やっぱりテンプレは起きなかったよ
目を開けると、そこは石で囲まれた部屋だった。石の壁に石の床、それに石の天井、そして真っ直ぐ前には石の階段がある。
長らく放置されていたのか、ツタやコケがそこら中に生えていた。
「…… ここが遺跡?」
「そうみたいだな。あの階段を上がれば、森に出るはずだ」
階段を上がっていくと石の扉があり、そこを開ける。すると……
「おお……!」
目の前には森があった。木の葉の間から、日の光が差し込んでいる。
久しぶりの陽気を浴びて、喜びで心臓のあたりがギュッと締め付けられる。
「やっと…… 出れたぞー!!」
「…… 出れたー!」
オリヴィアと抱き合って喜びを共感し、しばらくの間、そこで森の風景や日の暖かさを満喫した。
何年もの間、洞窟という殺風景な場所にいたため、草の緑が映えて見える。それに、差し込んでくる光が心地よい。
俺たちは、長い時間をかけて森を楽しんでから、移動を開始した。
町に入った時、俺の左目は見られると問題が起きるため、オリヴィアの錬金術で、革製の黒い眼帯を作ってもらった。
「本当に、王都の目の前の森だったな」
ここも初心者向けダンジョンで、Fランクの魔物ばかりが出現する。初心者冒険者が最初によく狩りに来る場所なので、まさに鉄級冒険者の始まりの森なのだ。
魔石の入った袋を背負い、王都の入り口の門を通ろうとする。
「おい、お前ら、止まれ」
「なんだ?」
「何をしに王都に来た?」
「俺たちは旅をしててな。ここに来ておかしいか?」
王都にも門番はいるため、何かしら入る理由を考えなければいけなかった。
門番は俺たちを見定めるように見て、特に怪しいところがないことを確認し、王都に入れてくれた。
「…… 王都、初めて来た」
「無駄に人が多い場所だぞ」
口ではそんなことを言ったが、久しぶり帰ってくると、その人の多さが懐かしい。慣れれば、またうざったくなるだろう。
「…… これからどうするの?」
「冒険者になろうと思ってる」
「…… 魔王を倒すため?」
「それもあるが、純粋に、なってみたいってのが一番の理由だな」
「…… 異世界転生に、冒険者は必須」
「よくわかってるじゃないか」
ずっとやってみたかったんだから、別になっても構わないよな?
俺たちは、真っ直ぐ冒険者ギルドに向かう。
王都の冒険者ギルドは、アバークロンビー領のものよりも大きく、人も多かった。
中に入ってみると、掲示板の周りには冒険者が集まっている。ここは、いつも掲示板が依頼で埋まっているのだろうか?
「なにかご依頼ですか?」
受付嬢が用事を聞いてくる。昔にもこんなことあったな。俺は、依頼人とよく間違えられるようだ。
「…… 冒険者になりに来た」
「俺たち二人を登録させてくれ」
「ガハハハ! 兄ちゃんたちよぉ……」
おお! どうやらテンプレがやっと起きるらしい。
前来た時には起こらなかったからな。どんなこと言われるか、ワクワクドキドキだ。
「なんだ?」
「魔物の討伐行くときは気をつけろよぉ〜。冒険者は、死んだら元も子もないんだからなぁ〜」
なんだよ、普通にいい人かよ。いや、いい人で残念がるってのもおかしいな。
「ご忠告感謝する。そちらも、酒は飲み過ぎないようにな」
「ガハハ! 酒は昼から飲んでなんぼだろ!!」
それは体に悪いと思う。いい人なだけに、少しだけだが心配してしまった。
「ええと、登録でございますね。では、こちらの紙に名前と特技を書いてください」
「わかった」
「代筆はどうしますか?」
「オリヴィアはいるか?」
「…… いらない」
「なら、代筆は必要ない」
「かしこまりました」
名前か…… アバークロンビーを書いたらダメだよな。アルフレッドでいいか。
隣で書いているオリヴィアの紙をのぞいてみると、そっちもオリヴィアだけにしていた。
あとは特技だが…… 光魔法と剣術でいいな。
書き終えた紙を、受付嬢に渡す。
「こちらでよろしいですね? 少々お待ちください」
と言って、受付嬢奥の方に行ってしまった。おそらく、ギルドカードを作ってくるんだろう。
「オリヴィアは特技なんて書いたんだ?」
「…… 風魔法」
「それだけ?」
「…… 闇魔法はなるべく隠しておく」
「なら、俺も光魔法隠せばよかったかな?」
「…… あんなのに正直に書いても、情報漏えいするだけ」
普通に書いてしまったが、まあいいか。どうせ、ヒールかシールドくらいしか使わないし。
「お待たせいたしました。こちらがギルドカードになります」
十分ほどで、受付嬢が戻ってきた。
「どうも」
「頑張ってくださいね!」
この営業スマイルは、どこの冒険者ギルドの受付嬢でもしっかりしてるな。さすがは信頼第一の職場だ。
ちなみにギルドには、あまりに態度がひどい場合、登録を取り消されることがある。ギルドは依頼を達成するという信頼が必要になるので、その最低限が守れる冒険者が必要なのだ。
まあ、態度が悪くても、依頼を受けずに魔石ばっかり取ってくる冒険者とかは、割といる。
「あ…… 魔石も売りに来たんだった」
「でしたら、買い取りますよ。どこにありますか?」
「ここにたくさん」
俺は袋をカウンターに置き、中身を受付嬢に見せると、受付嬢は笑顔で固まってしまった。
魔石はすべてAランクの魔物から取ったものだ。まあ、確かにこんなにあれば、驚くのも無理はない。
それにしても笑顔で固まるとは、この人なかなか面白いな。
「大丈夫ですか?」
「………… はっ! だ、大丈夫です! ちょ、ちょっとこちらに来てください!」
ギルドの裏に手を引かれて連れていかれる。
どうやら裏は、解体場になっているらしい。魔物の素材がわんさかとある。
「ガランさん! た、大変です!」
「おお、どうしたリリーの嬢ちゃん」
ガランと呼ばれた大男は、魔物の解体を一度止めてこちらを向いた。ついでに、この受付嬢はリリーというらしい。
「み、見てください! こんなに魔石が!」
「あ? 魔石なんていくらでもここに…… なんじゃこりゃあ!?」
いきなり大声出すから、こっちが驚いたじゃないか。というか、そんなに驚くほどのものでもないだろう?
「あ、あんた! こんな量の魔石、どこで手に入れた!?」
「いや、普通に魔物を狩ったんだが?」
「どこで!?」
「詳しくは言えないが、とあるダンジョンだ」
「そんなバカな……」
Aランクの魔石なんて普通に手に入るだろ。俺たちが持ってきた量は確かに異常だが、ありえない量じゃない。
「…… なにかあったの?」
オリヴィアがそんなことを聞く。確かに、なにかないと、こんなには驚かないだろう。
「実は、最近ここらへんのAランクの魔物が突然消えたんだ。ギルドとしても調査しているんだが、まったく見当たらない」
なるほど。それならあの驚きようも納得できる。
「原因はなんなんだ?」
「不明だ。なにもわかっちゃいない」
「へぇ、まあとりあえず、この魔石を買い取ってくれ」
「わ、わかりました」
魔石の数は五十個あり、一つにつき金貨五枚。合計は金貨二百五十枚だった。一気に大金持ちになったな。
「…… お金、いっぱいになった」
「これでなんでも食えるぞ」
「…… パスタ食べたい」
「じゃあ、食べに行くか」
ダンジョンにいる間は、魔物の肉ばっかりで飽き飽きしていたから、美味しいものが食べられるのは嬉しい。
「ちょっと待ってくれ、あんたら何級だ?」
「さっき登録したばかりだから、鉄級だが?」
「リリー、銀級に上げてやれ」
「え!? で、ですが……」
「確か、この件についての依頼は、銀級以上じゃないと受けられなかったはずだ。Aランクの魔物を狩れるなら、調査もできるだろう?」
どうやら、Aランクの魔物の捜索依頼を出されるらしい。面倒だが、飛び級できるのは楽でいいな。
「おい、あんたら、ギルドからの指名依頼だ。調査を頼む」
「あんたにそんな権限あるのか?」
「なに言ってんだ? 俺はギルドマスターだぞ?」
「…… ギルドマスターだったんだ」
「なんだと思ってたんだよ!?」
「「解体屋のおやじかと思ってた」」
「ひどいな!?」
オリヴィアと俺は、ボケる時だけは息がぴったしになるらしい。それと、ツッコミに既視感があるが、なにも気にしないでおこう。
「依頼は受けよう。成果が出るかはわからんがな」
「そんなのハナから期待してねえよ。ただ、こっちも人手不足でな。みんなAランクを恐れて、調査に行かねえんだ」
ギルドも大変なんだな。
それにしても、Aランクの魔物が消えるか。何か嫌な予感がするな。