とある学院の一日
ソフィ視点です。
「ふわぁ〜」
伸びをして目を覚ます。時間はまだ日の出だ。
アル君が剣術の稽古を始めた時、この時間に起きているという話を聞いてから、いつのまにか私も真似するようになっていた。
「んん〜、ソフィアさんは毎日早いですわね」
私の反対側のベッド寝ている人も起きた。アル君には言っていないけど、実はアリスさんだったりする。
あの決闘の時、どうしても謝ってほしかったのはこれが原因だ。意外とウマが合うのだ、私たちは。
「おはよー、アリスさん。今日も素振りに行くの?」
「ええ、日課にするって決めましたから」
アリスさんは、目をこすりながら話している。まだ早起きに慣れてはいないみたいだ。私も慣れるまでは大変だった。
アリスさんが素振りをしている間、私は魔力操作の練習をする。魔法の発動速度を上げるためだ。
アル君には、その莫大な魔力量でそれだけ速く操作できてるのなら、十分だろうと言われた。でも、まだまだ速くしたいのだ。なにせ、アル君は私なんかよりもずっと速いのだから。
アル君は気づいていないみたいだけど、私にとってアル君とは目標であり、理想であり、大切な婚約者なのだ。
こんなことを本人に言ったら、「俺のなにが目標なんだ?」って言われそう。私のこと、わかってるようでわかってないんだよねー。
本人はまったくそんなことを思っていないようだけど、昔からアル君はすごい。才能も努力も、どっちも持ってる。魔法が使えないのが、たまにきずだけど。
もしあれで魔法が使えていたら、完璧超人すぎて近寄れなかったかもしれない。魔法が使えないから、かわいげがあるというか、なんというか。
魔法のことだけなら、アル君は私のことを必要としてくれる。いや、アル君は、私がいないと死んじゃうみたいなこといつも言ってるけども……
アル君には悪いけど、私は、アル君に魔法が使えなかったから、胸を張ってアル君の隣にいられる。
そういう意味では、少し嬉しくはある…… って、だめだめ。いずれ旦那になる人の弱点を、嬉しいと思うなんて。悪い女になっちゃうわよ、私。
ガチャッ
「あれ、ソフィアさん? まだ魔力操作の練習してたんですの?」
アリスさんが帰ってきた。考えごとをしていたら、いつのまにかこんな時間になってた。
「うん、ちょっと集中してたんだ」
「なるほど、アルフレッドのことを考えてたんですわね……?」
ど、どうしてわかったの……?
「…… えへへ」
とりあえず、笑ってごまかす。
「惚けるのもいい加減にしてください。
ほら、朝ごはん食べにいきますわよ?」
「はーい」
アリスさんには、すべてお見通しらしい。
アル君もこのくらい鋭ければなあ。いや、それはそれで恥ずかしいかな。
「ほら、また考えてますわ……」
「え、えへへ」
笑ってごまかすしかない。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
食堂は全校共同で、かなり広く作られている。
いったい、食堂のおばちゃんは何十人いるんだろう?
「ソフィ、おはよう」
「あ、アル君、おはよー」
まだ食堂に入って一分も経ってないのに、見つかっちゃった。嬉しいなあ。
アル君には、私を見つけるセンサーがある気がする。昔かくれんぼしても、三十秒で見つかったしね。
食堂のご飯のメニューの主食には、パンの他にも、お米というものがある。
アル君は、この食堂でお米に出会った瞬間、すごい勢いでガッツポーズをしていた。
いったいなにがそうさせたんだろう? と思い、一度食べてみたのだけど、これがなかなかに美味しい。
口に入れた瞬間に香るいい匂いに、ふっくらもちもちとしている噛みごたえ。
今まで口にしたことがなかった、ということもあって、完全に惚れ込んでしまった。
今では、毎朝お米を食べている。もちろんアル君も。
「ソフィは、今日もお米を食べるのか?」
「うん!」
「じゃあこれと…… これ、かけて食べてみろよ」
「わかった」
と言って、卵と醤油を渡された。これで美味しくなるのかな? アル君に紹介された食べ方だから、まずいはずはないんだけどね。
アル君の隣に座り、真似をしてみる。
まず、卵をご飯の上で割って中身をのせる。そして、醤油を少しだけたらす…… って、これだけなの?
「「いただきます!」」
はむっ
……!? お、美味しい!?
「こ、これなに!?」
「‘‘卵かけご飯’’だ」
「た、卵かけご飯……」
すごい…… 簡単な手間で、こんなに美味しいものが食べられるなんて……
明日からの朝食は、これを食べよう。
朝食が終わったら、次は座学をする。数学や歴史の勉強をして、それが終わったら礼儀作法だ。
座学は教室で習うから、ずっとアル君の隣にいられる。家にいたころと違って、毎日一緒にいられるから幸せだ。
アル君の横顔を見ていると、自然と頬が緩んでくる。カッコいいから仕方ないよね。
座学が終わると昼食だ。今日はホットドッグとサラダを食べる。
私とアル君、ヨハン君も一緒だ。
「そういえばアルフレッド、学年一位になってからどうだ?」
「サバイバル訓練のこととも相まって、馬鹿にされることはあんまりなくなったな」
「へぇ、それはよかったじゃないか」
「まあ、いまだに近づいてくるやつはいないし、親衛隊が面倒だがな……」
近づいてくる人がいないのは仕方ないと思う。噂とは、まったく逆の人物だったのだから。
私としては、アル君にはもっといろんな人に接してもらいたいんだけどなあ。
ただ、親衛隊については…… 本当にごめんなさい。
「いずれ友達も増えるさ。親衛隊とは無理だろうがな」
「なんなら、魔道具をみんなの前で作ってみたらどうだ? 興味あるやつなら近づいてくるだろ?」
「もうやったよ。俺の製作の腕を見た瞬間、顔を青くしていたがな」
「なるほど。そうなるのか」
そんなことあったなあ……
確か、とある生徒が、自分の作った魔道具をアル君に自慢してきたんだよね。
アル君がその魔道具を見て、悪い点を指摘するし、挙げ句の果てにはその場で改良しちゃうもんだから、その生徒は顔を青くして逃げ帰っていった。
その現場をみんなに見られて、余計に近寄りがたい雰囲気になってしまっていた。
アル君の友達作りも、前途多難だなあ。
午後は選択科目の実習をする。私は魔法でアル君は剣術の授業をするから、少しの間お別れだ。
私は、魔法に関しては天才的と言われてきただけあり、成績はナンバーワンだ。
魔法の発動速度や正確性、安定性はーーアル君を除くとーー誰にも負けない。
「「「きゃーっ! ソフィア様ステキー!」」」
なぜか私は女子の間で様付けで呼ばれている。
アリスさんに聞いてみたら、どうやら私が、他の誰よりも美しく魔法を使うため、いつのまにか様付けが定着していたらしい。
魔法の他にも、私は細剣の授業を選択している。
細剣は、家にいた時からよくやっていた。筋はいいと言われたことはあるが、才能があるとは言われなかった。それに、アル君ほど真面目にやっていたわけでもないから、上手でもない。
私はあくまで魔法がメインなのだ。発動までの時間は、アル君が稼いでくれるしね。
全ての授業が終わって、夕食を食べた後、アル君と一緒に寮まで戻る。
「ソフィ、学院は楽しいか?」
「うん、楽しいよ。アル君は?」
「もちろん楽しいぞ。最近は、努力の成果も認められてきたしな」
「それならきっと、もうすぐ友達も増えてくるはずだよ」
「そうだといいな」
アル君の努力が実ってきた。私も全力でサポートする。全てはアル君のために。
このまま幸せな生活がずっと続くといいなあ。