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ビューレ・レリギオン

最終章でファミリーネームが発覚する三人目の婚約者

「アルフレッドさん!」

「ん? ビューレ?」


 俺は今日、真神教の発祥地と言われている教会でビューレと待ち合わせをする予定があり、今その教会に向かっている途中だったのだが、なんと、たまたま待ち合わせ相手であるビューレと出会ってしまった。


「待ち合わせの意味…… なくなっちゃいましたね」

「ああ…… まあ、どうせ教会には寄る予定だったし、一緒に向かうか」

「はい!」


 ビューレと並んで、歩幅を合わせて歩く。その間ビューレは、ずっとニマニマしていた。


「どうした?」

「え? あ、いや、そのですね…… 実は私、こうやってデートするのが初めてなんです!」


 聖女として、ファブリと出会うまでは完全に決められた生活を強いられていたビューレ。彼女は圧倒的に、外出の経験値が低い。


「デート初体験か…… まあ、これといって特別なことはしないつもりなんだが」


 今日は一日、ビューレとおしゃべりをする気でいた。だが、今までのこととこれからのことを考えると、少しははしゃいでもいいかもしれないな。


「街には色々なものがありますね…… あ! あれはもしかして服屋さんですか? 初めて見た気がします……」


 興味津々に遠目で服を眺めるビューレ。


「…… そうだな。少し寄って行くか」

「え!? 服屋さんにですか!?」

「ああ。似合うやつをいくつか買ってやるよ」

「いいんですか!?」

「もちろんだ。ほら、行くぞ」


 これも、男の甲斐性ってやつだ。


「いらっしゃいませー!」


 店の中に入ると、煌びやかで豪華な服がたくさん並んでいて、こちらにあいさつをしてきた店員の服さえも、高級なものに見えた。

 大通りの服屋なのに、客層は貴族向けらしい。

 庶民は基本的に、食料にお金を使おうとするので、服屋は服だけではやっていけない。そして、大通りは庶民が多いので、基本的にはもっと雑貨屋的な雰囲気になる。


「この子に似合う服を何着か頼む」


 初めて店に入ってオドオドしているビューレの背中を押して、店員に差し出す。

 今のビューレの服は、白いワイシャツに黒のスカート、その上から白いマントを被ったような状態だ。

 さて、この服装からどうなるかな?


 〈一着目〉


「あの…… これ、似合ってますか?」

「え? あ、ああ…… 似合ってはいるぞ」


 ビューレが試着室から出てきた時、俺は放心してしまった。なぜなら、ビューレが全身茶色の布に包まれて出てきたからだ。

 ビューレの服装を簡単に説明すると、ヘジャブというやつだ。ほら、元の世界のイスラームの女性が着ているアレだ。


「どうでしょう!」


 ビューレの後ろから、満遍の笑みの女性店員が出てくる。

 どうでしょうと言われても……


「ええと…… 次、お願いします」

「了解です!」


 〈二着目〉


「これはあれですね。シスターの方たちがよく着ている……」

「修道服ってやつだな。似合ってるぞ」


 次に試着室から出てきたビューレが着ていたのは、今言った通り修道服だった。

 ビューレの元のイメージが清楚なので、これはよく似合っている。ただ、オシャレ…… なのか、これは?


「どうでしょう!」


 再びビューレの後ろから、女性店員がひょこっと顔を出した。

 だから、どうでしょうと言われても……


「三着目…… お願いします」

「わかりました!」


 〈三着目〉


「へ!? これはいけませんって!」

「大丈夫ですよ! 彼氏さん、きっと喜びます!」

「かかか彼氏だなんて……!」


 今度は試着室の中からドタバタが聞こえてきた。

 そういえば言い忘れていたが、俺とビューレは魔道具で変装済みだ。おかげで、店員は俺たちが誰なのかわかっていない。

 …… 誰なのかわかっていたら、こんな服は着させないだろう。


「さあ! いきますよ!」

「ま、待ってくださいって! ひゃあ!?」


 勢いよく開けられた試着室のドアから覗くのは、満足顔で飛び出してきた女性店員と、露出の多い服を着て、ウサミミの生えたビューレ。


「バニーガール……」

「みみみ見ないでくださいい!」


 ビューレは恥ずかしさのあまり、開いているドアを勢いよく閉めた。


「あら、恥ずかしがっちゃいましたね」


「へへっ」と笑って、俺に話しかけてくる女性店員。

 俺は、そんな女性店員に疑問を投げかけた。


「この店には、まともな服は置いてないのか?」

「へ? だってお客様、この店は……」


 俺は周りにある服を軽く見渡してみる。そして、気がついてしまった。この店にある服はすべて……


「コスプレ専門店ですよ?」


 俺は頭を抱えた。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 服屋を出て、教会に向かう俺とビューレ。


「すまん……」

「あ、いえ…… アルフレッドさんが悪いわけじゃないですし……」

「いや、俺が悪かった。ちゃんと看板を見るべきだった」


 初外出でこんな経験をして、ビューレが怖がって服を買わなくてなったらどうしよう……


「本当に大丈夫ですよ、アルフレッドさん。私、ああ見えても楽しかったですから」

「バニーガールが?」

「あれは、ちょっと違いますけど…… でも、いろんな服を着れてよかったです」


 心配はいらなかったみたいだな。

 ビューレにとって、あれはすべて新鮮な体験。恥ずかしくても、心は踊ったのだろう。


「そうか。なら……」

「あ、でも、もうバニーガールは嫌ですよ?」

「……」


 …… また着させようと思ったのに。


「それは残念だ」

「な! またあんな格好させる気だったんですか!?」

「似合ってたからな」

「嫌ですよ! 絶対!」

「そっちの方が夜ははかどりそうだ…… なんてな」


 ビューレへのからかいがエスカレートしていく中、夜という単語に首を傾げたビューレ。


「夜? 夜になにかするんですか?」

「…… 知らないのか?」

「寝ること以外に、なにかやることがあるんですか?」


 そっち方面は無知の子だったかぁ……


「そうだなあ…… 結婚したら教えてやるよ」

「ええ! お預けですか!? そんなの酷いですよ!」

「いや、ほら、なんだ…… 子孫繁栄は大事だろ?」

「それは大切なことですね。そういえば、お爺様が言っていたのですけど、キスすると子供ができるって本当ですか?」

「ん? ああ、それはなんというかだな…………」


 なんか、娘を相手している気分になってきた。まだ娘いないけど。


「アルフレッドさん?」

「もう、それでいいや」

「へ? どういう意味ですか?」

「結婚したらキスしようなって意味だ」

「な!? こんな場所で言わないでくださいよ!」


 俺は少し早足になって、教会に向かった。


 教会に到着した俺たちは、中の女神像がある場所の椅子に、隣り合わせで座った。

 俺の魔眼の視界には、高位の精霊たちが遊んでいる姿が見える。


「その魔眼って、どこまで見えるんですか?」


 精霊を目で追いかけていると、ビューレが話しかけてきた。


「どこまでっていうのは、難しい質問だな」

「どのくらいの方がいいですか?」


 言葉で表現するのが難しいって意味だったんだが。


「そうだな…… 少なくとも、まだ神は見えないな」

「いつかは見えるようになるんですか?」

「それはわからんなあ。どこまで進化するのかは未知数だし」

「白い魔眼ってだけでも初めてですからね」


 俺じゃなくとも、魔眼に特殊な能力が付与される、という特異魔法を持った魔王はいた。しかし、その魔王の目は赤かったそうだ。

 それに対して、俺の瞳は白い。そして俺は、既にリペルという特異魔法を持っている。

 特異魔法が二つ以上発現した人物が過去にいないため、俺の魔眼は特異魔法ではなく、進化の結果によってできたと考えられる。

 魔物の特徴である、急激な進化。それが、俺の身にも起きているのだと思うと、改めて人間でなくなったという実感が湧いてくる。


「ただ、今は魔眼より、国の今後を考えないとな」

「ハイタス王国の政策ですか?」

「それもあるが、俺の担当は、ハイタス王国に従わなかった魔族をどうするか…… って方だな」

「そうですよね…… ハイタス王国にいる魔族が、魔族のすべてってわけではないんですよね……」


 ビューレは下を向き、少し暗い表情になった。


「ああ。集団で意見が分かれるのは当然だが、魔族たちが、自分と意見の違う同胞のことをどう思っているのか…… それがよくわからん」


 ナディアに言わせれば、すべては魔王様の思うがままに…… なんだが、さすがに国として成立させるためには、俺の意見だけを尊重するわけにもいかない。


「大変そうですね……」

「いや、これは別に、そこまで大変ではないんだ」

「え? そうなんですか?」


 俺という魔王がいる限り、魔族からは魔王は生まれない。つまり、散らばった魔族には纏め役がいないわけだ。

 バラバラの魔族に対して俺ができるアプローチは、結局は一人一人勧誘するか、殺すかの二者択一になる。そこまで深く考え考える必要もない。


「むしろ大変なのは、ビューレやオリヴィアの方になるだろうな」

「私とオリヴィアさんが?」

「国の中の魔族や亜人たちの意見は、ビューレとオリヴィアの二人に集中することになる。というか、それを聞いて、対策を考えるのがお前たちの仕事だ。これは意外と大変だぞ?」


 本当は俺やリューリクが直接聞ければいいんだが、俺たちはやることがある。

 例えば、さっきビューレが言った通り、多種族混合国家であるから、それぞれが受け入れられるルールを考えなければならない、だとかな。

 今までは、種族ごとに固まって国を作っていたから、これがなかなか難しいのだ。


「女性も働くことになるんですね……」

「なんだ? 自分だけは部屋に閉じこもってる気でいたのか?」

「いえ! そんな! ただ、まともに仕事を与えてくださるのだな、と」

「俺はフェミニストだからな」


 人間、魔族、亜人の平等を掲げるのなら、それと一緒に男女平等も掲げたい。

 いつかは王政も廃止して、民主主義をするのもいいな。その際の俺の役割は、真っ先に国王を引きずり落とすことだろう。

 果たしてそれは、何世代後のことになるかな?


「本当に、いろんなことを考えているんですね……」

「それが魔王としての役目だ」

「魔王…… 昔とは、ずいぶん意味が変わってきた言葉ですね」


 ビューレがしみじみと呟いた。


「魔王といえば、破壊と殺戮の権化だったからな」

「それが今では、希望と未来の象徴ですか」

「そんな大層なもんじゃない。俺はただ、みんなを守りたいだけだ」

「そうですね。みんな、アルフレッドさんを信じています」


 つい先日、リベリオンのみんなにも俺の正体を完全に明かした。当たり前だが、既にみんな気がついていて、笑いながらこう言われた。


「あなたが誰であろうと、俺たちはついていきますよ」と。


「俺は今まで、みんなに救われてきた。支えられてきた。だから今度は、俺がみんなを引っ張っていけるように頑張る」


 ビューレはこちらを見て、微笑んだ。


「もうできてますよ」


 その笑顔を見て、俺は安心することができた。自然に頬が緩む。


「そうかな」

「ええ、私たちはみんな、あなたの温もりに守られているんです。あなたは太陽なんですよ」

「俺が太陽か……」

「だから、私は月になります。空が回るように、私はあなたを追いかけます」

「なるほど。追いつかれたら、尻を叩かれそうだ」

「思いっきり叩きますから、頑張って逃げてくださいね?」


 見えないミチへの、追いかけっこの始まりだ。

レリギオン裏話


第27話『アバークロンビー家の反応』にて、「レリギオン教」という宗教が教国に存在している云々と書きましたが…… 作者がそのことを完全に忘れ、第105話の『教国の考え』にて新宗教「真神教」(レリギオン教と同一の存在)を設立。

後に設定のズレに気がついた作者は、慌てて第27話の「レリギオン教」を「真神教」に直しましたとさ。


おしまい

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