対決
俺は今、冒険者ギルドの闘技場にいる。そして目の前には勇者が、剣を構えた状態でこちらを見ていた。
「覚悟しろよ! アルフレッド!」
「はいはい」
初対面では気がつかなかったが、意外と熱血なのかもしれない。
俺も剣を抜き、構える。左胸にはナイフも用意してある。
「じゃあ、模擬戦のルールを説明する。説明と言ってもなにもないな。とにかくなんでもありだ。魔法でも剣でも斧でも木の棒でも、なんでも使って勝て」
ランベルトがルールを説明する。
「ランベルト、いいからさっさと始めろ!」
「わかったよ。それじゃあ、試合開始!!」
勇者と俺は、互いの手の内を知らないため、動けない。相手の様子を伺い、隙を探る。だが、さすがは勇者。構えには隙がない。
見合った状態で十数秒。アレックスの顔が歪んだ。
そしてその瞬間、アレックスの持っている剣の先に、雷の玉ができる。
「俺の勝ちだ!〈ライトニングボルト〉!!」
雷の玉は、俺に向かって一直線に高速で飛んでくる。俺は体に〈シールド〉を張り、わざと受けた。
魔法は爆発し、辺りに閃光と轟音を生む。そして、衝撃で砂けむりが舞った。
「ははは! どうだ見たか!」
「アル君!」
魔法に耐えきった俺は姿勢を低くし、砂けむりに紛れて、這うように勇者に近づく。そのまま勇者の後ろ側に回り込み、突きを繰り出した。
だが、勇者はなにかを察知したのか、剣で俺の攻撃の軌道を逸らした。
「俺の魔法が効いてないだと!?」
「驚く暇があるなら反撃したらどうだ?」
「舐めるなよ!」
俺は剣を引き、後ろに下がる。明らかに誘いなのだが、それを好機と見た勇者は、真っ直ぐに突っ込んで来た。俺から見て左側から横薙ぎに剣を振る。
俺は、前に一歩進みながら胸のナイフを左手で引き抜き、勇者の懐に潜りつつ、ナイフで剣を受け止めた。
勇者は、俺が前に出てくるとは思っていなかったようで、後ろに飛んで俺から離れようとする。
俺は勇者の足を踏みつけ、後ろに引かせないようにし、剣を手から離す。それで開いた右手で顎を持ち、勇者の頭を捻る。首が捻られるのを反射的に避けようとして、バランスを崩した勇者の腰を、俺は後ろから蹴り抜いた。
勇者は、くの字に曲がった状態で飛んでいき、ドォン! という音とともに壁に激突する。
「「「「……」」」」
数秒間の静寂。審判であるランベルトさえも、黙り込んでいた。
「おい、審判。早く判定を言ってくれ」
「あ、ああ。勝者は、アルフレッド……」
「アル君すごーい!」
「…… アルフレッドは、やっぱり強い」
ソフィとオリヴィアが、今の試合について語り合っている。というか、俺がすごいしか聞こえてこない。
それとは真逆に、ランベルトとターニャは黙り込んでいた。まさか勇者が負けるとは思っていなかったんだろう。
「対人戦は久しぶりだったが、意外となんとかなったな」
「久しぶりであれなのにゃ!?」
どうやらターニャは我に帰ったらしい。
「ああ、ずっとダンジョンにいたからな。魔物とばっかりだった」
「アル君、アレンの魔法ってどうやって防いだの?」
「あれは光魔法の〈シールド〉を使った」
「あの壁みたいなの作るやつ? あれで防げるんだ」
「魔力を込める量を多くすればな」
学院にいた頃は、耐久度の低い壁を一枚作るくらいしかできなかったが、今の俺の魔力は化け物クラスだからな。
「…… 勇者、絶対に腰の骨折れてる」
「だろうな」
「…… グッジョブ」
「いや、なにがグッジョブだよ」
オリヴィアは、どうやら勇者のことが嫌いらしい。
みんなで勇者の所へ行ってみると、予想通り壁の中で動けずにいた。俺はそこに〈ヒール〉をかけてやり、無理やり引っ張り出す。
気を失っているらしく、ピクリとも動かなかったが、しばらくすると意識を取り戻した。
「…… んん、ここは……」
「起きたのにゃ、アレン」
「俺は…… 負けたのか」
「どうだアレックス、俺の実力はわかったか?」
「…… っ! クソ! 協力すればいいんだろ!」
「アレン、とりあえず休んで」
「う、わかったよ、ソフィア」
相変わらず俺への当たりは強いが、ソフィには弱いようだ。
しかし、これで協力ができるようになった。なにかと魔王に対応しやすくなるだろう。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
次の日俺は勇者パーティとともに、王都の西側にある〈瘴気の谷〉に行くための準備をしていた。
〈瘴気の谷〉は高難易度のダンジョンで、常に命を脅かす瘴気が溜まっていて、なおかつA ランクの魔物もそれなりの数が出る。
ここに行く理由は、魔物が消えている原因と出会える可能性があるからだ。
「三日ほどの道のりになるが、気をつけて行こうか」
「そんなことはわかってる!」
「…… うるさい」
「なんだと!?」
昨日以来、アレックスとオリヴィアはずっと喧嘩している。今にも目から火花が出そうな勢いで、お互いを睨んでいる。
「アル君、アレンが迷惑かけてごめんね」
「ソフィが謝ることじゃない。それに、昨日は模擬戦でプライドをボコボコにされているわけだし、ストレスが溜まっているんだろ」
つまり、半分くらいは俺のせいなのだ。まあ協力できるのに越したことはないから、遠慮なくぶっ飛ばしたが。主に物理的に。
「アル君は優しいね」
「どうでもいいだけだと思うぞ」
王都で買った馬車は少し大きめのため、みんなで乗れる。何年ぶりの馬車だろうか?懐かしさすらあるぞ。
「よし! 出発するぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
アレックスが出発を宣言し、馬車が動き出す。
ランベルトが馬を操り、それ以外の五人は荷台に乗る。六人分ともなると荷物が多いため、あまり座れるスペースはない。なので、みんな荷物の上に座っている。
「これでようやく冒険者になった気分だな」
「…… うん。今までは魔物と戦ってしかいなかった」
「仲間とともに冒険をする。オレはそれが冒険者の一番の醍醐味だと思うぜ!」
馬を操作しながらこちらを振り向き、わざわざ話に加わるランベルト。ああ見えて、実は結構寂しがり屋だったりするのだろうか?
「アル君もオリヴィアも、もう私たちの仲間だよ」
「そいつは嬉しいな」
「…… ありがと」
同じ目標を掲げる仲間。友達すら、ほとんどいなかった俺にできるなんてな。しかもそれが、俺とオリヴィアが死にかけたダンジョンのおかげでできたのだから、人生なにがあるかわからないもんだ。
道中は雑談をしながら進んでいき、夕暮れになると馬を止め、野宿をする。そして、次の日の朝早くに出発する。
そしてその三日後に、俺たちは〈瘴気の谷〉に到着した。