オリヴィアの生きる道
回復を終え、ソフィの膝から起き上がると、ナディアたちが俺の目の前で跪いた。
代表して、ナディアが口を開く。
「魔王様、申し訳ありません。エドを逃してしまいました」
「気にするな。生きてるだけで十分だ」
「ありがとうございます」
四人を立ち上がらせると、飛空挺からヨハンが降りてきた。
「おい、お前ら! 早く飛空艇に乗れ! ここも爆発するんだろ!?」
「まだ多少の時間は残ってるだろうに、ヨハンはせっかちだな」
俺はヨハンをからかったが、それでもヨハンの焦りは収まらなかった。
「いいから早く乗れって! もしかしたら、早く爆発するかもしれないだろ!?」
「わかったわかった、すぐに乗るよ。ほら、行くぞ、オリヴィア」
俺がそう言ってもオリヴィアはなかなか動かなかった。見兼ねた俺は、オリヴィアの方に振り向く。
「どうした? 早くいくぞ。ほら」
「…… 私なんかが行ってもいいの?」
俺が手を差し出すと、オリヴィアは目を伏せながら聞いてきた。
「何言ってんだ? 当たり前だろ?」
「…… でも、私は兄さんについて行って、この大陸を滅ぼそうと……」
オリヴィアは、自分のやったことが悪いことだから、俺たちについて行ってはいけない、と考えているようだ。
俺は少しかがみ、オリヴィアと目線を合わせる。
「確かにあの時、オリヴィアは自分の意思でジンの側についた。だが、大陸を滅ぼすこともお前の意思だったのか?」
オリヴィアは、余計に目を下に向けながら答えた。
「…… それは違うけど…… 許されることじゃない」
「その許さない人って、一体誰だ?」
「…… 誰って…… 滅ぼされた国の人たち……」
「なら、償うしかないだろ?」
一瞬、オリヴィアの動きが止まった。
「………… 償う?」
「ああ、迷惑をかけた人たちに一生をかけてな。この帝国の人々、そして、元ラント王国の人々に、お前は全力をかけて償うんだ。例え許されることがなくても、それはオリヴィアがここで死ぬよりも、何倍も価値のある行動をすることになる。
そして、その舞台は俺が用意してやる。だから、オリヴィアはここで死んではいけないんだ」
それを聞いて、オリヴィアはやっと、俺と目を合わせた。
「…… 私に、できるかな?」
「オリヴィア、お前は一人じゃない。どんな辛い時でも、俺とソフィがいる。だから、一緒に頑張っていこう」
「…… わかった。頑張る」
俺はオリヴィアの頭に手を置き、優しく撫でてやった。
それによってオリヴィアも、少しだけ笑顔が出てきたように見えた。
「アルフレッド! 早く乗れよ!」
どうやら、俺とオリヴィア以外は飛空挺に乗ったようで、ヨハンが急かしてきた。なので俺は、オリヴィアに再び手を差し伸べた。
「ほら、みんなが待ってる。行くぞ?」
「…… うん!」
オリヴィアは俺の手を取り、二人で同時に飛空艇に乗り込んだ。すると、飛空艇の入り口には勇者一同が待っていた。
一番最初にソフィが近づいてきて、オリヴィアの前に立ちはだか…… 浮きはだかる。
「オリヴィア、お帰り!」
「…… ソフィア…… ただいま! そして、ごめん……」
オリヴィアは、ふわふわと浮かんでいるソフィを見ると、少し下を向いて、謝罪の言葉を口にした。
「私をこんな状態にしたことは許しません!」
ソフィは一度だけ鼻を鳴らし、大声で言った。
「…… ごめん……」
オリヴィアはソフィの迫力に呑まれ、完全に俯き、もう一度謝罪の言葉を口にした。
「アル君の子を、三人産むまでは!」
しかしソフィは、さっきと同じように大声で、しかし今度は優しさを感じさせるような声を出した…… いや、は?
「…… え?」
思わずポカンと放心するオリヴィア…… と、俺。
「ほら、見ての通り、私ゴーストになっちゃったから、子どもは産めないでしょ? だから、その分オリヴィアが産んでね?」
「………… わかった。ソフィア、ありがとう」
条件はともかく、どうやら二人の間でも、しっかり和解はできたようだ。
これから嫁になる二人の仲が悪いと、家族として気まずくなるからな。よかったよかった。
オリヴィアは、アレックスたちの方を向く。
「…… アレックス、ターニャ、ランベルト、ジュリア…… ごめんなさい」
「まったく! これだから仲間を増やすのは反対だったんだ!」
アレックスは壁に背をつき、オリヴィアを睨みながらそう言った。
それを見て、ターニャとランベルトと、人化したジュリアがアレックスに白い目を向けた。
「アレン、さすがに可愛そうなのにゃ」
「というか、アルフレッドとオリヴィアを仲間に加えたのって、一体何年前のことに怒ってんだ?」
「心が小さい…… どうしてこれで勇者なのかしら?」
アレックスは三人の言葉を聞いて、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「冗談だよ! でもまあ、よかったな、アルフレッドが優しくて…… いや、厳しいか」
「…… 厳しくてもいい。アルフレッド、ありがと」
オリヴィアはこちらを見ながら、笑顔で言ってきた。俺は、そんなオリヴィアに微笑みを返す。
『それじゃあ、飛空艇オウル・リベリオン。出発する!』
突然艦内放送が響き、それと同時に、不思議な浮遊感が俺たちを襲った。飛空挺が浮き上がったらしい。
「…… 飛行機みたい」
「確かに。違いは、滑走路がなくてもいいってところだな」
「…… ユーフォー?」
「これはオカルトじゃなくて、ファンタジーだぞ?」
ザ・日本人と話している感じだ。なんとも懐かしい。
ちなみに、一連の流れを聞いていた純ディヴェルト人のみんなは、ポカンとしていた。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
俺とオリヴィアは船の中にあった椅子に座り、窓から燃える帝都を眺めていた。
「…… そろそろ時間?」
「ああ、残り三十秒くらいだな」
もちろん、ジンが最後に起動した爆弾のことである。
オリヴィアが、帝都の最後を見届けたいと言ったので、俺も付き合っているのだ。ジンとの過去があるだけに、思い入れがあるのだろう。
「五、四、三、二、一……」
俺の数えていたカウントがゼロになると、帝都は大爆発を起こした。
その衝撃で機体が少し揺れたが、オリヴィアは決して帝都から目を離さず、帝都が見えなくなるまで東の方を見入っていた。
最も大きな裏切りを起こしたオリヴィアですが、皆さんのオリヴィアに対する好感度はどの程度なのでしょうか?