表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/169

臨海学校

 俺たちA組は今、馬車に乗っている。

 行き先は、王都から少し離れたところにある湖だ。

 馬車と言っても、魔道具によって車輪が自動で動くという、補助がついた物だ。

 引いている馬は五匹で、乗れる人数は五十名と、前世のバスのような物である。

 なぜ俺たちがこんな大型の乗り物に乗り、遠出をしているのかというと、一泊二日で水中生物と触れ合おう、という目的で行われている、学校行事なのである。

 簡単に言うと臨海学校だ。海ではなく、湖だが。

 なぜ湖なのかというと、海には魔物がごまんといるため、魔物のいない湖で、毎年臨海学校を行うしかないのだ。

 俺たちの今から行くシャール湖は、ジネヴラ領のにあり、観光名所としても有名である。

 周辺には、ジネヴラ侯爵の建てた宿泊所が複数あって、俺たちは、湖に最も近いホテルに泊まることになっている。


「ジネヴラ侯爵って、アリスさんのお父さんよね?」

「ええ、そうですわ。私は、次女でしてよ」


 そういえば、アリスのファミリーネームはジネヴラだったな。

 こんな観光名所が領内にあると、侯爵もかなり儲けがいいのだろう。


「湖にはよく来てたのか?」

「あまり来てないですわね。遊びよりも、剣と魔法の練習をしていましたわ」


 なんだもったいないと思ったが、俺がここに住んでいても、似たようなものになるな。

 理由は、きっと飽きるだろうからだ。


「あ、でも、リューリク様は、何度か来たことがあるはずですわ」


 みんなの視線が王子に集まる。

 王子なら、観光名所に何回も来れるだろうから、やはりどのくらい来てるのか気になる。


「そうだね。でも、十五回くらいしか来てないよ」


 王子は、苦笑しながら言い返した。

 俺は王族の暮らしはよく知らないが、十五回は、‘‘しか’’とは言わないと思う。

 男は羨望の目を向け、女は少し興奮した様子で王子を見ていた。

 男たちよ、女子の水着とかいっぱい見れるのは、正直羨ましいよな。

 女たちは、結婚したら連れてきて貰える、的なことを考えているのだろうか?


「ソフィ、水着ってどんなの買ってきたんだ?」

「ふふ、見てからのお楽しみ」


 男子陣から「おおっ!」と声が上がった。


「どうやらみんな、ソフィの水着が楽しみなようで」

「私は、アル君にだけ見てもらいたいなあ」


 ソフィは少し上目遣いでそう言った。

 男子陣からの嫉妬の目線が俺に刺さる。嫉妬どころか、殺気を放っている者までいる。

 ソフィは学院でも一、二を争う美少女だ。俺という婚約者がいると知りながらも、告白してくる男子の数は両手でも数えきれない。

 というか、俺のような無能が婚約者だからと、割と舐めてかかるようなやつが多いせいで、ソフィへの告白が増えている節まである。

 だが、その男子たちの告白を、一言で切り捨てていくその姿は、女子たちがソフィのことを、お姉様と呼ぶ要因の一つとなった。

 ちなみにこの行動により、ソフィの一途な性格が、男子たちの評価をさらに上げさせたのは、もはや言うまでもないだろう。

 というわけで、婚約者である俺は、いつも嫉妬の視線を浴びているのである。


「ソフィアさんの水着には興味あって、私には興味ないんですの?」


 俺のことを睨みながらアリスが言う。


「ほう、楽しみにしてもいいのか?」

「ギャフンと言わせてみせますわ」


 アリスは決闘をした時から、俺に対して少し柔らかくなった。気が強いのは変わらないが、俺を蔑むようなことはなくなった。


「いつのまにか、うちのアリス君が懐柔されているようだね」

「リューリク様!? 私は懐柔なんかされていませんわ!?」


 少なくとも、サバイバル訓練の時よりは、距離が近くなっただろうな。

 そんなことを話していると、馬車が止まった。どうやらシャール湖に到着したらしい。

 今日の予定は、このまま一旦ホテルへ行き、そこで昼食を食べ、午後から湖で自由時間となる。

 ちなみに、今の時刻は昼前だ。


「アル君、昼食は、湖の新鮮な魚が出るんだって」

「へぇ、魚なんて、いつぶりだったかな」


 この世界は、保冷して運ぶ技術がないため、ほとんどの魚は塩漬けにされて輸送される。そのため、新鮮な魚などは、海や湖の近くの町でしか食べることができない。

 俺は、塩漬けの魚なら何度か食べたが、塩辛くてとても美味しい物ではなかった。なので、新鮮な魚というのは初めて食べる。

 前世では簡単に食べれた物が、十数年間食べれなくなると、味が恋しくなるものだ。ああ…… サンマが食べたい。


 バスを降り、ホテル内の食堂に案内され、五十人全員が席に着き、料理が次々と並んでいく。

 さすがに刺身はなかったが、焼き魚はあった。とてもご飯が恋しくなるような献立だが、主食はパンが出てきた。がっかりである。

 久しぶりの焼き魚を食べてみる。


「ああ、うまい……」

「初めて食べたけど、お魚美味しいね」


 ソフィは初めて食べたのか。まあ、俺も今世では初めて食べたんだが。

 やはり新鮮なだけあって、身がぷりっとしているな。香ばしい匂いと、皮の焼け具合が食欲をそそる。

 できることなら醤油をかけて食べたい。

 しかし、そこにパンはどうなんだろう?パンにするなら、魚のフライを作った方がいいと思うんだが。


 食事が終わり、自由時間になった。

 クラス全員が、各部屋に自分の荷物を置きに行き、水着に着替えて湖に出る。

 部屋は一人一つあり、一部屋十畳はある程大きかった。

 装飾もかなり豪華で、お金のかかりようが、見るだけでもわかるくらいだ。


「日差しが強いな」


 季節は夏で、しかも今年は猛暑だ。あまり雨が降らないおかげで、ギルドへの依頼で、水魔法師に畑の水やりをやらせるという依頼が出た、という話まである。

 だが、その分、湖の水が冷たくて気持ちがいいだろう。

 既に、クラスの男子のほとんどは浜辺に来ており、遊び始めている。

 一方で、女子は準備が遅いので、まだ来ていなかった。

 俺は、砂浜に持参したビーチパラソルを取り付け、ビーチチェアを置いて寝っ転がった。サングラスがあれば、完全にハリウッドスターだ。


「アル君、何やってるの?」


 ソフィが俺の上から、頭だけ見えるように顔を出した。


「湖を楽しんでいるんだ」

「いや、寝てるだけじゃないですの」


 上を向いているせいで見えないが、どうやらアリスも来たようだ。


「楽しみ方は、人それぞれだろう?」


 俺は体を起こし、アリスを視界に入れる。

 赤と白のボーダーのビキニで、胸と腰にはフリルがついている。

 アリスの体は、年齢の割に体は育っていて、さっきからクラスの男子の目が、チラチラとアリスに動いている。


「へぇ、なかなかやるじゃないか」

「当たり前ですわ!」


 腰に手を当て、髪をバサっと搔き上げる姿は、なかなか様になっていた。

 これは予想以上だったな。


「アル君、私は?」

「ソフィは完璧だ。結婚してほしいくらいだ」

「もう、アル君ったら。いつも冗談めかすんだから……」


 そう言いつつも、赤く染まった頰に手を当て、体をくねくねしている。

 ソフィの水着は白いビキニだが、その上に黒い上着を着て、前のボタンを外している。

 胸はまだまだ成長途中のため、大きいとは言えないが、その芸術的なまでの肢体が、ない…… もとい、慎ましい胸の魅力を引き立てている。

 男子の視線がソフィに行っているので、俺はソフィと男子の間に割って入って邪魔をしつつ、ソフィの水着を堪能する。


「これは…… いつまでも見ていられるな」

「そ、そんなに見てないで、早く湖に行こ!」


 俺がずっと見ていたことに気がついたソフィは、次は顔全体を赤くしながら、俺の手を引っ張って、湖に連れて行った。

 俺は、されるがままになった状態で浅瀬に入ると、ソフィの体術によって深くなっている所に投げられた。


「よいしょっ!」

「うお!?」


 バッシャーン! と音を立て、湖に沈む。水の中で目を開けてみると、透き通った青色の水や、そこらじゅうを泳ぎ回っている魚が目に入った。

 この世界では珍しく、安全に見ることができる、自然の美しい光景だ。

 ずっと見ていたかったが、次第に息が苦しくなり、水面に顔を出す。ソフィに文句の一つでも言ってやろう。


「ソフィ、いきなり投げるなんてひどいじゃない…… って、おわっ!?」

「とおっ!」


 今度はソフィが飛んで来た。俺はソフィの体を受け止め、また水に沈む。

 目を開けるとソフィと目が合い、ソフィはしてやったりという表情でニヤッと笑った。まったく、どんな表情をしても可愛いな。

 抱き合ったまま水面に顔を出す。


「ずいぶんといきなりだな」

「だって、こうやって遊ぶの久しぶりなんだもん」


 確かに学院に入ってからは、二人で遊ぶ機会なんて滅多になかった。はしゃぎ足りないお年頃なんだしな。

 まだ俺たちは十三歳だが、俺は転生しているぶんだけ精神年齢が高い。こうやって遊んでいると、子供と遊んでやってる気分になるのだ。けれど、たまには本気で遊ぶのも、いいかもしれないな。


「今日はいくらでも付き合いますよ、お嬢さん」

「やった! いっぱい遊ぼ!」


 いつもは大人っぽいソフィも、遊び場を見つけてはしゃぐところは子供なんだな。

 俺は今日一日、ソフィについて行くことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ