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すべての始まり

 はてさて、みなさんのアイドルであり、由緒正しき初代魔王! クラリスお姉さんの昔話をみなさんに聞かせてあげましょう!

 アルフレッドさんは私の記憶を垣間見ているので知っていますが、それをみんなに伝えないのは不公平ですからね!

 それでは、『番外 クラリス編』始まり始まり……


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「ここは……」


 見渡すと、周りは真っ暗。

 確か、さっきまで横断歩道を渡っていた気がするんだけど、ここはどこ?

 私は宮城沙知代みやしろ さちよ。なんの変哲も無い女子大生。だったはずなんだけど……


「あ゛あ゛〜」


 今私の目の前には、大口を開けてこちらに向かってくるゾンビがいる。


「なにこれ!?」

「あ゛あ゛!」

「うわぁ!」


 こちらに倒れこんできたゾンビを紙一重で躱す私。


「う゛う゛う゛?」


 目算が外れ、なにもない地面に衝突したゾンビは不思議そうに呻いている。

 非現実的な連続で頭が追いついていないけど、とりあえず言えることは一つ。


「ここから逃げなきゃ!」


 私は、人生で一番速く走った。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 なにもない小さな洞穴の中で、息をひそめる私。


「あ゛〜」


 外からは、さっきのゾンビの声がする。


 私は今、隠れることしかできない。しかし、だからこそ、まずは状況を整理しよう。

 …… 冷静な私、かっこいい。

 私はさっきまで、横断歩道を一人で歩いていた。そうしたら突然目の前の景色が入れ替わり、真っ暗な空間と、大口を開けたゾンビが正面にいた。

 …… 状況がいきなり変わりすぎて、まったく整理がつかない。


「う〜ん……?」


 ゴト……

 頭を回転させるため、首を傾げた私。そんな私の頭が、地面にぶつかった……


「へ?」


 眼球を動かして、上を見上げてみる。するとそこには、腕を組んだ状態で首を傾げている、頭のない体があった。


「ヒィヤァ!?」


 驚いて変な声が出た。

 首から上のない体は、そんな私の気持ちを代弁するかのような動きを見せた。端的に説明すると、ビクッと体を震わせて後ろに仰け反り、首の方からひっくり返ったのだ。

 対する私は動けない。声は出るし、体の感覚もあるのに、なぜか動けない。

 叫び声をあげながらここから逃げ出そうと、全力でジタバタもがいていると、あることに気がついた。

 さっきから、私がしようとしている動きを、あの頭のない体が行なっているのだ。


「…… もしかして」


 私が体を動かして立ち上がろうとすると、頭のない体は立ち上がった。

 私が手のひらを動かそうとすると、頭のない体が手のひらを動かした。

 私が習ったこともない中国拳法の真似事をすると、頭のない体が構えを取った。


「やっぱり……」


 あの体、私の命令通りに動いてる。てことはもしかして……

 私は目を動かして、私の頭の下を見た。するとやはり……


「私の体がない……」


 頭のない体。体のない頭。

 これはどう考えても合体するはずだ。そう、なにがどうであれ、合体するはずだ。

 だって世の中には、三つのパーツが組み合わさってロボットになるという、有名なロボットアニメがあるのだから。

 私は体を動かして、私の頭を掴み、首元に無理やり乗っけた。

 じゃきーん! 機○戦士Vサチヨ!


「??」


 繋いだのはいいものの、なぜか後ろしか見えない。これはいったい……?


「あ!」


 頭の向きが逆だった。いけないいけない。これじゃカッコよくない。

 私は慌てて、自分の頭を付け直した。

 すると、正面を向いた私の目の前に、見覚えのある影が……


「あ゛あ゛!」

「きゃあ!」


 どうやら私の叫び声で、ゾンビがすぐ近くまで来ていたらしい。

 私は、今度こそゾンビの噛みつきを避けられず、目を瞑って左腕を盾にした。

 ゾンビに噛まれた私の左腕はちぎれ、私は激痛で叫びちらす…… かと思ったが、そんな激痛はいつまでたっても襲ってこなかった。

 私はゆっくりと目を開ける。

 するとそこには、私の左腕に噛み付いたまま動けないでいるゾンビがいた。


「もしかして、このゾンビ…… 弱い?」


 私の腕を甘噛みするようにしゃぶるゾンビを見ていると、だんだん腹が立ってきた。

 私は右腕を振り上げ、拳に力を込める。


「乙女の柔肌に、なにしてくれとんじゃあ!」


 私の拳はゾンビに突き刺さり、ゾンビの顔面は破裂した。


「へ?」


 体のみとなったゾンビはバランスを崩し、ゆっくりと地面に転がった。

 私の予想では、拳でゾンビを怯ませ、その隙に逃げるつもりだった。それなのに…… 破裂?

 私は異常な力を発揮した自分の拳を眺める。いたって普通の拳だ。

 肉があり、皮があり、ところどころ骨が見えている。


「ん? 骨?」


 不思議に思った私は、自分の体を見渡した。

 そこにあったのは、私の思っていた乙女の柔肌などではなく、ボロボロの皮膚とちぎれかけている肉、そして薄汚れた骨だった。


「ぎゃあぁ! 私の体がぁ!?」


 これじゃあまるでゾンビだ。いったいなにがどうなったら、私の肌がこんなズタボロになるんだろう?


「はぁ…… わけがわからないことばっかり……」


 ふと、私が倒したゾンビを見てみると、やはり私の肌の状態と似ている。

 ショックだぁ…… こんなゾンビと同じだなんて……

 私がゾンビを見て落ち込んでいると、気がつくことが一つあった。このゾンビ……


「美味しそう…… って、なに言ってるの、私!? ゾンビが美味しいわけ…… じゅるり……」


 私はゆっくりと死んだゾンビに顔を近づけ、血の吹き出ている部分を舐めてみる。


「んん!?」


 この癖の強く、鼻を刺激するような臭みのある味……!? 美味しい!

 私は、ゾンビの死体を貪り食った。


「ぷはぁ…… 美味しかったぁ」


 食事もひと段落して、壁に背を当てて食休みをしていると、体になにかが吸い込まれていくような感覚に陥った。


「んむ…… なんだこれ?」


 めまいが私を襲い、バランスが取れずに横に倒れこむ。

 めまいはどんどん強くなっていき、ついには私の意識を奪った。

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