私、気になります
某学園謎解き小説が、私は大好きなんです。
急いで戻ってきて巨大樹を見たとき、俺は唖然とした。
なんと、巨大樹の幹がパックリと、中心から二つに裂けていたのだ。そしてその中には、魔法陣がこちらを向いて浮かんでいた。
「この中に入れってことか?」
なら、ここで一旦寝よう。正直、魔力枯渇と疲労でまともに動けん。このまま言ったら、すぐに死ぬ未来が見える。
だがその前に、ずっとやりたかったことをやらせて貰おう。この四獣の魔石、絶対食ったら魔力増やせるだろ。
また体が悲鳴をあげるかもしれないが、まあそれは仕方ない。
魔法陣の先がモンスターワールド的な所だったら、それこそ魔力がなくなって死ぬからな。
欲を言えば、これで脱出ってのが一番いいんだが。
俺は正面に魔石を四つ並べ、あぐらをかいて座る。
「いただきます」
まずは白虎の魔石からいただく、俺の左腕を喰いやがってこの野郎。
全部飲み込むと、体内の魔力がまた暴れ始めた。だが体に痛みは生じない。あれは最初に食った時だけなのか。
魔力を無理やり循環させて、暴走を防ぐ。次第に吸収した魔力も自然と循環し始め、安定する。
よし、この調子で全部食っていこうか。
魔石をすべて取り込んで、俺の魔力は相当なものになった。さっきまで枯渇していた魔力が、戻るどころか増えているくらいだ。
身体能力の方は変わってなさそうだな。変化をまったくを感じない。サイクロプスの魔石を食った時は、体が軽くなったように感じたんだが。
左目にも変化はないな、さっきまでと変わらず、魔力が見える。自分を見てみると、さっきよりも魔力が増えているのが確認できた。輝きが、さっきの何十倍にも膨れ上がってる。
さて、ここで寝るのも最後だな。俺のことを守ってくれていた巨大樹よ、ありがとう。明日でお別れだ。
俺はそのまま巨大樹に背中を預け、目を閉じた。
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朝はやはり、日の出とともに目を覚ます。習慣は、そう簡単には崩れないのだ。
巨大樹の方を見ると、しっかり幹が半分に割れていた。もちろん中には魔法陣が浮いている。
あの魔法陣、どこかで見たような気がしてたのだが、おそらく俺をここに連れてきた転移魔法陣と同じものだろう。ここから、いったいどこに転移させられるのやら。
「よし!」
覚悟は決まった、どこにでも転移しやがれ。これで脱出とか言ったら、表紙抜けだな。
俺は、巨大樹の中の魔法陣に向かって進んでいく。
魔法陣をくぐり抜けると、一瞬で風景が変わった。どうやら洞窟のようだ。
後ろを振り向くと、後ろは行き止まりになっていた。森の方には戻れないらしい。
「暗闇の洞窟…… ではないみたいだな」
所在地不明の謎の洞窟だった。横幅がかなり大きく、俺が二十人は手を広げて並べるだろう。それに比例するように、天井が見えないほどの高さがあった。
このくらい暗くなっていると、全身真っ黒な装備を着てよかったと思う。ちょうど保護色になっているからだ。
「脱出までは、まだ長いようだし、ゆっくりと進んでいきますか」
洞窟を進んでいくと、グールが三体ほど出てきた。
グールは、アンデット系の魔物でランクはB。特徴として、人肉以外を食べない。
こんな所で、よく今まで生きてきたな。まともに人肉が手に入るとは思えんのだが。
グールは怪力だが、動きは速くない。三体並んで襲ってきたので、俺から見て一番右のやつから狙う。
まず、グールの右側を通り抜けつつ抜刀する。その勢いのまま横薙ぎに剣を振って、上半身と下半身をさよならさせた。
次に、こっちを振り向いた真ん中のグールの首を刎ね、反応の間に合っていない最後のグールを縦に斬り裂いた。
Bランクなら、ほとんど魔力を使わなくても十分だな。まあ、魔力の消費は一番気にするところなので、苦戦して回復魔法を使うよりも全然いいことだ。
この調子で進んで行こう。
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洞窟に入ってから一週間が経過した。わかったことが二つある。
まず一つは、まずこの洞窟が階層型だということだ。
一週間ずっと探索していたのだが、どうやら、どんどん下に降りていかなければいけないらしい。短いと嬉しいな。
もう一つは、各階層に水があるということだ。天上から水が降ってきて、それが小川になって流れている。
上の階層から降っているのかはわからないが、水があることはラッキーだった。なければ、自分の尿を浄化して飲むところだったからな。水魔法が使えないのは、なかなかに痛い。
食料の方も、魔物を食うことでなんとかなっている。ここは、アンデット以外の魔物がいるので助かった。
食えるものがなくなったら、アンデットの骨でもしゃぶって進むかな。
ようやく九層目から降りる階段を見つけたので、十層目に向かって、階段を降りていく。
十階層はドーム状の部屋で、真ん中にはAランクのキメラが立っていた。
「ボス部屋みたいなもんか?」
キメラに聞いてみるが、唸り声で返された。コミュニケーションは大事だから覚えとけよ。なんて思っていると、キメラは真っ直ぐ俺に突っ込んできた。
「知能が発達してない魔物って、突っ込むことしか能がないよな」
俺は体を横に少しだけずらし、最小限の動きで回避する。そのままガラ空きの脇腹に、剣を下から上に振り上げてやった。
剣は、キメラの腹の肉をあっさりと断つ。
キメラは、腹から臓物をぶちまけながら死んだ。
すると、俺が降りてきた階段とは逆の方の扉が開き、下に降りる階段が出てきた。
「さて、どんどん行きますか」
一応Aランクなので、キメラの魔石を回収し、階段を降りる。
次は十一層目だが、何も変わらずにただの洞窟だ。少しは見た目を変えてくれないと、こっちも飽きてくるな。
ちなみに、探索をする時は迷わないように、右側の壁に沿うようにして動いている。迷路を攻略する時のイカサマの筆頭だな。ただ、こっちは命賭けてるんだし、イカサマくらいは許されるよね。
すると、明らかに人口で加工された壁を発見した。そこはなんと、引き戸になっているのだ。
こんなもの誰が作ったんでしょう? そして、なんでこんなところにあるんでしょう? 私、気になります。
罠かもしれないが、気になるものは仕方がない。戸を開けて、中を確認する。
小さい洞穴のようになっているようだ。奥は暗くて、よく見えない。
「誰かいるのか?」
俺が声を出すと、暗闇の中から息を呑む気配が感じられた。やはり、誰かいるらしい。
俺は剣を引き抜き、洞穴の中に入って行く。そして、暗くなっている方に近づいていくと、
「…… で」
小さく掠れた声で、なにかを言われた。
「なんだって?」
「来ないで!」
女の声が聞こえた瞬間、暗闇の方から中級の風魔法が大量に飛んできた。
「うおっ!?」
俺は急いでシールドを発動させて、風魔法を防いだが、どんどん新しい魔法が飛んできて、なかなか前に進めない。
「来ないで! 私に近寄らないで!」
「一旦魔法を止めろ! 俺は敵じゃない!」
本当に敵じゃないかはわからないが、少なくともいきなり襲うつもりはない。
次々に飛んでくる魔法を、すべてシールドで防ぎつつ、十分ほど待っていると魔法が止んだ。ようやく魔力が切れたらしい。
俺は、奥の方へと進んでいく。
「いやぁ! 殺さないで! 助けて!」
「少し落ち着け。俺は、お前に危害を加える気はない」
女、いや少女は大粒の涙を流し、俺から逃げるように後ずさろうとしていた。だが、うまく逃げられていない。
暗い中でよくよく見てみると、少女には両脚がなかった。
「おいおい、ひどい怪我じゃないか」
「やめてぇ! 来ないでぇ! 誰か助けてぇ……」
ついには頭を抱えてうずくまってしまった。なんか少しだけ、怖がらせてしまったという罪悪感がある。
「はぁ、少し待ってろ。治してやるから」
俺は少女の両脚を、最上級相当のヒールを使って治してやった。もちろん両脚は、にょきにょきと生えてくる。やはり気持ち悪いな。
「もう大丈夫だ…… って、気絶してるし」
仕方ない。少しだけ面倒を見てやるか。
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《グール》
グールとは、Bランクのアンデットの魔物である。
人肉のみを捕食対象とし、それ以外の肉には興味を示さない。
動きが鈍いため、攻撃を避けることが容易い。だがもし当たってしまうと、人間が簡単に死ぬほどの怪力を有している。
《キメラ》
キメラとは、Aランクの魔物で、ライオンの顔に羊の胴体、尻尾は蛇という、複数の動物を混ぜ合わせたような魔物である。
それぞれの部位が意思を持っており、三匹のコンビネーションにより動いている。
素早い動きで敵を翻弄し、ライオンの牙や蛇の毒でトドメを刺す。