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ディヴェルト王国

 洞窟の外に連れ出され、馬車の荷台に適当に投げ入れられた私は、外の景色を見たまま丸くなっていた。

 なにせ、ディックの目つきが怖いのだ。背中を向けていても感じる、この刺すような視線。

 私はなにもしていないのに、なにかやらかしたような気分になってくる…… 気まずい。

 とにかく、このままされるがままにされるのは嫌だし、疑問を解消するためにも、少し質問をしてみよう。


「あの…… 私はこれから、どこへ連れて行かれるんですか?」

「お前に答える義理はない」


 ディックによる即答が、私の質問をたたき折った。

 私を助けてくれたあの優しい隊長さんなら、この失礼なディックに対してなにか反論を出してくれるかとも思ったけど、そんなものはなかった。

 この調子じゃあ、他の質問も切り捨てられて終わりだろうし、どうしよう……

 とりあえず、知らない単語の確認をすればなにかわかるかもしれない。

 ええと、今まで出てきた中で、私が知らなかった言葉は……


「マモノ…… ディヴェルト……」


 やっぱりこの二つかな。

 ディヴェルトの方は、なんとなく場所の名前だってことは話の流れからわかったけど、マモノっていうのがわからない。

 どうやら私がそのマモノらしいけど、私人間だし…… いや待てよ。よくよく考えたら、人間がゾンビを食べるっておかしくない? てかその前に、首が落ちたり、骨が見えてたり、ゾンビを食べると肌がピチピチになったり…… もしかして私、人間じゃない?


「あの、私って人間じゃないんですか?」


 気がついたら口に出ていた、そんな言葉。なんか、自分で言ってて虚しくなってきた。まさかそんなわけないよね。私、人間だよね。だよね?


「人間なわけないだろ」


 そんな私に、ディックの鋭い言葉が突き刺さる。やっぱり、ゾンビを食べる人間はおかしくか。ちょっと、ここに来て一番ショックかもしれない。私、人間じゃないんだぁ……


「着いたぞ」


 隊長さんの声が聞こえて、馬車の進行方向を見てみると、木でできた門が正面にあった。というか、木の門以外なにもない。ただの平原に、ポツリと門がある。

 高さは二メートルくらいで、それなりに頑丈そうな見た目をしている。

 そんな木の門に向かって馬車が進んでいき、距離が狭まると門が突然唸り出し、勝手に開いた。


「ええ……?」


 なに? 自動ドア的な? 木ってコンピュータになるんだっけ?

 私の困惑も知らず、馬車は門の中に入る。するとそこには……


「うそでしょ……」


 建造物の群れ。

 さっきまでなにもない平原だったのに、門をくぐった瞬間、街が現れた。いったいどういうことなの……?


「ゲン隊長! お帰りなさいませ!」


 私が呆然としていると、馬車の脇に武装した少年が来て、隊長さんに向かって敬礼をした。隊長さんの名前って、ゲンって言うのか。


「ああ、ただいま。ディヴェルト陛下は今大丈夫か? 合わせたい人がいるんだが」

「大丈夫かと思われます。隊長の帰還の報告と同時に済ませれば、時間的にも問題ないかと」

「そうか、ありがとう。それでは、街の警護に戻ってくれ」

「はっ!」


 再び敬礼をして、少年は離れていった。

 それと同時に馬車はスピードを上げ、この街の中で一番背の高い、お城のような場所に到着した。


「早く降りろ」


 ディックに言われて、私は馬車から降りる。すると、隊長さんが近づいてきた。


「すまないが、これからこの国の王、ディヴェルト陛下との会談がある。あまり無礼のないようにしてくれな」

「は、はい」

「ハッ、そんなことが魔物にできますかね?」

「む、私だって、失礼のない行動くらいはできます」

「魔物のくせに、口だけは達者だな」

「ふん」


 ディックの言うことは無視しよう。


「それじゃあ、私に着いてきてくれ」

「はーい」


 私はディックの前に出て、隊長さんの真後ろを陣取った。ディックが私のことを睨みつけていたが、顔さえ見なければ怖くないもんね。

 城の中の複雑に入り組んだ道を通って、レッドカーペットの敷かれた応接間に入ると、正面にヒゲの生えた怖そうなおじさんが座っていた。

 隊長さんたちが応接間の真ん中あたりで跪いたので、私もそれに合わせて頭を下げる。


「第一番隊隊長ゲン、ただいま戻りました」

「うむ。遠征、ご苦労だった」

「有り難きお言葉」


 王様の労いで、さらに深く頭を下げるゲン。


「それで、話とはなんじゃ?」

「はい。それはこの魔物のことでございます」


 魔物という単語を聞いて、王様の周りにいる臣下たちがざわめき出す。

 王様はそれを右手を上げることで制し、話を促した。


「その者が魔物であるのか?」

「はい。その証拠に、赤い瞳を持ち合わせています。君、顔を上げろ」

「は、はい」


 隊長さんの言われた通りに顔を上げ、王様を見つめた。

 私の目を見た王様は、表情を険しくした。


「言葉を理解する魔物は、これまでにも確かにいた。しかし、それはすべて討伐対象であった。それなのにもかかわらず、その者をここに連れてきたのはなぜじゃ?」

「この者に、敵対の意思がなかったからです」

「ほう。というと?」

「はい。この者は、私の隊員であるディックの魔力のこもった槍を前にして、抵抗することなく、命乞いをするのみでした」


 隊長さんの話を聞いた王様は、呆れたようにため息をついた。


「なるほど、お主らしい。つまり、敵でないのなら、それは味方じゃと言いたいのじゃな?」

「その通りでございます」

「なら、その目はどうする? 今や国民にとって、赤い目は負の象徴。その目がある限り、ここにはいられぬぞ」

「人前では、さらしを巻いていればよいでしょう。隠すことは、そこまで難しいことではありません」

「では、どこに置いておくつもりじゃ?」

「私の妻は居酒屋を開いております。そこの店員として雇おうかと」

「なるほど。研究対象兼、居酒屋の看板娘か。悪くはないのう……」


 王様は、しばらく考え込むと、顔を上げて口を開いた。


「わかった。それで構わんが、もしもの時の責任は取ってもらうぞ?」

「承知いたしました」


 どうやら話がついたらしい。

 隊長さんたちが立ち上がったので、私も立ち上がる。

 これからどうなるんだろう?

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