攻略
俺たちは、二十一層から四十九層までを楽々突破していた。
元から魔力が多く、攻撃系の風魔法が使えるオリヴィアと、近接戦なら、身体能力と動体視力で負けなしの俺。
コンビを組むと、ほとんど隙のないチームになっていた。
なので、道中はBランク、ボス部屋はAランクの魔物しかでない四十九層までは、余裕で倒せていた。
だが、たとえ戦闘に関しては余裕でも、この洞窟はとんでもなく広い。探索や階段探しに手間取り、結局はかなりの時間がかかる。
どのくらい経っているのかは、正確にはわからないが、自分の身体の成長を実感できるほど時間が経過しているので、少なくとも一年は過ぎているだろう。
「そういえば、あの洞穴の扉は、どうやって作ったんだ?」
オリヴィアが閉じこもっていた場所の扉のことである。
「…… 錬金術で作った」
「ああ、なるほど」
錬金術とは、賢者の石を作り出すことを目標にした、物質を一から作り変えることができる技術だ。
前世での錬金術は科学的なものだったが、この世界の錬金術は魔法科学だ。
それによって、岩の壁を扉に作り変えたらしい。
「錬金術、使えたんだな」
「…… 私の家が、昔から錬金術師を輩出してる」
錬金術師の家系だったのか。
それにしても、錬金術師で魔法師とは、パートナーが優秀でなによりだな。
しばらく歩いて、俺たちが五十層にたどり着き、ボス部屋に入った時、部屋の中心にはSランクの魔物、レッドドラゴンがいた。
「ようやくSランクのお出ましか」
「…… 今回は最上級も使えそう」
「じゃあ、いつも通りやるぞ」
いつも通り俺は剣を構え、オリヴィアよりも前に出る。
俺は、レッドドラゴンが瞬きをした一瞬で間合いを詰め、右の翼を斬りつけた。切断はできなかったが、これで飛べはしないだろう。
いきなり翼を斬られたという驚きと痛みで、怒り狂ったレッドドラゴンは、俺に向かって炎のブレスを連続で放ってきた。
右へ左へと避けるが、ついには避けきれなくなり、バリアを展開して直撃を防ぐ。
バリアの中から隙を伺い、ブレスの頻度が少し下がったところで、俺はまたレッドドラゴンの方に走りだす。
レッドドラゴンは、接近した俺に向かって噛み付いてくるが、俺はそれをしゃがんで避け、腹を剣で切り裂いた。
その傷の痛みで、レッドドラゴンがもがいている間に、オリヴィアが魔法の準備を完了させ、俺はレッドドラゴンから離れた。
「〈テンペスト〉」
風魔法の最上級魔法〈テンペスト〉により造られた嵐が、飛べなくなった憐れな竜を呑み込む。
魔法が終わったころには、レッドドラゴンは肉塊と成り果てていた。
「二人で戦えば、結構楽に倒せるな」
「…… うん、私たちは強くなった」
俺の中でのSランクの魔物と言ったら、傷一つつけられないというイメージが割とあったのだが、普通に倒せた。
ここに来る前の森にいた四獣なんかも、今のレッドドラゴンと同じくらいの強さだったしな。
俺たちは、魔物を倒しつつどんどん進んで行く。
五十層のボスを危なげなく倒すことができても、やはり探索にだけは時間を取られていた。
五十一層からは洞窟がさらに広くなり、階段も障害物に隠れるように設置してあるため、とんでもなく見つけにくくなった。
俺たちは階段を発見した途端、毎回ガッツポーズをして喜びながら進んでいった。
七十層からは、道中の魔物がSランクになり、苦戦を強いられるかと思った。
だが、俺はすでに、Sランクなら一人で相手をしても倒せるので、オリヴィアを守るように立ち回れば、あまり苦戦することもなかった。
だが、Sランクの魔物に囲まれることもたまにあり、そこでは苦戦を強いられた。
その時に使った戦法は、まず俺のバリアで魔法の準備をしているオリヴィアを守り、俺が魔物に突っ込んで、受けた傷をすべて治しながら戦うというものだ。
俺の体はいくらでも治るが、破れた服はどうしようもない。捨てようかと悩んだが、オリヴィアが錬金術を使えることを思い出し、直してもらった。
「ダンジョン攻略は困難ばかりだな。特にこの洞窟の広さは異常だ」
「…… 一階層の探索だけで、一ヶ月以上かかってる」
「いったい脱出するまでに、何年かかるんだろうな……?」
「…… 早く日の光を浴びたい」
確かに、ここ何年かは日の光を浴びていないな。
最近は巨大樹のあった森に帰りたくなってきた。太陽が恋しい。
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九十層からは本当にきつかった。
洞窟の広さは、七十層からあまり変わらなかったのだが、おかしなトラップが多かったのだ。
回転扉を抜けた先に階段のある層や、すべて行き止まりの迷路の層、挙げ句の果てには、このだだっ広い洞窟の中から鍵を探せ、なんて層もあった。
精神的に死ぬかと思った。途中で発狂しかけて、魔法のこもった拳で壁をぶち抜いて、無理やり進もうとしたこともあった。
だが、いくら壁を壊しても、凄まじい速度で穴が塞がるので、結局はダンジョンの思い通りに進むこととなった。
ここを作ったやつは、絶対に性格がひねくれている。
いやひねくれるなんてもんじゃない。ねじれすぎて、メビウスの輪のような性格をしているに決まっている…… 意味がわからんな。
それから幾星霜…… 俺たちの前には今、百層へと続く階段がある。
「ここを降りていけば、百層のボスか」
「…… 終わりかな?」
「どうだろうな? また別の所に転移かもしれない」
実際に、俺は巨大樹の森からこの洞窟に転移したので、転移する可能性の方が高い気がする。
「…… そしたらまた、そこを攻略する」
「長くなりそうだな」
俺は、遠い目をしながら答えた。
「…… 仕方ない」
確かにどうしようもないことだ。さっさと覚悟を決めて、階段を降りよう。
どんな強力な魔物が待っていることやら。緊張もあるが、楽しみでもある。
戦闘狂ではない。ただ剣術バカなだけだ。
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《錬金術》
錬成陣を使って精霊の力を行使することにより、物質を一から作り変える技術。
卑金属を貴金属に変えたり、物質の形状を変えたりなどができるため、様々なことに用いられる。
賢者の石を作ることを目標にしており、錬金術師は日々研究を続けている。
《賢者の石》
卑金属を、ミスリルやヒヒイロカネなどの、魔法金属に変えることのできる霊薬である。他にも、生物に不老不死を与える物であるとも言われている。
いまだに、これを完成させた錬金術師はおらず、存在しているかは不明。