュリアも乗っていた。
「なんでジュリアが乗ってるんだ?」
「楽しそうだからに決まってるじゃない」
楽しそうだから宴会に参加する聖剣ってなんだ?
執事の方を見るが、黙っている。どうやら問題はないらしい。
「ジュリア様のドレスも、用意しております」
「あら、ありがと」
俺たちの中で一番様になっているな。なんだか少し王族っぽい。
それから、みんなと話しながら馬車に乗っていると、いつのまにか王城についていた。
馬車を降りて、各自用意された部屋に案内された。部屋の中には、採寸の合った服が用意されていた。
俺は元貴族なのである程度の着方はわかるが、さすがに細かい部分は忘れていた。なので、お手伝いさんに手伝ってもらい、正装に着替えた。
前世の中世ヨーロッパの正装と言えば、男でも白いストッキングやら、もこもこした上着だとかを着ていたのだが、この世界は軍服のようなものを採用していた。前側は少し着飾っているが、基本的にはシンプルなものだ。
俺の着用しているものは、黒を基調とした服で、ボタンは金色。肩の辺りには少しキラキラとした飾りがついている。
鏡で確認してみると、自分で言うのもなんだが似合っていた。
部屋を出ると、男組は既に着替え終わっていて、会場で待っていた。
「ずいぶんと早いな」
「何度か参加してるからな。もう慣れた」
他国でも、功績をあげるたびにパーティに呼ばれたようだ。
何回もやれば着替えも慣れて、早くできるようにもなるか。
アレックスは俺とは対照的に、白を基調にしている。金髪で白い軍服のイケメン。ギャルゲーとかに出てきそうだな。
ランベルトは深緑が基調の服を着ていて、なんだかボスとか呼ばれていそうな見た目だ。
「勇者も大変だな」
「まったくだ。戦うだけなら楽なんだがな」
「まあ、いいじゃねぇか。うまいご飯が食べれるぜ?」
「確かに、それだけがいいところだな」
「お前、最初は緊張で飯の味とかわからなくなるタイプだろ?」
「な、なぜそれを…… って、そんなわけないだろ!?」
「おお、よく気がついたな。そうなんだよ、一番最初はこいつ緊張しまくってな。ガッチガチになってたぜ」
「おい、ランベルト! 余計なことは言わなくていい!」
やっぱりそうらしいな。慣れれば大したことないんだが、その慣れるまでが大変だ。
俺は父様に連れられて、何度かこういう場には出ているので、そこまで緊張はしていない。少なくともご飯の味くらいはわかりそうだ。
「アル君、お待たせ」
「おう、待ってないぞ」
「…… アルフレッド、ドレスどう?」
「落ち着いた雰囲気が出ていていいじゃないか。オリヴィアのお淑やかさを引き出していているな。まるで、どこかの令嬢みたいだ」
俺の褒め言葉にオリヴィアは頰を赤く染め、右手で髪を弄り始めた。ダンジョンにいる時と比べて、表情が豊かになってきたな。
オリヴィアのドレスは黒が中心で、全体的に落ち着いた感じがよく似合っていた。
「アル君、私は?」
「ソフィも見違えるように綺麗だよ。青色の神秘的な感じがよく似合ってる。精霊の使いと言われても違和感がないくらいだ」
「えへへ〜」
ソフィのドレスは青色で、銀色の髪とよく合っている。泉の精霊とかに出てきそうな見た目だ。
「なんか疎外感があるにゃあ」
「アレンも、あのくらいの感想がパッと出てくれば格好いいんだがなぁ」
「うるさい!」
元々勇者なのだし、こんなことを言わなくてもモテるだろう。
「アル君、ターニャも褒めてあげて」
「にゃにゃ! それは嬉しいにゃ!」
「そうだなぁ。いつもは装備のせいであまり目立たなかった猫耳が、ドレスのフリルが合わさって愛らしく見えるよ。守ってあげたくなるような可愛さだ」
「ふにゃあ、これはいいにゃあ〜」
ターニャは、自分のピンク色染まった頰に手を当て、くねくねし始めた。
ターニャのドレスはピンク色で、スカートにはフリルがついている。オリヴィアとは対照的に、少し活発な感じを意識させる着こなしだ。
「それで? 私にはなにもないの?」
最後の一人であるジュリアが、部屋から出てきた。
「一言欲しいか?」
「言えるものなら、言ってみるといいわ」
ジュリアは紫のドレスを着ていて、スカートは膝丈くらいの長さに伸びている。髪を纏め上げていて、いつものように地面についたりはしていなかった。
「ふむ。子供特有の愛くるしさと、紫のドレスによる妖艶な感じが上手く合わさっていて、似合っているな。ただの子供には、その雰囲気は出せないだろうから、ジュリアだからこそ着こなせる、という感じだな」
「……」
「ダメだったか?」
「…… いや、別に」
と、口では言いつつも、顔を赤くしてこちらを見ようとしない。
「…… 照れてる」
「照れてないわよ!」
「…… 誤魔化さなくていい」
「別に、アルフレッドに言われたのが嬉しいんじゃないわよ! ただ、人に褒められるのなんて久しぶりだったから……」
それを言い終わった瞬間、耳まで真っ赤に染まってしまった。
「…… やっぱり照れ屋さん」
「そうだな」
「間違いないにゃ」
「うるさい!」
「…… 少しアレックスに似てきたか?」
「そんなわけないでしょ!?」
いやでも、ツッコミ気質なところとか、ちょっと残念なところとか、一部の人には弱いところとか、意外と似てきてるぞ。
「ははは! 聖剣をも照れさせるとはな! こりゃあ、本当にアレンにはできない芸当だな!」
「ぐぬぬ……」
「こういうの、父様に叩き込まれたからな」
「…… さすがはアルフレッドのお父さん」
「考えるのも結構大変なんだぞ?」
喋っていると明かりが落ち、ステージの方にライトが当てられた。そこには国王が立っていた。
「みな、我の招待したパーティによくぞ来てくれた。今日は存分に楽しんでいってくれ。では、乾杯!」
「「「「「「「乾杯!!!」」」」」」」
どうやらこの世界にも乾杯はあるらしい。
ちなみに、食事形式はバイキングだ。会場にテーブルがいくつもあり、いろいろな食べ物が置いてある。
さて、せっかくのパーティなのだし、楽しまなきゃな。