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勇者御一行

ようやく勇者が出てきますよ

 冒険者ギルドに行き、調査の依頼を受ける。


「気をつけてくださいね」

「大丈夫だ、Aランクには負けん」


 実際Aランク程度なら、比喩でもなんでもなく殴り殺せるしな。調査くらいならどうってことない。


「では、いってらっしゃいませ」


 門を出て、近くの草原に行く。少し高い位置から草原全体を見渡すが、魔眼で見ても強い魔力の反応はなかった。

 歩き回って、何がヒントになるようなものはないか探すが、特に気になるようなところはない。


「…… Aランクの魔物がいた影すらない」

「時間が経ってるせいか、自然に痕跡が消滅してるっぽいな。ここじゃ何もわからん」


 雑草の生命力というのは、どの世界でもとんでもなく強いものだ。それで痕跡が消えることなんてよくある。

 だが、それでも不自然なほどに何もない。普通は戦闘の跡とかが残ってるんだが、それもない。


「森の方も一応見ておくか」


 森を魔眼で確認しながら見て歩く。


「やっぱり何もないな」


 何か痕跡と言えるようなものが見当たらない。せめて魔法を使った跡くらいは残っててもいいと思うんだが。

 ちなみに魔法を使うと、力を使った精霊がその場で休憩する。この精霊は力を取り戻すまで一ヶ月ほどかかるため、一ヶ月前に使用された魔法なら、魔眼で見えるのだ。

 森をいくら探しても、FランクやEランクの魔物の魔力しかなかった。やはり、何者かによって痕跡を消されてるのか?


「お、魔力痕があるな」

「…… なにかあった?」

「ああ、足跡もついてるぞ」

「…… これは、狼?」

「正しくは人狼だな」

「…… 魔族」


 〈始まりの森〉にある魔族の痕跡、消えたAランクの魔物。


「関係ないわけないよなあ」


 まあ、なんとなく予想はついた。なぜそんなことをしたのかまでは、さっぱりわからんが。


「よし、帰るぞ」

「…… 他に探さなくていいの?」

「ギルドには、魔族がいた跡があったって言えばいいだけだからな」


 それだけで依頼達成になる。ここまで何も発見されてなかったわけだし、十分な成果だろう。

 魔族と聞けば国が動くだろうし、俺らの出番はここまでだな。


 王都に入ってギルドに向かう途中、住民が大通りの周りに集まっていた。


「これはなにをやってるんだ?」


 大人も子供も家から出てきて大通りに集まり、笑顔を浮かべている。

 すると、突然門が開き、外から四人の冒険者らしき人たちが現れた。その瞬間、住民たちは一気に歓声を上げた。


「勇者様だ! 勇者様が来たぞ!!!」

「見ろよあの格好! カッコいいなあ!」

「あれが魔導様なのね! 美しいわぁ……」


 集まった人々の会話を盗み聞いてみると、そんなことを言っていた。


「…… 勇者様御一行」

「教国は、既に勇者を選んでいたのか」


 すごいな。こんな歓声を、行く町すべてでされているのか?

 勇者に必要なものは力と人望。それはどうやら本当のことみたいだな。

 俺たちはさっさと人混みを抜け、ギルドに到着する。すると、ギルド職員も全員が勇者のことを見ていた。

 ちょうどよくリリーもいたので、話しかける。


「勇者様は大人気のようだな」

「あ! アルフレッドさん、戻ってたんですか?」

「今戻ってきたところだ。それと、ギルマスに話があるから呼んできてくれ」


 リリーはギルマスのいる方に走っていく。どうやらギルマスまで勇者を見ていたらしい。勇者の人望がチート級なんだが。人気ありすぎだろ。


「ああ、お前らか。どうしたんだ?」

「少し話がある」

「ほぉ、なにやら発見があったらしいな」


 口元を歪めて楽しそうに言ってくる。そんなに楽しい話じゃないんだがな。

 俺たちはギルド二階の個室に案内され、ギルマスと対面して座った。


「それで、何がわかったんだ?」

「〈始まりの森〉に魔族の痕跡があった」

「魔族だって!? それってつまり……」

「魔王がなにか企んでるんだろうな」


 魔物を操る魔法。この消失事件がそのためのものだとしたら、Aランクの魔物が魔王の手下になってるってことになる。

 ただ、この情報は簡単には漏らせない。最悪の場合、俺が魔王と繋がりがあるのではないかと疑われることになる。

 そんなことになったら教国は、俺は速攻で拷問にかけ、情報を吐き出させようとするだろう。


「なんで今まで証拠が発見されなかったんだ……」

「うまく隠蔽されてたからな。俺でも見つけるのが大変だった」

「なるほど、確かに何かしらは企んでそうだな」


 これで王国も、動かざるを得ないだろう。国が本格的に魔王に対抗したら、何かが起こっても対応が早くなる。結局それが、被害を最小限に抑える一番の方法だ。


「これで依頼達成だな?」

「そうだな。こいつが報酬だ」


 金貨十枚の入った袋が、机の上にドスッと置かれる。


「こんなにいいのか?」

「大切な情報を持ってきてくれたんだ、これでも少ないくらいだぞ?」

「なら、もっと多く出せ」

「意外と貪欲だな。ほらよ」


 追加の金貨五枚が、ギルマスの懐から投げられる。


「…… またお金増えた」

「これで当分生活には困らないな」

「ケッ、お金持ちは羨ましいねぇ」

「ギルマスの仕事も、金は十分に貰えるだろうに」

「遊んで暮らせるような大金は手に入んねえよ」


 金貨が二百枚以上あれば、軽く一年は遊んで暮らせる。まあ、そんなことする気はさらさらないがな。


「さて、そろそろ帰るぞ」

「…… 今日も相部屋」

「そうだった……」


 完全に忘れていた。また同じベッドで寝るのかよ。

 オリヴィアは相部屋だけは譲れないみたいだからな。俺が慣れるしかないのか……


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 《人狼》


 人狼とは、狼系統の魔物が一定以上の知恵を持った状態で進化すると生まれる魔族。

 人間と人型の狼の姿という、二つの形態を自由に変化できる。ただし、人間の姿でも犬歯や体毛はある状態なため、隠さないと人間には見えない。


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