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初代魔王のお願い

いつもより少し長めです

 一日休息を取り、魔法陣の前に立つ。


「オリヴィア、覚悟はいいな?」

「…… 大丈夫」

「よし、じゃあ合図したら同時に飛び込むぞ」

「…… わかった」

「せーの――」


 俺たちは、息を合わせて、魔法陣の上に同じタイミングで乗る。

 すると、魔法陣が銀色に輝きだし、目の前が真っ白になった。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 目を開けると、そこは和室だった。

 畳が敷いてあり、部屋の中心にはちゃぶ台が置いてある。そして、障子張りの戸がついており、そこからは日の光が差し込んでいた。


「日本っぽいな」

「…… 日本みたい」

「「え?」」


 おいちょっと待て、なぜオリヴィアが日本なんて単語を知っているんだ?


「「もしかして……」」

「そうなんです! お二人はどちらも転生者なのですよ!!」

「「いや誰だよ!?」」


 いきなり戸が開いたと思ったら、謎の女が部屋に飛び込んできた。

 黒髪で、赤い目に赤縁のメガネをしている少女で、年齢はだいたい二十歳くらいだろう。髪を後ろで一つ結びにしていて、腰あたりまで髪が届いている。


「申し遅れました! 私は初代魔王にして、日本からの転生者! クラリスという者です!!」


 クラリスさんだそうだ。とても元気がいい。洞窟ばっかりで暗くなり始めていた俺たちには、うるさいくらいのテンションだな。


「…… うるさい」


 オリヴィアも同じことを考えていたか。まあ、うるさいというか、うざいんだが。


「ひどいです! というか、そこの男の人! 今絶対に失礼なこと考えてたでしょ!!」

「カンガエテマセンヨー」

「カタコトすぎるでしょ!?」


 本当に鬱陶しいな。だが、そんなことより、さっき気になるワードを言っていたな。


「初代魔王と言ったな?」

「あ、はい、そうなんですよ! 私が初代魔王なんです!」

「なぜ、こんなところにいるんだ?」


 初代魔王は千年前に勇者に討伐されたはずだ。こんな所で生きているというのはおかしい。

 俺は普通の目と魔眼の両方を使って、初代魔王と名乗った少女を観察する。


「あうぅ、怖いです。そんなに睨まないでください……」

「…… ほんとに魔王?」


 オリヴィアがそんなことを口にするが、実にもっともな疑問である。俺も、こんなのが魔王とは思いたくない。

 だが、魔力量や魔法適性を見ると、とんでもない才能の持ち主だということはわかった。


「それは本当ですよ! なにせ、このダンジョンを作ったのも私なのですから!」

「こんなのが作ったのか……」

「…… 魔王のイメージが崩れた」

「お二人ともひどいです!!」


 てか、こんな残念なやつが日本にもいたのか。魔王としても残念だが、人間としても残念だな。

 あれ? それって結局のところ、生物的に残念なんじゃね?


「はぁ、まあいい。それで、なんで死んだはずの魔王がこんな所にいるんだ?」

「ええとですねー、実はいろいろありまして、私が倒されることはなかったんですよ」

「出回っている本は、偽の物語ってことか?」

「ええ、そうです。私は逃げ延びて、このダンジョンを作って待っていたんですよ。ここに日本人があらわれるのを……」

「…… なんで日本人なの?」

「え? 日本の話がしたいからですが?」

「斬るぞ?」

「わわわ! 冗談ですから! 剣を抜かないでください!」


 本当に話したいだけでこんなダンジョン作られたら、攻略側はたまったもんじゃない。

 もし、本当にそうだったのなら絶対に斬る。


「…… アルフレッドって、転生者だったんだ」

「オリヴィアこそ。驚いたぞ」

「…… 私も驚いた。仲間を見つけた気分」

「あの〜、私も転生者なんですが〜」

「「そういえばそうだった」」

「素で忘れないでください!!」


 となると、ここには日本人が三人も集まっているのか。いろいろと募る話もありそうだな。


「それで、なんでダンジョンなんか作ったんだよ」

「試練を与えるため、ですかね。私からのお願いには力が必要になるので」

「…… なんのお願い?」

「ええとですね、今の魔王を倒してほしいんですよ」

「なんでだ?」

「結論から言いますと、現魔王は魔族だけではなく、魔物を操ろうとしています。それを食い止めるためです」

「…… 魔物を操る?」

「ええ、現魔王は千年前、私の腹心だった男です。彼は魔力量だけは圧倒的でしたが、魔法がほとんど使えませんでした」

「確かに、現魔王は魔法を使えないと聞いたことがあるな」

「ですが彼は、一つだけ特異魔法を手に入れました……」

「…… なに?」

「別の生物に、自分の魔力を送り込み、操る魔法です。それを使って、この大陸の魔物すべてに自分の魔力を注ぎ、操ろうとしています」


 別の生物に自分の魔力を送り込もうとすると、ほとんどの場合、どちらの生物の魔力も拒否反応を起こす。そのため、まともに魔力を入れることはできないのだ。

 まあ、魔力操作の技術によっては、少量の魔力なら入れられないこともないのだが、

 だがもし、無制限でそんなことができる魔法を手に入れ、しかも魔力量だけは圧倒的ときたら、とんでもなく厄介な能力だな。


「状況はわかった。だが、なぜ魔王であったお前がそんなことを頼むんだ?」

「私が平和を求める魔王だからですね!」

「どういうことだ?」

「私は、当時勇者だった人間に交渉したんですよ。魔族と人間、どちらの種族も協力して生きようと」

「…… できたの?」

「交渉自体は成功しました。ですが、魔王を討ち取らないというのは教国が許さず、私だけは殺されることになりました。ですが、勇者は私を逃し、今の今までこのダンジョンの中に住んでいたわけですね!」

「なるほど。御伽噺の内容は、勇者が教国に対して報告した嘘の話ってところか」

「おそらく、そういうことでしょうね」


 本の中では、魔族も魔王も死んだことになっていたんだが。まあ、時間が経つにつれて内容が変わっていくなんて、情報伝達能力の未発達なこの世界では、よくあることだ。

 真実を簡単に言ってしまうと、魔族は殺されず、魔王は勇者の手によって隠されたっていうところだな。


「それにしても、なんで日本人なんだ?」

「え? だって、転生者だから強いじゃないですか」

「…… それだけか?」

「それだけですよ」

「「「……」」」


 どうやらこの初代魔王さんは俺に殺されたいらしい。

 横を見てみると、オリヴィアも魔法の準備を完了させていた。


「あ、あのお二人とも…… なんでそんなに殺気立っているんですか……?」

「つまりお前は、転生者だから大丈夫だろうと思って、このダンジョンを作ったと?」

「ええ、そうですけど……」

「オリヴィア」

「…… わかってる。いつも通りにやる」


 一瞬の間をおいて、俺は魔王に斬りかかった。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「ぜぇぜぇ、はぁはぁ。酷い目にあいました〜!」

「俺は今、清々しい気分だよ」

「…… 爽快だった」

「本当にお二人とも酷いです!!!」


 いやだって、俺たちここで死にかけてるし。このくらいは仕方ないよね。


「…… 私はこのダンジョンで両脚を失った。アルフレッドが来なきゃ、死んでた」

「あうぅ、ごめんなさい……」

「てか、あのトラップは、転生者以外には発動しないんだよな?」

「ええ、そうですよ」


 となると、俺のせいでソフィは巻き込まれかけたのか。

 悪いことしたな。戻ったら謝らないと。


「ははぁ〜ん。その顔は、もしやコレですね?」


 クラリスは右手の小指の立てて言ってきた。普通に「恋人ですね?」っては言えないのか?


「どこかの誰かさんのせいで、もう何年も離れ離れだがな」

「うぅ、本当に申し訳ないです……」


 まあ、このダンジョンは嫌な思い出もあるが、魔力を手に入れるちょうどいい機会でもあった。

 そのため、そこまで初代魔王を恨んでいるわけでもない。

 攻略し終えたのなら、早くここから出て行ってしまおう。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 俺とオリヴィアはここを出るために準備中だ。装備の修復やら、荷物の整理やらをしている。

 今度は外に出るため、ある程度大きめの革袋を作り、そこに魔石をいくつか入れておいた。冒険者ギルドで売る用だ。


「魔王を倒す以外に、なにか頼みたいこととかないのか?」

「特にないですね。もう会えるかどうかもわかりませんし……」

「ならいいか」

「反応うっす!? もっと悲しい顔する場面ですよ、今のは!?」

「知らん。面倒ごとを一つ聞いてやるだけでありがたいと思え」

「冷たいですねー、そんなんじゃ彼女に振られちゃうますよ?」

「彼女にこんな対応したことないから、そいつは無駄な心配だな」

「つまり私に対してだけですか!? 本当に酷いですね!?」


 ソフィ、元気にしてるかなあ。俺がいなくなって寂しがってるだろうなあ。


「…… ここ抜けたら、どこに出るの?」

「王都の近くの森の中にある遺跡です」


 どうやら脱出はできるらしい。何年ぶりの外だろうか? 少し緊張してきた。

 俺たちはワクワクしながら、クラリスの用意した魔法陣の上に乗る。


「あ、これ私の連絡先です。困ったら電話してください」

「なんでスマホがあるんだ!?」

「魔道具ですよ。家臣に作ってもらったんです」


 奇妙なスマホ型の魔道具を渡された。こんなものまで作っていたのか。発想力だけ現代チートみたいなもんだな。

 少しだけこの茶の間が名残惜しくなってくるが、いつまでもここにいるわけにはいかない。


「それじゃあな、また会おう」

「…… さよなら」

「ええ! お元気で! また会う日までー!」


 その言葉を最後に、俺の視界はまた真っ白に染まっていった。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 《魔王》


 魔族の中から最も優秀な者が貰い受ける称号。

 基準はさまざまで、戦闘力はもちろん。統率力や頭の良さも含まれる。

 魔王はすべての魔族を従える能力を持つが、魔物を従えることはできない。

 魔王が死ぬと、即座に次の魔王が選定されるようになっている。


 《勇者》


 人間の中から最も優秀な者が貰い受ける称号。

 魔王とは違い、戦闘力と人望によって教国が選定する。

 魔王を倒すための、人類の希望。

 魔王が本格的に動き出す時に選定される。

残念キャラって、なんかいいよね

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