勉強も教えられるなんて、さすがはお兄様です
俺は教会から帰ってきてから、毎日剣術の稽古をしている。使っている剣の種類は、片手半剣だ。
日の出ともに起きて、朝食の時間まで庭で素振りをする。そして、午後も家にいる騎士と稽古をする。
そんな毎日を送っている。
ちなみに、俺にもう一人の兄弟ができた。妾との子で、名前はフィリップ、金髪碧眼なのが特徴だ。
なんだか俺だけ黒目黒髪だな。転生者だからだろうか?
そしてシャルは、今やすっかりお兄ちゃんっ子になっていた。
ことあるごとにお兄様だ。とても癒される。
今は、空いた時間で勉強を教えている。
従者が教えようとすると、すぐに飽きるらしいのだが、俺が教えると大人しく学んでくれるのだ。
これがお兄様パワー。「勉強も教えられるなんて、さすがはお兄様です」とか言われてみたいものだ。
だが、お祖母様は、俺にシャルが懐いていることをよく思っていないらしい。
というか、教会から帰ってきて以来、何かあるたびに文句をつけてくる。
一方でソフィは、教会の魔力測定ですさまじく優秀な成績を叩き出していた。
まず、精霊玉が赤、青、緑の三色に激しく光り輝いたそうだ。
つまりは魔力量が凄まじく多く、三つの自然魔法全てを使えるというわけだ。才能さえあれば雷も氷も使えるようになるだろう。
まさにチート級。異世界転生とかしてそうである。
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そんなこんなで三年が経った。
そして今日、シャルが教会に行く。
どんな結果になるか楽しみだ。きっといい結果を出せるだろう。なぜなら、シャルはいい子だからだ。
「お兄様ー! 行って参りますー!」
「行ってらっしゃい、シャル! 気をつけるんだよ!」
「はい!」
俺の今日の午後は、ソフィと久しぶりに二人で遊ぶ予定だ。最近はシャルもまぜて三人で遊んでいたから、二人で遊ぶ機会がなかなかなかった。
午後の予定を空けるために、今日の稽古は午前中にしてしまう。
三年間、毎日稽古をしていれば闘えるようになるもので、今では騎士と互角に打ち合うことができる。
片手半剣は扱いが難しい剣だが、それにも慣れてきた。
「アル君ー!」
「ソフィ!」
ソフィが手を振りながらこっちに走って来た。そして、俺の目の前で盛大に転んだ。
「きゃっ!」
「ソフィ、大丈夫!?」
「い゛、い゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛い゛!!」
それはもう見事な号泣だった。よく見ると膝を擦りむいている。
「ちょっと待ってね。光の精霊よ、汝らの力を持って、傷を癒したまえ〈ヒール〉」
俺がそう唱えると、膝の傷がみるみる治っていった。
そう、俺は魔力を増加させる訓練を毎日しているため、初級の光魔法なら一日に五回くらいは使えるようになったのだ。
「これで痛くないだろ?」
「ぐずっ、いだぐない」
「よし、なら大丈夫だな」
「うん」
よかった。泣いていたら、せっかくの可愛い顔が台無しになってしまう。
「じゃあ、魔法の練習をしようか?」
「その前に、はい」
タオルで汗を拭いてくれた。
「ありがとな」
「傷を治してくれたから、そのお礼!」
本当にいい子だ。その優しさに、俺はいつも支えられている。
ソフィと一緒に昼食を食べ終え、魔法の練習をする。
やはり、ソフィの魔法の才能は、俺とは桁違いだ。
中級の魔法を詠唱で発動させているのだが、正確に発動しているうえに、何十発撃っても魔力が切れない。
俺はソフィよりも魔力が少ない。しかし、魔力操作はソフィよりもうまい。
魔力は少ない方が抵抗が低くなるため、操作しやすくなるのだ。
魔法の制御も負けてはいないのだが、いかんせん魔力が少なすぎる。さっき一度使ったので、今日はあと四回しか使えない。
なので、途中から自分の体の中だけで魔力を動かす、魔力操作の訓練をしていた。
ちなみに、体の中の魔力を循環させるように操作をすると、魔力の量が少しずつ上がっていく。
俺はこれをすることにより、自分の魔力を増やしているのだ。
これはおそらく、循環する力を鍛えることで魔力を生み出している魔石から、より多くの魔力を取り出せるようになるため、魔力の量が増えるのではないかと、魔法研究家の間では言われている。
今日一日で、ソフィとの才能の差を見せつけられ、少しへこんでいると、
「アル君もいつか、いっぱい魔法を使えるようになるよ!」
と言われた。
子供は素直で羨ましい。俺はひねくれ者だから慰められるが、子供に慰められる俺っていったいなんなんだ……
そう思うと、自己嫌悪に陥ってしまいそうになるのだった。
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教会に行っていたシャルが戻ってきた。
精霊玉の結果はというと、かなりよかったみたいだ。
シャルが精霊玉に触れると、青と緑に強く光ったらしい。多めの魔力に、才能さえあれば氷属性まで使える属性。
俺の件で少し心配していた両親も、安心しきった顔をしていた。
そして、お祖母様も愛おしい孫を見る目をしていた。
俺はあんな目で見られたことないぞ。
挙げ句の果てには、俺と目が合うと鼻で笑いやがった。今のはさすがにイラッとしたぞ。
「お兄様ただいまー」
「おかえり、シャル。ちゃんと大人しくしてたか?」
「うん!」
「そうかそうか、よしよし」
「えへへ〜」
シャルは俺に頭を撫でられると、愛らしい笑顔を見せてくれる。
俺はもう一度お祖母様と目を合わせて、鼻で笑ってやった。お祖母様は顔を真っ赤にして家に戻っていった。
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《魔法の発動》
魔法の発動に共通して言えるのは、体の魔力を操作するための魔力操作が必要となることである。
そして、魔法の発動方法は、主に三種類ある。
まず、特定の言葉によって魔法を発動させる詠唱。
次に、イメージと魔力操作だけで魔法を発動させる無詠唱。
そして、紙などに書いた魔法陣に魔力を流して発動させる魔道具だ。
この三つの方法には、それぞれ良い点と悪い点が、もちろんある。
詠唱は、イメージが必要ないため発動しやすいのだが、初級の魔法で、その魔法に慣れていたとしても、五秒ほどの時間がかかってしまう。最上級の魔法となると、何時間という詠唱時間が必要になる。
つまり、魔法の難易度が上がるたびに、実用からはかけ離れていくのだ。
しかし、ある程度魔力操作が上手くできていなくても、魔法を発動させることができる。これにより、初心者は発動させやすいという特徴がある。
次に無詠唱は、主にイメージで発動させるため、発動時間は一秒程度で済む。最上級は人によって変わるが、数分もあれば十分に発動できる。
こちらの方が、詠唱よりもよほど実戦向きだろう。
だが、魔力操作を完璧に行わなければ発動することができない。そのため、上級者向けだ。
ちなみに魔法師団は、無詠唱で魔法を発動できる者たちが集まっている。
最後に魔道具は、魔力を魔道具に流し込めば一瞬で発動できる。
だが、持つのにはかさばり、一つの魔法しか発動できないという柔軟性の無さが問題となっている。
しかも、魔法陣を描かなければならないので、状況に合わせた魔法を作るのに時間がかかる、という欠点もある。
この魔道具は、どちらかというと生活に使う魔法向けなのだ。
お湯を沸かしたり水を出したりなど、生活に必要な魔法を魔石を使って発動させることができる。
《魔石》
魔石とは、魔力を持った生物の、心臓の近くにある石のことである。
冒険者の主な収入は、この魔石だ。
冒険者が魔物を倒し、魔石を回収する。そして、その魔石を使って、人々は生活をする。
この魔石があるせいで、ディヴェルトでは科学が発展しないのであろう。
それにこの魔石、魔力を持っている生物なら必ず持っているものなので、人族も持っている。
他にも、長耳族や小人族、獣人族なども魔石を持っているため、魔石のために長耳族狩りや小人族狩り、果てには人族狩りまである。
そして、回収された魔石は裏で取引されたり、闇オークションに出品されるのだ。
この世界の闇の一つだろう。
《片手半剣》
バスタードソードと呼ばれる剣である。
斬ることも突くこともできる剣であり、汎用性が高い。
だが、刀身と柄が釣り合うように重心が設計されているため、他の剣とは使い勝手が全くの別物であり、扱いにくい。
そして、汎用性が高いが故に型が多く、重心の特異性もあいまって、使用者が圧倒的に少ない。
長さは一・一メートルから一・三メートル。重さは二キロから二・五キロ。