おかしなオリヴィア
俺たちは、ギルドを出たあとレストランに行き、パスタを食べた。
「うめぇぇ!」
「…… 幸せ、もう死んでもいい」
まともな食事なんていつぶりだろう。うますぎる! ありがてぇ!
「あんたらいい食いっぷりだねぇ!」
「おばちゃん、おかわり!」
「はいよ! いっぱい食って行きな!」
軽く三回はおかわりをすると、お腹がいっぱいになった。
「もう食えねえわ」
「…… お腹いっぱい」
少し食べ過ぎた感は否めない。だが、美味しかったので気にしない。
「オリヴィア、先に宿取っておいてくれ」
「…… わかった」
俺はその間に、冒険者として必要な道具を買ってくる。腰につけるポーチやナイフ、崖を登り降りするための縄なんかも必要になる。
いろいろな場所を回って買わないとだな。
店と店を転々とし、さまざまな買い物を済ませて宿屋に行く。オリヴィアが部屋を取ってくれているはずなので、店主に聞けばいいだろう。
「連れのオリヴィアが部屋を取っていたはずなんだが、俺の部屋はわかるか?」
「ああ、それなら一番奥の部屋だな」
「どうも」
店主に言われた通り、奥に向かう。そして扉を開けてみると、そこにはオリヴィアがいた。
「…… アルフレッド、おかえり」
「なんでこの部屋にオリヴィアがいるんだ?」
「…… 相部屋だから」
「二部屋取っておけよ!?」
「…… ダンジョンでも一緒だったし、問題ない」
そういう問題じゃないだろう。普通男女でわけるだろうに、なぜ一部屋にしたんだ。
「まあ、それはまだいい、だがな…… なんでベッドまで一つなんだよ!?」
「…… 気にしない」
「気にするに決まってんだろ!?」
普通の宿屋のベッド二つ分くらいの大きさのものが、部屋には置いてあった。
「……アルフレッドなら、私に発情しない」
「あのな、そういうわけじゃないんだぞ?」
「…… そうなの?」
「俺に襲われても知らんからな」
「…… お好きにどうぞ」
「いや、受け入れんなよ!?」
いったい、今日のオリヴィアはなんなんだ。調子崩されるな。
「はぁ、まあいい。さっさと体拭いて寝るぞ」
「…… わかった」
返事をすると、オリヴィアはスルスルと自分の服を脱いでいく。白い肌が見え、華奢な身体が露わになる。
「って、今脱ぐなよ!?」
「…… でも体を拭けって」
「片方が拭いてる間、もう片方は部屋から出ればいいだろ? 俺が出るまで待ってろよ」
「…… わかった」
部屋を出て、扉の前に座る。
本当に、オリヴィアに何があったんだ? ダンジョンでは、あんなことは一度もなかったぞ。
そのあと、俺も無事に体を拭き終わり、なぜか、オリヴィアと同じベッドで寝た。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
朝起きると、右腕が動かなかった。
「…… なんだ?」
俺はそれを、無理やり動かそうとする。
「んっ……」
すると、耳のすぐ近くで声が聞こえた。なにかと思い、そちらを見てみると、俺の右腕にはオリヴィアが抱きついていた。
昨日寝た時には離れてたのに、なぜそこにいるんだ、オリヴィアよ。
「おい、オリヴィア起きろ」
「…… んむぅ、アルフレッド、おはよう」
「なんで腕にくっついてるんだ?」
「…… 私、抱き枕がないと寝れない体質」
「ダンジョンでは普通に寝てただろ!?」
そんなの今初めて聞いたぞ。てか、抱き枕とか、この世界にそんなものはないからな。
抱きついているせいで、俺の腕にオリヴィアの胸が当たっている。こう言っちゃ悪いが、オリヴィアってあんまり胸ないんだな。
というか、この状態は気まずい…… なんで俺が気まずい思いをしているんだ?
「とりあえず、腕から離れろ」
「……」
オリヴィアは、名残惜しそうな顔をしながら腕を解放する。
やっと右腕が自由になったが、少し肩が凝ってるな。昨晩ずっと動かせなかったせいか?
「さっさと朝食に行くぞ」
「…… アルフレッド、まだ日の出」
「あ、朝食までまだ時間があるな……」
「…… 散歩にでも行く?」
「お、いいなそれ」
というわけで王都の散策だ。とは言え、日の出では店もほとんどやっていない。やっているのはギルドくらいだろうか?
大通りの人通りも少なく、王都とは思えない光景だった。
「朝はこんなに人が少ないんだな」
「…… 朝に来たことはなかったの?」
朝に学院を出たことは、まったくと言っていいほどない。ヨハンと話すか、剣を振るかの毎日だった。
ヨハン、元気にしてるかな?
「素振りばっかりしてたな」
「…… 剣術バカ?」
「前まではそうだったかもな」
今はそうでもないと思う。だが、ダンジョンにいた時は戦闘の連続だったため、今は少し休みたいだけかもしれないな。
「オリヴィアは、朝はなにしてたんだ?」
「…… 私は錬金術ばっかりしてた」
「錬金術バカ?」
オリヴィアも人のこと言えないじゃないか。
てか、朝から錬金術って、頭痛くなりそうだな。
「…… 友達いなかったから」
「それはご愁傷様です」
「…… でも、今はアルフレッドがいる」
「そいつはよかったな」
「…… うん」
まさかの、オリヴィアもボッチ属性を持っていたのか。
俺と関わりある人ってボッチばっかりだな。どこぞの魔王も含めて。
あいつの場合千年単位だから、根っからのボッチだよな。
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「ぶぁっくしょん!!」
誰かが、私のことを噂しているのかもしれないわ!
魔王である私がくしゃみとか、いったい何年ぶりかなあ。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
宿に戻り、朝食を食べる。おかわりができないが、美味しい朝ごはんをいただいた。
前までは飽きていたパンとスープが、こんなに美味しく感じるとは。時間の経過ってすごいんだな。
今日から、魔物消失事件の調査に向かうことになる。
朝飯を食べたばかりだが、早めに冒険者ギルドに行くとしよう。
積極的な子、大好きです。