告白
小鳥がさえずるような声を聞いて、私は目を開けました。
「ここは……?」
ちゃんと体の感覚があり、声も出るみたいですね。痛みもありません。自分の体に集中していると、横からガタンという音がしました。
そちらを振り向くと、食器を落とした状態で固まっているアーサーさんが、私をじっと見たまま固まっていました。
「アーサーさんが、どうしてここに……?」
「クラリスさん! ようやく起きたんだね!」
私の声を聞いてハッとしたのか、アーサーさんは、勢いよく私に近づいてきました。
…… て、近い近い近い!! 顔、顔が近いです!
「よかったぁ……!」
アーサーさんは私の手を握って、布団に顔を埋めてしまいました。
「え、と…… あの、アーサーさん? ここはいったい……? というか、どうして私は生きているんですか?」
確か私は、広場でアーサーさんに心臓を刺されて…… 意識が遠くなって…… そのあとのことはわかりません。
アーサーさんは布団から、涙に濡れた顔を上げ、私と目を合わせました。
「ごめんね、クラリスさん。君には苦しい思いをさせた。でも、もう大丈夫だよ」
「私、死んでないみたいなんですけど…… あの、なにが大丈夫なんです?」
「僕はあの処刑場で、クラリスさんの心臓の横を突き刺した。それも、誰にもバレないようにね」
「…… つまり、私は死んだことになっている…… ってことですか?」
「もう君には辛い思いはさせたくない。ここでゆっくり、人類と魔族が手を取り合う結末を見ていてくれ」
ということは、私は死なずに平和の架け橋になれた…… ってことですか。
「はぁ〜……」
なにか、肩にのしかかっていた重荷がなくなった気分です。おかげで、大きなため息が出てしまいました。
「それで…… ク、クラリスさん…… その、この前の件なんだけど……」
私が安心していると、なにやらアーサーさんが緊張したようすで話しかけてきました。
「この前…… ですか?」
この前というと、いつのことでしょう?
「あ、ああ、その…… 一週間前のことだよ」
一週間…… 一週間前と言うと、アーサーさんと会談した時のことですね。
「あの時のことですか…… それで、なんでしょうか?」
「ええと、だね…… その……」
アーサーさんは、私から目を逸らし、言葉を続けるのをためらっているみたいですね。
会談の時…… 私、なにかやらかしましたっけ?
アーサーさんはしばらく悩んでいましたが、やがて覚悟を決めたように顔を上げました。
「クラリスさん! 僕も君のことが好きだ! 魔王と勇者という立場上、今まで伝えることができなかったけど、その…… 一目見た時から、恋心を抱いていたんだ……」
へ?
「アーサーさんが……」
私はアーサーさんを指差し。
「私のことを……」
自分を指差し。
「好き?」
首を傾げる。
「ああ。一週間前、君があの処刑場で僕のことを想ってくれていたと知った時、本当に嬉しかった……! ただ、あの場では刺さなければならなかったから、それは本当にすまない!」
ちょ、ちょっと待って。一週間前、あの処刑場でって……
「私、一週間も寝てたんですか!?」
アーサーさんは私の大声に、ビクッと体を震わせた。
「え? あ、ああ、そうだよ。クラリスさんは一週間ほど、ここで寝てたよ」
私は自分の体を見て、服が着替えさせられていることと、一週間も寝ていた割に体が綺麗なことに気がついた。
「…… あの、アーサーさん…… もしかして、その…… 私の体…… 見ました?」
「い、いや、その…… 血まみれの服で寝かせるわけにもいかないし…… 体が汚れた状態で寝かせるのも悪いし……」
つまり、それって……
「見たん…… ですね?」
「ご…… ごめんなさい」
私は、自分の顔が熱くなっていくのを感じました。
アアアアーサーさんに裸を見られた!? そそそんな、乙女の秘密が…… 旦那様にしか見せないと決めていたのに……! アーサーさんに振られたばかりなのに! そんな振られた相手に、裸体を見られるなんて…… ん?
「…… あれ? アーサーさん、今なんて言いました?」
「え? その、裸を見て、ごめんなさいって……」
私はアーサーさんの両肩をがっしりと掴んで言う。
「そうじゃなくてですね! アーサーさんは、私のことを……」
「あ、ああ、好き、だ。僕は、クラリスさんのことが好きなんだ!」
…… 好き?
「ええええええ!!!?」
「うわっ!? びっくりした! 急に叫ばないでくれよ!」
「だだだって、アーサーさんがですよ!? あのアーサーさんが、私のことを!?」
「そ、そうだよ! 僕は君のことが好きなんだよ! なにか悪いかな!?」
「いや、その…… なにも悪くないですけど…… だってアーサーさん、あの処刑場で、私に『ごめんなさい』って……」
アーサーさんは確実に、「ごめんね、クラリスさん」と言っていたはずです。一度私を振ったのに、どうして今になって……?
「ああ…… 違うんだ。あの謝罪は、これから苦しい思いをさせるから、とにかく謝らないといけないって思って……」
「それってつまり、告白に関しては……」
「最初から、受ける気でいたよ……」
な、なんということでしょう…… あのアーサーさんが、私のことを好きで…… しかも、告白にも答えてくれるなんて……
「あ、もしかして…… これは夢? 私、本当は死んでいて、これは私が望んでいた幻影なのでは……?」
「クラリスさん、これは現実だよ。君は生きてる」
「…… 生き、てる」
私は自分のほっぺをつねってみます。はい。痛いです。
続いて、アーサーさんの顔を見ます。微笑んでる顔が、はっきり見えますね。
うっ…… なんか、アーサーさんの顔を見たら、安心で目が潤んできました。
「クラリスさん、もう大丈夫。君は、僕が守るから」
「アーサーさん……」
「だから、君の残りの人生を、僕にください。僕の妻として、僕を支えてください。お願いします」
「喜んで!」
私は思わず、アーサーさんに抱きつきました。ああ、ずっとこうしたかった……
女として、愛する人から必要とされる、これ以上の幸せはありません。
アーサーさん…… これからずっと、一緒です。