自爆
アル君の新魔法の衝撃波が、私とオリヴィアを襲う。
正確にはオリヴィアだけだね。私はゴーストだから、物理は効かないし。
「…… 完全に決まった」
オリヴィアがそう言った。
私もそう思う。
「あれじゃあ、ガードの暇もなかったね。確実に直撃してると思う」
ここからは、砂埃で二人の姿が見えない。
でも、アル君は立ってる。見えないけど、確実に。
問題はジンの方。私とオリヴィアの魔法を連続で受けても、致命傷となるダメージを与えられなかった。
しっかりと光を溜めた、アル君の新魔法の威力は規格外だけど、果たしてそれで倒せるかどうか……
自然に吹いた風で砂埃は流れていき、ようやく二人の姿が見えた。いや、正確には二人と一つ……
魔力で作った剣を持って立っているアル君と、なにか紫色の巨大な球体、そして、それを掲げているジン。
「あれは……」
「…… 巨大な魔力の塊」
魔眼で見なくても、そんなことはわかる。ただの魔力の塊なら、なにも驚くことはない。でも、あれは……
「アンゲロスの光線…… だよね?」
「…… たぶん」
そう、あの魔導兵器アンゲロスの放っていた、巨大な光線。ジンの持っている球体は、それとそっくりなのだ。
となると、あれを発射されたら、一番近くにいるアル君が危ない!
私はジンに向かって、魔法を放った。
「〈コキュートス〉!」
この氷魔法で、少しでもアル君が逃げる時間を稼げれば……
私の氷魔法はジンの体を凍らせ、動きを止めた。しかし、それも一瞬のことで、私の氷はあの球体に吸い込まれていった。
「そんな!?」
アンゲロスにあんな機能はなかったはず!
「…… 魔法を吸い取る魔法……」
「そんなものあるの!?」
「…… わからないけど、そうとしか……」
私たちが驚いていると、球体は大きな音を立てて、さらに巨大さを増した。
「まさか…… 私の魔法で!?」
「…… 魔法を魔力に変えた……」
魔法は本来、人の中にある魔力を、精霊が変換して魔法に変える。
でも、これとは逆の、魔法を魔力に変換することは普通はできない。できるとすれば、それは……
「ジンは、精霊を操ってる!?」
「……! 私たちの魔法の効果が薄かったのって……」
「ジンの操っている精霊が、ジンに降りかかる魔法を魔力に変換してるから……」
それじゃあ、ジンに魔法を撃てば撃つほど、ジンの魔力が増えていくってことになる。
そんな…… 魔法しかできない私は、なにをすればいいの?
それに気がついてしまい、得意の魔法をジンに撃ち込めないでいると、ジンがこちらを向いて、いやらしい笑みを浮かべてきた。
「…… ソフィ、これって」
間違いない。確実に、私たちを狙う気だ。
そんな嫌な予想は外れてほしかった。でもジンは、あの巨大な魔力球を、私たちに向かって投げてきた。
ジン…… もう妹でさえ、どうでもいいって言うの?
魔力球は勢いよく、私たちに近づいてくる。
私たちの後ろにはリベリオンの飛空挺と、その中で起動準備をしているヨハン君、シャルちゃん、フィリップ君が……
私たちは避けられない。この状況、アル君ならどうする……?
「……〈トルネード〉」
私が考えていると、オリヴィアが魔力球に向かって、風魔法を放った。
しかし、魔力球は止まるどころか、大きさとスピードを上げて、さらにこちらに迫ってきた。
ジンだけじゃなく、魔力球まで魔法を吸収する。つまり、私の魔法も通じない。
考えてる時間は少ない。どうする? どうする? どうする?
「軌道さえ逸らせれば…… 〈ウィンドショット〉!」
私は中級の風魔法を連発した。それも、魔力球の右側だけに。
そのおかげか、少しだけ魔力球の軌道が逸れてきた。あと何発かで、飛空挺に当たらないようにできるはず……
いつのまにかオリヴィアも、私と同じところに魔法を放っている。
このままいけば……
「逸れてぇぇ!!」
気がつけば魔力球は、私の正面にあった。
…… 間に合わなかった。
私が諦めて風魔法を撃つのをやめると、私の正面に三人の人影が立ちはだかった。
「ソフィア! まだ諦めるのは早いぞ!」
「……! アレン!」
アレン、ターニャ、ランベルト、そしてジュリアの四人は、魔力球を正面から受け止めた。
「にゃにゃ…… そうは言っても、キツイのにゃ……」
「ここはオレがなんとかするぞ! うおお!!」
『ほら、あんたたち! 私が魔力でカバーしてあげるから! 頑張りなさい!』
四人のおかげで、魔力球は徐々に、横方向に軌道を変え始めた。
このままいけば、なんとか被害は抑えられそう。そう思った時、悪魔が…… 目の前にいた。
「おやおや、頑張りますねぇ」
ジンは、自分で作り出した魔力球の上に乗って、私たちを見下ろしていた。
『な! ジン!?』
「ぐぁっ!?」
「ぬおぉ!!」
「にゃあぁ!」
ジンは、軽い回し蹴りでアレンたちを吹き飛ばした。
すると、軌道が逸れかけれいた魔力球は、再び真っ直ぐにこちらに飛んできた。
私は両手で魔力球に触れ、魔力操作でなんとか操ろうとする。しかし、全身が魔力の塊である私は、徐々に魔力球に取り込まれ始めた。
「ぐぅ……!」
「ふふ、いい眺めですねぇ」
ジンは、私を見下ろして笑う。
悔しいけどせめて、この魔力球だけは……!
私が悪戦苦闘していると、魔力球は突然勢いを止め、完全に停止した。
「なに!?」
ジンが驚いている。少しだけすっきりした。
それにしても、こんなバケモノ魔力球を止めるなんて、もしかして……
「ジン、オリヴィアまで巻き込むつもりだったのか?」
やっぱりアル君だ!
「アルフレッド! ええ、そうですよ! この力の前では、もう兄妹などいりませんからねぇ!」
「…… ジン……」
オリヴィアが悲しそうな顔をしている。
大切な人に目の前でいらないと言われたんだ。それはひどく傷つくだろう。
「……」
アル君はジンを睨みつけると、私の方に向き直り、目を合わせてきた。
「ソフィ、オリヴィアを連れて、ここから逃げてくれ。あとは、俺がなんとかするから」
それは、アル君をここに置いていけ…… と?
「アル君! 前にも言ったけど、もう少し私に頼ってくれても!」
「頼ってるからこそだよ、ソフィ。俺は、なるべくこいつの体力を削る。だから…… トドメは任せた」
…… まさか!?
「ほぅ…… 私の体力を削る、ですか? 一体どうやって?」
「ジン、さすがのお前でも、この魔力球をまともに受ければ、結構なダメージにはなるだろう?」
ジンは驚きの表情を隠せずにいたが、そんなこと私には関係ない。
私の考えが正しければ、アル君は、アル君は……!
「面白いですねぇ。ですが、瞬間移動のできる私に、当てることができますか?」
「やってみなければわからないな!」
「ダメ! アル君! それだけは……!」
突然飛び上がり、ジンの腕を掴んだアル君は、ジンとともに一瞬で消え去った。
そして数瞬後、ここから数キロほど離れた地点が、突如大爆発を起こした。