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処刑

 今日は公開処刑の決行日です。

 私は広場の中心で、木の棒に縄で縛りつけられ、教国の住民さんたちに見られています。最後がこんな、布切れ一枚だけなんて、やっぱり恥ずかしいです。

 ですが、良いことが一つだけ。

 それは、処刑人がアーサーさんだと言うことです。最後にその…… 恋した人に殺されるのなら、私は本望です!

 まあ、アーサーさんしか、私のことを殺すことができないので、これは当然っちゃ当然のことなのですが。

 せめて最後くらいは楽に逝かせてくださいね、アーサーさん。


「それではこれより、魔王の死刑執行を始める!」


 アーサーさんの隣にいる裁判長だったか誰かが、私の死刑執行を宣言しました。すると兵士によって、アーサーさんに剣が渡されました。

 ご立派な剣です。重そうですし、見た目だけ感はありますが、まあ、魔王を殺す儀式用としては十分なのではないでしょうか?

 アーサーさんはゆっくりと私に近づいてきて、剣を構えます。突きの構えですね。

 これは、確実に私の心臓を斬り裂くための、立派な構えです。見ていて惚れ惚れしますね。


「勇者殿、あとはご自分のタイミングで……」

「わかっています」


 裁判長さんはそう言い残し、横にはけていきました。残ったのはアーサーさんと、みすぼらしい状態の私だけ。

 最後だし、遺言くらいならいいかな? 小声でならいいよね。


「…… アーサーさん、その…… 私はあなたに…… 伝えたいことがあるんです……」

「…… なんだい?」


 この機会を逃したら、もう言う余地はないですからね。しっかりと、噛まずに言い切りましょうか。なんだか緊張してきました。こんな時は深呼吸ですね。


 すぅ〜、はぁ〜、すぅ〜、はぁ〜…… よし!


「ええとですね、アーサーさん。私、実は、あなたのことが…… あなたのことが、好き、なんです……」


 むぅ〜! いざ言うとやっぱり恥ずかしいです! アーサーさんの顔が見れません! 最後なのに!


「……!」


 とりあえずわかったのは、アーサーさんが息を飲んだことくらいですね!

 ああもう! 恥ずかしいので、ちゃっちゃと殺してください! んん〜! でも、やっぱり最後なので、顔は見ちゃいます!

 アーサーさんは涙を浮かべて、笑顔でした。


「ごめんね、クラリスさん」


 ああ、フラれちゃいましたか……


「あがっ……」


 私の胸の中心に、剣が深く突き刺さりました。

 ……!? 痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

 刺された部分が熱くなって…… あ゛あ゛〜! 魔王の生命力がここで邪魔をしますか! もっと楽に逝かせろってんです! まったく!

 あ、でも、なんかだんだん、視界が暗くなって…… 痛みも薄くなってきましたね……

 これが…… 意識が遠くなる感覚ですか……

 …… もう、なにも感じられませんね。

 なんか、痛みが収まってきたので、アーサーさんの顔がよく見えます。

 そんなに泣かないでくださいよ、アーサーさん。私だって、アーサーさんと離れるの、嫌なんですから。

 あ、でももう、涙は出ませんけどね。昨日でとっくに枯れました。

 …… ふふ、なんかこれ、悪くないかもです。私の好きな人が、私のために泣いてくれるなんて…… 感激です。

 …… もうほとんど、目も見えなくなってきました…… 意識の方も、本格的にぼやけてきました。

 なるほど…… これが………… 死。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 僕はクラリスさんの体から、儀式用の剣を引き抜いた。


「終わりました」


 広場に集まっている教国の住民から、溢れんばかりの拍手が巻き起こる。それでも、僕の気分は晴れない。

 死なないように、心臓のすれすれを刺したとはいえ、僕はクラリスさんを刺したんだ。

 僕のことを、好きだと言ってくれた人のことを……


「勇者殿、魔王の死体はどう致しますか?」


 脇にいた裁判長が、僕に話しかけてきた。

 僕はクラリスさんの、少しだけ口角の上がっている顔を見てから、裁判長に振り返った。


「魔王の体は特別です。あの体は、僕が持ち帰ります」


 すると、裁判長が少しホッとしたような顔つきになった。死体であっても、魔王に触れたくなかったのだと思う。


「勇者殿のご厚意、感謝致します。それでは、私はこれで……」

「はい。ありがとうございました」


 普通の公開処刑であれば、約一日は、この場に死体を置いておく。でも、今回ばかりは我慢ならない。

 僕は、『魔王であるから』という理由をつけて、クラリスさんを早々に回収し、タオルで包んで、大きめの革袋に入れた。

 僕は、ディヴェルト王国の辺境の森の中にある隠れ家にクラリスさんを連れていく。

 この家は、教国の勇者としてではなく、一般人アーサーとして建てた、小さな一軒家だ。

 『勇者』という立ち回りが嫌になった時にこもっていた隠れ家だけど、まさかこんな形で使うことになるとは思いもしなかった。

 僕は革袋からクラリスさんを取り出し、ベッドに寝かせる。すごい。もう血が止まってる。ありえないほどの回復力だ。

 僕はクラリスさんの服を脱がして、身体中を消毒し、包帯を巻いた。

 すごく、綺麗な体だった…… って! 僕はいったいなにを……!

 気を取り直して、僕の服をクラリスさんに着させる。少し大きめだけど、着れないほどじゃない。

 男として、もう少し身長差が欲しいと思うけど、今回ばかりはこの身長差に感謝すべきだね。

 あとは、クラリスさんを死んだことにして、ここで隠居生活を送ってもらえば、なにも問題はないはず。

 早く起きてくれないかな…… さっきの告白の答え、まだ言ってないし……

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