両手に花
パスタを食べながら自己紹介を済ませる。
俺とオリヴィアは、前世のこと以外はほとんど話した。もちろんダンジョンのことも、初代魔王のこともだ。
「うぅ、アル君もオリヴィアちゃんも大変だったんだね」
泣きながら同情をしてくれるソフィ。勇者はその様子を面白くなさそうに見ていた。
「魔物を操る魔法…… そんなのがあったら厄介だにゃ〜」
「それにしても、初代魔王が他種族と仲良くしようとしてたってのか、オレは驚いたぜ」
「だから俺たちは初代魔王に、現魔王を倒してくれって頼まれたんだ」
「ふん、どこまでが事実かわからんな」
話を信じられないほど、俺たちは怪しくはないだろうに。なぜか勇者は、俺たちへの当たりが強いようだ。
「これは勇者パーティだからこそ話したんだ。可能性として考えて、対策だけ取って貰えればいい」
「わかった。ちゃんと対策を考えておくね」
「ふん」
勇者パーティの頭脳はどうやらソフィのようだ。もともと頭は良かったからな。
戦闘中も後衛で、戦況がよく見えるだろうから妥当なところだろう。
「それで、アル君たちはどうするの?」
「俺たちも魔王討伐に向けて戦う。協力もしよう」
「お前の力を借りなくても、俺が魔王を倒してやるよ」
パーティメンバーのジト目が、アレックスに刺さる。アレックスは腕を組んで踏ん反り返っている。
「こんな、いきなり出てきた実力もわからないようなやつを信用してたまるかよ」
まあ確かに、それはもっともな意見ではあるな。
「実力を示せばいいのか?」
「できるもんならな」
「なら、明日にでも模擬戦をしようか?」
「俺に実力で勝つってのか?」
途端に目つきが鋭くなり、雰囲気が変わる勇者。
「ああ、そうだ」
「いいだろう、ぶちのめしてやる!」
勇者の実力を知るいい機会だ。そして、自分の実力を知れる機会でもある。
「明日の昼、冒険者ギルドの闘技場にきやがれ!」
俺にむかってそう叫び、アレックスは食堂を出て行ってしまった。
「ああ、なんかわからにゃいけど、頑張ってにゃ!」
「オレは、あんたを歓迎するぜ!」
ターニャとランベルトも、勇者の追うようにして出て行った。
「…… あんなやつ、初代魔王のダンジョンにでも放り投げてやればいい」
「それじゃあ、何年かかるかわからないだろ」
俺ら二人でも三年かかったのだ。一人で攻略しようとしたら、少なくとも五年はかかるだろう。
「アル君、大丈夫なの?」
「さあ?」
「…… 勢いで言った?」
「別に俺が勇者に負けても、別行動すればいいわけで、俺が魔王を倒すために動くのは変わらないからな」
協力体制を取らずとも、俺の目的は変わらない。たとえ勝っても負けても、俺に失うものはないのだ。
「でも、相手は自称人類最強だろ? 腕がなるじゃんか」
「…… 戦闘狂?」
「失礼な、剣術バカなだけだ」
「それでもあんまり変わらないような……?」
「ソフィまで!?」
まあとりあえず、今日は休もう。寝不足で負けたなんて嫌だからな。
「くだらないこと言ってないで、さっさと帰るぞ」
「…… 私はソフィアさんと少し話しがある」
「そういえば、そんなこと言ってたな。じゃあ、俺は先に宿に戻ってるぞ」
いったいなんの話をするんだろうな。少し気になるが、俺がいても邪魔なだけだろう。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
宿屋のベッドに横たわり、頭の後ろで手を組んで枕がわりにする。
久しぶりの一人だ。最近はオリヴィアがずっと近くにいたから、なかなか一人になる機会がなかった。
俺はもともと結構一人が好きなタイプだ。理由は、人の目がないところが一番安心できるからだ。気を楽にして、のびのびすることができる。
「それにしても、結構話しこんでいるみたいだな」
ベッドの上で背中をぐっと伸ばし、仰向けに転がる。
徐々に眠気が襲ってきた。まぶたが重くなってきて、閉じそうになった時、部屋の扉がすごい勢いで開いた。その音で俺は飛び起きる。
「うお!? びっくりし…… んむ!?」
いきなりなにか柔らかなものが俺の顔に押し付けられ、押し倒される。
「アル君、捕まえた!」
「んむむ?」
どうやらソフィに捕まったらしい。
「…… ソフィア、ずるい」
「オリヴィア、こういうのは早いもの勝ちだよ!」
「…… なら、私はこっち」
オリヴィアらしき人物が部屋に入ってきて、俺の右腕にも柔らかい感触が当たる。
というか、この短時間で互いを呼び捨てにする仲になって帰ってきたのか。発展が早すぎるだろ。
「んむ、んむむー」
「アル君どうしたの?」
ようやく顔からソフィの胸が離れた。押し付けられすぎて息ができなかったので、ようやく呼吸ができるようになった。
「はぁはぁ、苦しかった。というか、どういう状況だ?」
「…… 今日は三人で寝る」
「は? ソフィはてっきり、勇者組の方に行くと思ってたんだが」
「久しぶりに会ったんだもん。アル君と一緒にいたいなあ」
上目遣いでそんなことを言ってくる。そんなことを言われたら、俺に断る理由はない。
「わかった。少し狭いが、まあいいだろう」
「やった!」
体を回転させて、俺の上から左脇に移動する。そのまま肩に頭を乗せてきた。
そして、右脇でもオリヴィアが同じような体勢に移行する。
「まさに両手に花だな」
「…… この状況のためにあるようなことわざ」
「コトワザ……? なにそれ?」
「まあ、とある国にある格言のようなものだな」
「へぇ、そんなのがあるんだ」
この世界にはことわざというものは存在していない。これは、元日本人のオリヴィアだからこそ通じる。
「アル君……」
「どうした?」
「手を出してもいいんだよ?」
「…… 覚悟はできてる」
「お前ら、俺が明日模擬戦やるって言ってたの忘れたのか?」
「アル君のいけず」
「…… いけず」
「さっさと寝ろ」
「「はーい」」
まったく、いったい二人でなにを話したらこなるんだろうか? まあいい、明日の模擬戦に向けて早く寝よう。