学年末テスト
今日は、一年生のテストの点数と学年順位が発表される日だ。
ちなみに、テストは一年に一回しか行わない。なぜなら、テストの目的が、今年一年の勉強の成果を見るためのものだからだ。
共通科目には数学、歴史、礼儀作法、選択科目には各武術、魔法、魔道具があり、選択科目は二科目を選ぶ。
この合計五つのテストを、学年末に行う。最高点数は各百点。合計で五百点だ。
そしてそのうちの、各学年の上位百名の点数と氏名が、校内の掲示板に貼り出される。
貼り出された者は、学院側からステキなプレゼントがあるらしい。
それだけではなく、この順位は、仕事に就く時もかなり有利になる。
王宮に勤める者は、ほとんどがこの百人に入っていた者だ。
「この前のテストどうだったー?」
「全然ダメだったよー」
なんて会話が、いろんな場所から聞こえてくる。
いや、一年に一回のテストなんだから、しっかり勉強しろよ。めんどくさいのはわかるけども。
「アル君、この前のテスト、どうだったの?」
「俺は普通だぞ。家にいたころと同じように勉強してたくらいだ」
「アルフレッド、お前、家にいた時あんなに勉強してたのか?」
その質問を不思議に思ったソフィは、首を傾げた。
「あんなにって、アル君、どのくらい勉強してたの?」
「アルフレッドは、寮に帰ってきてから寝るまで、ずっと机と勝負してたぞ」
「ああ〜…… 確かに、家にいたころと同じくらいだね」
「まじかよ!?」
「逆に、ヨハンが勉強しなさすぎなんじゃないのか?」
「そんなバカな!?」
だってヨハン、俺の半分くらいしか勉強してないし。しかも、ほとんどが魔道具の勉強だったし。
あれで高得点なんて狙えるのだろうか?
「俺たち三人の中で、誰かしら百名のうちに入ってるかもしれないし、掲示板を見に行こうぜ」
掲示板まで来たのだが、なにやら騒がしい。しかも、俺たちが来てから、みんなの視線が俺に集まっている。さも、俺に興味を持ったような目だ。
こんなに大勢から注目されたのは、人生で初めてだな。
「俺、なんでこんなに注目集めてるんだ?」
「掲示板に順位載ってたとかかな?」
「アルフレッドならありえるな」
「どれどれ…… って、は?」
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〈国立ラント王国大学院、一学年テスト上位百名〉
1. アルフレッド・アバークロンビー 478点
2. ソフィア・バレンタイン 472点
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79. ヨハン・ヨハネス 401点
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「おいおい、まじかよ。俺が一位かよ」
「私は二位だ! やったー!」
「ぼ、僕も、百人の中に入ってるぞ!」
まさか、俺たち三人の全員が上位百名に入ってるとは……
それにしても、俺がまさかの一位か。そりゃあ、俺に興味を持つやつも出てくるわけだ。
なにせ、ずっと無能だと聞かされていたやつが、一年生の中で最も成績が良かったのだからな。
「アルフレッド君って、頭良かったんだね……」
「ていうか、サバイバル訓練の時に問題解決したのも、たしかアルフレッド君だったよね……!」
「アルフレッド君ってよく見たら、顔もカッコいい……」
おいおい、俺の株価が急上昇中だな。だが残念。俺にはもうソフィがいるんだ。婚約者は間に合ってるぜ。
ふと隣を見たら、ソフィが頬を膨らませていた。
「ど、どうした?」
「よくよく考えてみたら、私、アル君に負けてた……」
ムッスーっとした顔だったのはそういう理由か。俺が女子にモテモテだからだと思った。
なんか、少しだけ複雑な気分だ。ちょっとくらいヤキモチ焼いてもいいのよ、ソフィアさん。
「すげぇ、ソフィアさん二位だってよー!」
「ほんとだ、さすが学院一の美少女! 頭もいい!」
「ソフィアさん! 俺の嫁になってくれー!!」
ほぅ、いい度胸だ。俺の前でそんな言葉を口にするとは。いいだろう、今すぐ俺の剣のサビにしてくれるわ。
「アルフレッド…… その世紀末を体現したかのような顔で睨みつけないでやれ…… あの三人、恐怖で震えてるだろ?」
「ア、アル君落ち着いて。私はアル君のものだよ」
「落ち着いた」
「早っ!?」
昔から、ソフィが俺のものだと思うと、その他のことは全てどうでもよくなってくるのだ。俺にとって、一種の精神安定剤的な何かなのかもしれない。
「それにしてもヨハンって、ファミリーネームはヨハネスって言うんだな」
「ああ、言ってなかったっけな」
ヨハネス家。子爵だったか?
ヨハンは、確か三男って言ってたから、後継とは無縁だな。正直言って、とてもうらやましい。
俺の家は、後継がフィリップになるかもしれないしなあ。どこかのバカ(お祖母様)のせいで……
明日、学校側からプレゼントが贈呈されるらしいが、一体何が貰えるのやら。
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次の日、各学年の上位百名が体育館に集められ、学園長から直接プレゼントを貰えることになった。
「一年A組、アルフレッド・アバークロンビー。あなたの優秀な成績を讃え、これを称します。国立ラント王国大学院学園長」
「ありがとうございます」
俺はプレゼントを受け取り、学園長に礼をする。四十五度のきれいな礼だ。執事を見て覚えた。
そのままステージを降り、ソフィの隣に座る。三百人ひとりひとりにに手渡しで渡していくので、時間がかかる。
一年生のA組から渡されるので、俺は二番目に貰った。一番最初はソフィだ。
早く終わらないかなあ。
表彰式が終わったので、早速プレゼントの入っている箱を開けてみる。中身は一体なんだろうな。
「「「こ、これは……!?」」」
箱の中には……
「「「ティーカップ……?」」」
中に入っていたのは、学院長のサイン入りティーカップだった。確かに高級品だし、学院長のサインも貴重なのだが……
「「「い、いらねぇ……」」」
三人の心が一致した瞬間だった。