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私は、自分にとっての『大切な何か』を知っています。

 私たち魔族には、魔王の誕生というのが自然とわかるようになっている。

 魔王に必要なものは、戦闘能力、魔力量、キレる頭、カリスマ性…… おそらく他にもいろいろあるだろうが、すべてはわからない。ただ、その中で最も大切な部類は、間違いなく魔力量だろう。魔力の量だけできることが増えるというのは、我ら魔族の中では常識的なことだ。

 私はただのゾンビから魔族である吸血鬼になった時、魔法を発動する時に働く精霊と、その精霊が使う魔法陣が見えた。

 魔法適性がゼロであった私は、嬉々として魔法陣を描き、様々な魔道具を作り始めた。そして、変装に適した魔道具を作った後、より多くの人間を殺すため、人間の国に潜入をしたのだ。

 私は町の魔道具屋を開いて生計を立てつつ、裏では夜道に一人で歩いている憲兵を狙い、完全犯罪を繰り返していた。

 しかしある時、私の殺人という行為が、とある人物に見つかってしまったのだ。その人物とは、私が情報を集めるために利用していた、教皇専門のシェフ。

 教皇の人柄を知るため、わざわざ友達のふりをしていた人間だったのだが、そいつはあっさりと私のことを憲兵にバラしたのだ。

 私は大事になる前に、そいつとそいつの妻を殺し、教国を脱出した。あまりに急いでいたせいでガキ二人を仕留め損ねたのだが、まあ、脅威にはならないだろう。

 外の世界に出た私は、魔物に紛れてかなりの数の魔族がいることを知った。

 私は人間の国で学んだ話術を使い、魔族を一つにまとめ上げた。そして、リーダーを決めなくてはいけなくなった時、頭の中に魔王の存在を知らせる合図が鳴ったのだ。

 魔王の存在を知った私は、怒りで狂いそうになった。

 ここまで魔族をまとめ上げたのは私なのだ! それをなぜ! 何処の馬の骨ともわからない女なぞに渡さなければいけないのだ!!…… と。

 こうして私は魔王の部下として、いつかは魔王の座に就き、人間を滅ぼすために全力を尽くし始めた。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 キュレギムは、自らがやってきたことを洗いざらい吐いてくれました。両手を広げて語り部を装うその姿はとても楽しそうで、目はキラキラとしていました。


「それで私を裏切り者に仕立て、その後自分が魔王になれたから、人間に戦争を仕掛けたと?」

「その通りです! それをあなた本人に聞いていただけるとは…… なんたる幸運!」

「はぁ…… わかりました」


 なんたる自負心でしょう。私を裏切ろうとしていたことを、本人の前で堂々と語りますか? 普通。

 ですが、これで決定しましたね。


「クラリス様…… やる気ですか……?」

「ええ。あなたがやる気でなくとも、私はあなたを殺します」

「二代目魔王として、ここで殺されたくはありません…… 本気でやらせていただきます」

「あなたに私は倒せません」


 私は不死身ですから。


「いえ、倒す必要はありません。逃げれば勝ちです!」


 キュレギムはポケットからボタンを取り出すと、私の目の前でそれを押しました。すると、突然部屋が閃光に包まれ、私は視力を奪われました。


「またお会いしましょう! クラリス様!」


  私は魔王の直感と聴覚を集中させ、光の中で動いているキュレギムを捉えました。


「ふんっ!」


 私は思いっきり拳をふるいます。


「ガバァッ!」


 拳に伝わる確かな感触と、キュレギムの悲鳴。

 しかし、私の視力が戻る頃には、キュレギムはいなくなっていました。


「逃しましたか……」


 私が魔王城の壁にぽっかりと空いた穴を眺めながら呟くと、後ろから魔族が近寄ってきました。


「クラリス様……? お戻りになられたのですね!」


 嬉しそうに笑顔を見せる元部下を見て、私は少し罪悪感を抱きます。

 ごめんなさい。私がここに来た理由は……


「ケルベロスちゃん、お願いします……」


 ケルベロスちゃんは私に一礼をすると、私の後ろにいる魔族を前脚で弾き飛ばしました。

 すると、それを見た他の魔族の表情が一変します。


「ど、どうして……」


 そんな元部下の声を虚しく、ケルベロスは城の中にいるすべての魔族を喰い殺しました。


 帰り際に、魔族と教国が戦争していた場所を通りかかると、そこにあったものは死体、死体、死体…… 魔族のものも人間のものも、すべて亡骸となって転がっていました。

 そんな中で、私のかわいい四獣が近寄ってきます。


「あなたたち、ありがとうございます。こんなに綺麗にしてくれていたんですね」


 四獣のそれぞれが、得意になったように叫び声を上げました。


「戦争は終わりましたね……」


 私の髪の隙間を、風が虚しく過ぎ去っていきます。

 私は大きく息を吸って、気持ちを切り替えました。


「さあ、帰りましょうか! 帰るお家はありませんけど、みんなで住める大きなお家を作ってあげますね!」


 私は、四獣とケルベロスちゃんとアーサーとともに、新しいお家を建てる場所を求めて旅に出ます!

 そうだ! ダンジョンのようにするのがいいですね! これから先、私と同じような境遇の人がいるかはわかりませんが、少なくともそんな人が来るまで、私は閉じ込もらなければいけません。

 …… ごめんなさい、アーサー。やっぱり私は弱いみたいです。あなたがいないとこんなにも…… こんなにも、魔王になってしまうのですから。

 私は、冷たくなったアーサーの頭を撫でます。

 アーサー、平和を作ろうとして失敗した私には、もうなにをしていいのかがわかりません。なので、待ってみようと思います。

 この子たちと一緒に閉じ込もって、じっとして…… いつかは平和を目指した私のように、意志の固い人が来てくれるかもしれません。

 この世界から人間が消えるのか、魔族が消えるのか、はたまた共存してしまうのか…… それを決めるのは、意志を持った未来の人たちに託します。

 そして私は、その人を応援してあげたいと思ってます。例えそれが、この世界の滅亡に繋がったとしても……

 この世界の命運が決まったら、私はあなたと元に逝きますね。あなたからのプレゼントである、この赤いメガネと一緒に。

 私がメガネに指を触れさせると、メガネから暖かな魔力が漏れ出しているように感じました。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 これは後から知ったのですが、私が人類に与えた被害は甚大なものでした。私の四獣たちは剣士、魔法師、技術者のすべてを無に変え、魔法科学を大きく衰退させ、間接的にディヴェルト王国を滅ぼしました。

 教国はなんとか持ちこたえましたが、勇者パーティを失ったのは痛かったようで、戦力としての国の力は大きく衰えました。

 これが後の世にどのような影響を与えたのか…… それはわかりませんが、少なくともディヴェルトの自然は守られたみたいですね!

 この被害は人間だけに及ばず、魔族たちにも大きな影響を与えました。

 人間の数が大きく減ったことによる食物の減少。つまりは魔力の補給を絶たれたせいで、魔物や魔族同士の争いが勃発。その数を大きく減らしました。

 ちなみに、このことは人類史には載ってはいません。なにせこの頃は、人間は国と呼べるものを作っている途中でしたからね。

 しかしそれでも、人間と魔物の戦いが終わったことはありません。

 人間を敵と認識した竜種、いわゆる邪竜と呼ばれる存在を倒した英雄は、その力を教国に認められ、帝王を名乗ることを許されました。この帝王が作った国が後に、帝国という巨大な軍事国家になっていきます。

 それと時を同じくして、魔物との戦いの最前線である魔王城西側にて、アバークロンビーを名乗る剣士とバレンタインを名乗る魔法師が現れ、この二人を防衛線とした線引き…… 魔物と人間の領土の境目である、ラント王国が建国されました。

 帝国とラント王国。この二つの国が完成し、魔物と人間の対立が再びハッキリとした時、冒険者ギルドと言われるものが設立されました。

 今までは魔物の討伐は兵士の仕事でしたが、ギルドの傭兵制度のおかげで、軍の被害がグンと下がりました…… おっと、ダジャレじゃないですよ?

 しかし、良いことが起きれば、別な部分で悪いところが出てきます。

 この傭兵制度は、簡単に言えば一般人を戦わせるわけですから、今度は国民の死亡率が上がってしまいました。国は国民でできている、と言われる通り、国民の数が減ればそれだけ国としての力が弱まってしまいます。

 この被害を最小限に抑えるためにできたのが、等級です。鉄級から白銀級までの五つのランクが作られ、それに合わせてモンスターにもランクがつきました。


 そして、私が戦争を終結させてから千年が立ち、立て続けに私のところに地球人がやってきます。

 私は千年前に誓った通り、その人たちに未来を託して……! あとは本編を見ればわかりますね!


 こんな私の昔話に付き合って頂き、ありがとうございました。

 それでは最後に、私がなぜみなさんに話しかけられるのか、ということを話したいと思います。

 その理由はですね…… 天国にいるので、なにをしてもオッケーなんです!

 ここには四獣ちゃんたちがいて、ケルベロスちゃんがいて、そして…… アーサーがいます。

 過去にどんなに辛いことが起きたとしても、それを吹き飛ばしてくれる何か…… それが私には、ハッキリとわかります…… それはーー


「クラリス〜! 今日のご飯はなんだい?」

「アーサー! 今日はオムライスですよ!」

「お! やったー! クラリスのオムライスは美味しいからね!」


 それは、『大切な何かを、大切だとわかっている』ということです。

クラリス編、これにて終幕となります。

出てきた当初から過去の事は考えていたのですが、こうして形にしてみると救われない話ですね。まあ、死後の世界が本当にあるとしたら、彼女は今幸せなのでしょうが。


よかったら感想など書いてくれると嬉しいです!

それでは!

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