定番の巨大ダコ
「アル君、ビーチバレーってなに?」
「簡単に言うと、二対二で、ボールを地面に落とさないようにする競技だ」
ソフィと湖でイチャついていたところ、アリスが私を無視するなと言ってきたので、ビーチバレーをすることになった。
チーム分けは、俺とソフィチーム。アリスと王子チームとなった。
俺は、バレーボールの基本的なルールを三人に教え、ネットなしの特別ルールで、ビーチバレーを開始する。
「やったことない競技だけど、ボクも頑張るよ」
「リューリク様なら、きっとできますわ!」
王子は、運動神経はそこそこいい方だから、やればすぐに覚えるだろう。
アリスとソフィは、剣を扱っているのだから、自分の体の扱いはわかるだろう。
「よし、じゃあいくぞー!」
俺のサーブから始めることになり、最初は軽くアンダーサーブで飛ばす。
王子は、そのボールをレシーブし、アリスは上がったボールをこちらに返した。
二回目で返すとは、やはり初心者だな。こちらの本気を見せてやろう。
俺は、ボールをソフィに向かってレシーブし、ソフィはそのボールを俺に上げる。俺はジャンプとともに振りかぶって、アタックを打った。
俺の打ったボールに、王子とアリスは反応できず、そのままの勢いで地面につく。
「よっしゃ!」
「大人気ないですわ!?」
アリスがなんか言っているが、これは勝負なのだ。つまり、勝てばよかろうなのだ。
その後、三人とも徐々にバレーを覚えていき、俺のアタックにも反応できるようになってきた。
成長が早かったため、俺の無双タイムも早々に終わってしまった。つまらん。
試合が接戦になってきたところで、湖の方から悲鳴が聞こえてきた。
「なにかあったんですの?」
「あ、あれは……」
そこには、全長十メートルはあるだろう、巨大なタコがいた。そして、その触手には、A組の女子生徒たちが絡まっている。いや同人誌かよ。
「アル君、早く助けに行こ!」
と言って、ソフィが女子生徒たちを助けに行く。
「ソフィ、危ない!」
「え?」
俺の忠告も虚しく、触手を伸ばしたタコに、ソフィは捕まってしまった。
「きゃー! な! ど、どこ触ってるの!?」
「ソフィ!」
「アル君助けて!!」
俺のソフィに手を出すとはいい度胸だ。今すぐあの触手を木っ端微塵に切り刻んで、今日の夕飯にしてやる。
「助ける必要はありませんわ」
「アリス!?」
アリスの驚きの発言に、ソフィも驚愕の表情を浮かべる。そんな顔も可愛い…… じゃなくて。
「どういうことだ?」
「あのタコは、人間の女を触手で捕まえるだけで、特に害はありませんのよ」
な、なんというエロダコ。まさかの女限定だというのか。いいぞ、もっとやれ。
「害がないっていうのは、一体どういうことだ?」
「しばらく遊べば、砂浜にゆっくり降ろしてくれますわ」
なんというの優しさ。エロダコとか言ってごめんな。いや、遊んでるのならエロダコには変わりないか。
「だそうだ、ソフィ! 少し待ってろ!」
「ええ!?」
「そうですわ、ソフィアさん。それにその哀れな姿もなかなかそそるものが…… へ?」
なにか不吉なことを言った瞬間、エロダコの触手がアリスの腰に巻きついた。そのまま中に浮くアリス。
「きゃー! 助けてですわー!」
「アリス君!」
完全に因果応報である。だが、なにかそそるものがあるのは認めよう。
しばらくタコに遊ばれ、ソフィとアリスと女子生徒たちは無事に帰ってきた。
よく見てみると、女子生徒たちはみんな可愛い子だった。根っからのエロダコらしい。
「もう! 見捨てないでよ!」
「本当ですわ!」
「悪い悪い…… って、アリスもソフィを見捨てただろうが」
「そんなことは忘れましたわ!」
まったく都合のいい頭である。
しかし、ソフィを怒らせてしまった。腕を組んで頰を膨らませ、こちらを向いてくれない。さて、どうしたものか。
「ああ、なんだ。ソフィさん?」
「ぷんだ」
これは怒っているのか? それとも拗ねているのか?
「なんでも言うこと聞くから、許してください」
「…… じゃあ、後であの洞窟に一緒に入ろ?」
と言って、ソフィは湖から少し離れた場所を指差した。
指差した先には、入り江がある。
「もちろんだ」
「なら許す」
俺の方に顔を向け、笑顔で許してくれた。最初から、あまり怒っていなかったようだ。
自由時間はまだまだあるため、早速入り江に向かう。
ちなみに、王子はギランに呼び戻され、砂浜で休憩を取っていた。しかも、女子生徒に周りを囲まれながらである。完全にハーレム状態だ。
アリスは、俺たちについて来たそうにしていたが、王子の護衛任務で来れなくなった。ギランとは交代制なのである。
入り江の中は円状になっていて、そこまで奥には続いていなかったが、入り口から光が差し込んでいて、水面がキラキラと光っていた。
「おお、これはすごいな」
「こういう入り江って、どうやってできるんだろうね?」
「うーん、入り江のでき方はさすがにわからんなあ」
鍾乳洞とかなら説明できるのだが、入り江はよくわからん。
「…… ねぇ、アル君。もし私がいなくなっちゃったらどうする?」
「いきなりどうした?」
「いいから答えて」
「そうだなぁ。なにがなんでも探し出すかな。そして、必ず見つける」
他人になにを言われようと、俺は必ずソフィを探すだろう。本人か、死んだ証拠を見つけるまで。
「ふふ、やっぱりそうなんだ。嬉しいなあ」
「やっぱり?」
「うん。逆の立場だったら、私もそう答えただろうなって思って」
思考が似通っているのか、それとも互いがかけがえのない存在だからなのか。
たぶん後者だろうな。俺とソフィの考え方は、正直言ってかなり違う。幼馴染だったおかげで、気は合うんだがな。
「まあ、もしそうなったら、絶対見つけてくれよ?」
「もちろん!」
それから入り江の中で、水に仰向けに浮かびながら、たわいもない話をした。
二人きりだったのは久しぶりで、学院のことやこれからのことなど、意外と話は広がった。
「付き合ってくれて、ありがとね」
「こんなことなら、いつでも付き合ってやるぞ」
俺も、久しぶりの二人きりの会話は楽しかったからな。
「じゃあ、戻ろっか」
「もうすぐ自由時間も終わるしな」
自由時間が終わったらすぐに夕食だ。次はどんな献立が出るのか楽しみである。
個人的には、甲殻類とか出て欲しいな。
「アル君」
「どうした?」
「ずっと一緒にいようね」
「当たり前だ」
俺はソフィの頭に手を乗せ、ぐしゃぐしゃと撫でる。
安心したソフィは、ふにゃっと表情が崩れた。
俺は、そんなソフィに向かって優しく微笑んだ。