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アーさんとデート

 次の日の昼、私は居酒屋の接客をしていた。


「いらっしゃいませー!」


 大きな声でお客さんをお店に招く。しかし、肝心のお客さんは、機嫌の悪そうな顔をしたまま、私を無視してお店に入っていった。

 その男はいつもの槍を持っておらず、私の横を通る時に小声で呟いた。


「魔物が溶け込みやがって」

「……」


 ディックは相変わらず、私を親の仇のような目で見てきた。すると、お店の裏の方から元気な声が聞こえてきた。


「あら、ディックじゃないかい! 久しぶりだね!」

「カーラさん…… お久しぶりです」


 ディックは私をチラ見した後、カーラさんを哀れむような目で見た。私が魔物だと知らないカーラさんに、同情しているのだろう。

 ディックが中の方に入ると、お客さんがもう一人やってきた。

 私はお客さんの方を向き、声を出す。


「いらっしゃいませー!」

「君は昨日の……」

「あ! アーサーさーーうむ!?」


 アーサーさんは、名前を言いかけた私の口を、慌てて手で塞いだ。


「その名前は、人前では言わないでくれるかな?」


 私は若干動揺しつつ、首を縦に振った。


「ごめんね。ありがとう」


 アーサーさんは、私の口から手を退けた。


「い、いえ…… あの、じゃあなんて呼べば?」

「そうだなぁ。アーさんとでも呼んでもらえるかな?」

「ア、アーさんですか?」

「そう、アーさん」

「…… うふふ。変な偽名ですね」

「え? そうかな?」


 略称としてもおかしい。アーサーさんのネーミングセンスは、結構残念なようだ。でも、それもいい。


「それじゃあ、アーさん。どうぞゆっくりしていってくださいね」

「うん。ありがとう」


 私はアーさんを席に案内して、水を出す。


「ご注文はお決まりですか?」

「焼き鳥とオレンジジュースをもらおうかな」

「焼き鳥とオレンジジュースですね。少々お待ちください」


 注文を受け、私が裏方の方に戻ろうとした時、突然なにかを叩くような音が聞こえた。なにごとかと思い振り向くと、そこには机に手をついて立ち上がっている、ディックの姿があった。


「ど、どうして教国の勇者が…… 魔物と……」


 ディックは、私の地獄耳でなければ聞こえないような小さな声でそこまで言うと、自分が浮いてることに気がつき、慌てて椅子に座った。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 昼のラッシュが終わり食器の片付けも済んだあと、私は作業服から私服に着替えて、図書館に向かった。すると、向かう途中で見たことのある人を見つけた。


「やあ、また会ったね」

「アーさん!」


 愛しのアーサーさんだ。


「クラリスさん、申し訳ないんだけど、少しつきあってもらえないかな?」

「喜んで!」


 おっと、即答してしまった。もっとお淑やかに。淑女の嗜みを忘れるな、私。


「ありがとう。それじゃあ、行こうか」


 そう言ってアーサーさんは、私の右手をそっと握った。思わず、私の鼓動が早くなる。

 はわわわ。これはちょっと、厳しいかもしれない。指先を軽く握られているだけとはいえ、こんな恋人みたいな…… アーサーさんと恋人…… うへへ。


「クラリスさん?」


 突然の出来事にうつむいてしまった私に、アーサーさんは優しく声をかけた。


「あ! だ、大丈夫ですから! い、行きましょう!」

「ほんと? 顔が赤いけど、熱でもあるんじゃない?」

「こ、これは違いますよ! ちょっと暑いだけです!」


 都合のいいことに、今日の気温はいつもより少しだけ高い。


「確かに、今日は日差しが強いからね。女の子は、日焼けに気をつけなきゃ」

「その通りです! さあ、早く行きましょう!」

「うん。僕から離れないでね」


 うへへ…… 幸せ。


 アーサーさんについて行くと、そこは女物の服屋だった。


「ここは?」

「女性の服を売っているところだよ。知り合いにプレゼントしたいと思っててね」

「お知り合い…… ですか」

「ああ、僕の大切な仲間さ」


 つまり私は…… 着せ替え人形?

 私は沈んだ雰囲気で、アーサーさんの選んだ服を、店員さんに着せ替えられていく。だいたい十着ほど着替えたところで、私の前で顎に手を当てていたアーサーさんが口を開いた。


「よし、決めた。最初と最後のやつをください」

「承知しました」


 店員さんが私の所に来て、私が着ている服を脱がせようと手をつける。すると、アーサーさんが再び口を開いた。


「あ、ちょっと待って。その服は彼女にプレゼントするぶんだから、脱がせないでね」

「!?」


 この服を…… 私にプレゼント!?

 着心地がよくて軽く、いかにも高そうなこの服を私にくれるの!?


「アーさん! いいんですか!?」

「え? それはもちろん、いいに決まってるよ。だって、ここまでつきあってくれたわけだし。それに…… クラリスさんは、僕の数少ない友達だからね」


 アーサーさん…… 私、感激しました!さすがはイケメンです!


 あまり派手ではない白を基調とした服をプレゼントされ、ルンルン気分の私は周りの目なんて気にせず、アーサーさんの胸に飛びついた。


「ク、クラリスさん!?」

「えへへ…… アーさん、ありがとうございます〜」

「こ、こんな場所で、ハシタナイよ!?」


 赤面してカタコトになってるアーサーさん、カワイイ〜。

 こうして今日は、幸せ気分で終わった。

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