見たら分かる、魔法使えないやつやん
俺は三歳になった。
母様の頑張りによって、俺に兄妹ができた。予定通り妹だ。名前はシャーロット。愛称はシャルだ。
金色の髪と目をしているのが特徴で、俺の黒目黒髪とは大違いだった。兄妹間でこんなに変わるというのは、とても驚いた。
他にも、俺に友達ができた。隣の領地を収めている伯爵の長女で、名前はソフィア・バレンタインという。ちなみに女の子だ。
ストレートで銀色の髪に、藍色の綺麗な瞳が特徴的で、俺と同い年である。
初対面の時は人見知りが激しく、バレンタイン伯爵の後ろに、ずっと隠れるようにして俺のことを見ていた。
「ソフィアちゃん、よろしく!」
「……」
こんな感じだ。当時は困ったものである。
だが、それ以降、何度も声をかけることで、なんとか話せるようになった。今では一緒に外で遊ぶような仲だ。
「ソフィアちゃん、外行こ!」
「いいよ!」
と、日が暮れるまで遊ぶ。だいたい月に一回くらいで来ていたのだが……
「ねぇねぇ、ソフィ……って呼んで?」
「え? いいの?」
「うん……」
「わかった! 俺もアルでいいよ!」
「うん!」
という感じで、愛称で呼び合うようになってからは、一週間に一度のペースで遊びに来ている。
ちなみにソフィは恥ずかしがって、俺のことを呼び捨てにできず、アル君と呼んでいる。
恥ずかしがって赤面しているソフィは、かわいかったなぁ。
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五歳になった。
五歳というのは、貴族にとってはとても大事な年で、教会に魔法の適正と魔力量を計測しに行く。
計測には精霊玉という特殊な水晶を使う。
精霊玉は王都にしか無いので、アバークロンビー領からは馬車で移動する必要がある。半日程で着く距離なので、王都に一泊して帰ってくる予定だ。
初めての遠出なので、今日は自然の景色を楽しめそうだ。
父様と母様と馬車に乗って、アバークロンビー伯爵邸から出発する。
「出発ー!!」
「「おおー!」」
父様と母様は、しっかり俺に合わせてくれた。
王都に行くまでに通る大きな道の両側には、森がある。
とても大きな森で、今にも中から動物や魔物が飛び出してきそうだ。
野生の動物がいないかと、俺は興味津々で森を見ていた。
「アル、そんなに森ばかりを見て楽しい?」
「はい。自然は好きなので、見ているだけでも楽しいです」
「そう、乗り出しすぎて落ちないでね」
「分かっていますよ、母様」
母様は心配性だ。俺のことをよく心配してくれる。
ちなみに、父様は何も言わないが、俺が落ちないようにしっかりとこちらを見ている。
意外と心配性なのだ。
これでよく騎士団長が務まるなあ、と思っていたが、よくよく考えてみれば、作戦というのは、冷静に慎重に進めなければならない。むしろ心配性なくらいで丁度良いのかもしれないな。まあ、指揮の事はよく分からんが。
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「……ル、アル!」
「んむぅ〜、何ですか父様」
「王都に着いたから早く行くぞ」
「はい……」
どうやら、いつのまにか寝てしまっていたらしい。
意外と馬車の揺れが気持ちよかった。たまに石を踏んで跳ねていたが。
今日は王都にある、アバークロンビー家の館に泊まる。そして、明日の朝に教会に行くらしい。
今夜はゆっくりと休もう。さっきまで寝ていたが、子供は寝てなんぼだ。
館に着き、中に入ると、そこには執事とメイドがたくさんいて、食堂へと案内された。
食堂では、すでに食事が用意されていて、すぐに夕食が食べられるようになっていた。
前世のホテル並みのサービスをしてくるとは、本当によく洗練されているな。
「「「いただきます!」」」
今日のご飯はシチューとサラダとパンだ。
この世界はパンが主食のため、朝昼晩全てにパンが出る。正直もう飽きた。
食事中にも、執事やメイドが近くにいる。
それで、ふと思ったことがある。それはなにかというと、ディヴェルトの顔面偏差値が、高いということだ。
メイドはみんな可愛いし、執事はみんなカッコいい。
それとも、一定以上の顔が無いと、こういう仕事には付けないのだろうか?
食事が終わり、シャワーを浴びた。体の汚れを軽く流して、水を拭きとる。
「父様、母様おやすみなさい」
「おやすみなさい、アル」
「明日は寝坊しないようにするんだぞ」
両親に挨拶をして、メイドに連れられ、寝室に入る。
ベッドに入ったら、疲れていたのためなのか、すぐに寝むることができた。
明日の魔力の測定が楽しみだ。
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次の日の朝、朝食を済ませてから教会に向かった。
昨日ぐっすり寝たおかげで、目はぱっちりだ。これなら、自分の魔法適正の色を見間違う事は無いだろう。
まあ、もう分かっているようなものなのだが。
「では、精霊玉に触れてください」
神父様が言う。
俺の目の前には、占い師が使いそうな水晶がある。これに触れれば、自分の魔法適正が分かるのだ。
俺が希少な光属性の魔法を使えることに、父様も母様も、きっと驚くだろう。
さっそく精霊玉に手を触れてまる。すると、体から何かを吸い取られる感覚があった。
そして、俺の魔力を吸収した精霊玉が、白く輝く……!
「これは……!」
司祭様が驚きの声を上げる。
父様も母様もさぞかし驚いているだろう。
なにせ、目の前の精霊玉が白く光っているのだから!
だがこれは…… あまりに輝きが弱すぎないだろうか? 確かに白色に光ってはいるが、ほとんど透明に近いぞ?
「司祭様、これは?」
父様も疑問に思ったらしい。やはり、おかしいのか。
「これは……あまりに魔力量が少なすぎますな。これでは、まともな魔法の行使は無理でしょう……」
悲痛そうに司祭様が答える。
やはりそうなのか。確かにこんなに薄く光っているだけなら、輝くっては言わないだろう。
まさか、適正は良好なのに魔力量に問題があるとは。
女神に、一般人並みの魔力はくださいと言っておくべきだった。まあ、ランダムに決まったのだから仕方ないか。
帰りの馬車の雰囲気は暗かった。俺が落ち込んでいるからだろう。
「アル、大丈夫だ。別に魔力が無いって訳じゃない。訓練すれば、きっと使えるようになる」
「そうよ、アル。落ち込む必要はないわ」
父様と母様は慰めの言葉をかけてくれた。良い両親だ。
確かに魔力量は訓練で増やすことができる。努力をすれば、いつかは使えるようになるだろう。
家に着いてから、お祖母様にも結果を聞かれた。
「適正は全ての属性があるのですが、魔力の量が少なすぎて、魔法が行使できないそうです」
と、答えたら絶望したような目で見られた。
魔法の適正が悪いだけでそんな目をするくらい、この世界では魔法が大事なもののようだ。
また少し、気分が落ち込んでしまった。
「落ち込むなアル! 男だろう! 俺が明日から剣術を叩き込んでやる!」
と言いながら、父様は俺の背中を思いっきり叩いた。
「っ! はい! 頑張ります!」
背中を叩かれた事で少し気合いが入った。
魔法がなくても剣術は覚えられるのだ。別に気にやむ必要なんて無いじゃないか。
女神の加護にも、武術のセンスがあるはずだから、上達も早いだろう。
これからは努力しなければ。
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《精霊玉》
精霊玉とは、精霊が好む魔力を発生させる水晶を、丸く加工した物である。
これに触れると魔力を吸われて、魔法の適正に合わせて中の精霊が光る。
〈火〉なら赤、〈水〉なら青、〈風〉なら緑、〈光〉なら白、〈闇〉なら黒だ。
魔力量は、輝きの強さで分かる。