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ジン 後編

 私の意識が次に覚醒した時、そこはふわふわとした真っ白な空間で、羽衣を着たの少女が目の前にいました。

 輪郭のぼやけた少女は、目を覚ました私に話しかけてきました。


「どうもはじめまして、女神と申します」

「女神…… ですか……」


 私はこの女神と名乗る少女に、私が異世界に転生することを伝えられました。

 私はいくつかの魔法と、ある程度の魔力、貴族の子として生まれることを女神に約束させ、転生しました。

 そして、私の意識がだんだんと薄れ、消えかかる寸前に、女神はこう言いました。


「もしかすると、あなたの大切な人も転生するかもしれませんね……」


 こうして帝国の貴族の次男として転生した私は、十五歳で成人したのち、帝国軍に所属。すぐに少尉となると、各地を巡り、この世界に関する情報を集めました。

 そんなある時、帝国にある初級のダンジョンにて、新人達をシゴいていた途中に突然足元に魔法陣が出現し、私は謎の洞窟に転移させられました。

 そこにはとんでもない強さの魔物たちがぞろぞろといましたが、女神の加護か、私自身の実力か、特異魔法を習得し、あっさりと攻略することができました。問題となったのは魔力量くらいでしたねぇ。

 そして、最下層まで進むと、


「こんちには! 一千年ぶりのジャパニーズ!」

「……」


 唐突に出てきた、黒髪で赤い目の、赤縁メガネをかけた少女に私は驚き、黙り込んでしまいました。


「冷たいですね〜。久しぶりの日本人ですよー、お兄さーん」


 日本人という単語で、私は我を取り戻しました。


「日本人? あなたがですか?」

「ええ、そうですとも、私は千年前に死んだはずの初代魔王…… その正体は、日本人なのです!」

「あなたが…… 初代魔王?」


 私は警戒しました。当前でしょう。一千年前に死んだとされる初代魔王が、突然目の前に現れたのですから。

 私は、初代魔王クラリスから、彼女の身になにがあったのかを聞きました。

 魔族との共存、教国の裏切り、初代勇者がクラリスを逃したこと。すべてが信じられませんでしたが、ここで私は、あることに気がつきました。

 私は学生の時、なぜ魔物が生まれたのかを研究していました。そこでわかったのは、魔物が生まれたタイミングが、人間が自然を滅亡寸前まで追い込んでいた時、ということでした。

 私は宗教には詳しくありませんが、真神教による教えの一つに、自然環境の保護というものがあります。

 もし、この真神教の神が、あの女神だったとして、クラリスをこの世界に転生させた理由は一つ…… 人間と魔族を共存させるため。

 しかし、それは失敗に終わり、次は私がこの世界に転生しました。なら、私の役目は……

 私は、自分の過去を語るクラリスの目の奥に、若干の怒りが含まれているのを見逃しませんでした。

 そして、私の使命がわかったこの時、それを利用しようと思ったのです。


「クラリスさん、私と協力して、人類を滅ぼしませんか?」


 それから私は、クラリスと魔道具で連絡を取りつつ、協力者を集めました。

 国を壊すということで、最も最初に仲間となったエド。

 村を滅ぼし、騙して仲間に入れたエレナ。

 エドは、滅んだ国のガラクタを集め、それを金に変えるという商売を思いついたばかりのようで、私の話にノリノリになってついてきました。

 エレナには、申し訳ないことをしましたねぇ。目的のためとはいえ、騙して村を襲わせるとは…… 自分がされたらと思うと、ゾッとします。

 そんなある日、クラリスから連絡がありました。ダンジョンに、新たな日本人が来たと。

 私は徹底的に調べました。外見、性格、私の目的に共感できるかどうか。なぜこの世界に転生してきたのか。

 それでわかったのは、二人が魔王を倒そうとしていることと、オリヴィアという少女の外見が、限りなく静江に似ていたということでした。

 私はこの時、女神の言葉を思い出しました。


「もしかすると、あなたの大切な人も転生するかもしれませんね……」


 私は確信しました。このオリヴィアは、間違いなく静江であると。

 私はタイミングを待ち、エレナを送り込み、オリヴィアを仲間にして、勇者を手に入れることに成功しました。

 それから魔王を倒し、王国を滅ぼし、次代魔王を倒そうとして失敗し、次は帝国…… というところで、やられてしまいましたねぇ。


「…… 兄さん……! …… さん……!」


 今はこうして…… 静江の顔を見ながら、意識が遠のいていきます。

 この後のことは、すべてアルフレッドに任せておけば大丈夫でしょう。静江も、魔族も、帝国も…… すべてなんとかするんでしょうねぇ。

 どうやってこの状況を解決するのか…… それを想像しようとしたところで、私の意識は闇に飲み込まれました。


 また会いましょう、静江。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


『ジン…… あなたには、ただで死んでもらっては困ります』


 暗闇に閉ざされた私の瞼の裏に、白い影が通りました。

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