無敵のアルフレッド
閃光が終わった時、既に戦いは始まっていた。
「くっ!」
アルフレッドは、一瞬でこっちまで移動してきて、クラリスに向かって角を突き出していた。
クラリスはそれを、魔力を込めた手で弾き、拮抗を保っていた。
だが、その拮抗も長くは持たず、アルフレッドが角を振り切り、クラリスは大きく後ろに吹っ飛んでいった。
クラリスを吹き飛ばしたアルフレッドは、体の周りに小さな結晶を作り出し、そこから極小のクリスタルレーザーを連射した。
「味方の区別もつかないのかよ!?」
「暴走してるから仕方ないのにゃ!」
アルフレッドが、こちらに向かって魔法を放っていると、瓦礫の下からクラリスが起き上がってきて、アルフレッドの頭を、真横から殴り抜いた。
そのパンチによって、アルフレッドは一軒家の壁に激突し、建物が崩壊する。
「いたた…… 〈フォーム・ケルベロス〉」
その隙に、クラリスは大量の魔力を消費して魔法を発動し、SS級の魔物、ケルベロスを生成した。
「食い破ってください、ケルベロスちゃん」
「ガゥ!!」
ケルベロスは、立ち上がろうとしているアルフレッドに飛びつき、三つの口でアルフレッドに噛みついた。
アルフレッドは、ケルベロスの牙が自分の体に食い込んだ瞬間に、四肢で地面を強く蹴って、空中に飛び上がり、体をしならせてケルベロスを振り切った。
そして、着地と同時に、ケルベロスの顔面に向けて、美しい両足後ろ蹴りを披露した。
ケルベロスは、アルフレッドの後ろ蹴りを、一つの頭がモロに受けてしまい、半回転しながら宙を舞い、凄まじい衝撃とともに地面に激突した。
この一撃で動けなくなってしまったケルベロスに比べ、アルフレッドについていた牙の跡は、みるみるうちに再生していく。アルフレッドの得意技、ヒールだろう。
「バケモノにもほどがありますねぇ……」
ジンがボソッと呟いた。
まったく、その通りだと思う。
なにせ、人型でもバケモノだったのだ。それが魔物の化し、しかも暴走状態で、力のセーブが効かないとなれば、本当に大陸が滅ぼされかねない。
「私のケルベロスちゃんでも、一撃でお陀仏ですか……」
魔王の番犬と呼ばれたケルベロスが一撃で倒され、さすがのクラリスも冷や汗を垂らしていた。
「なら、これならどうだ!」
叫びながら唐突に前に出たエドが、アルフレッドに向けて手をかざすと、地面から大量のホムンクルスが湧き出てきて、次々にアルフレッドに飛びついた。
アルフレッドは、ホムンクルスを蹴散らすために暴れたが、その抵抗も虚しく、あっさりと覆い尽くされてしまった。
「吹っ飛べ!」
かざした手を握り込む、というエドの行動と同時に、アルフレッドに飛びついたホムンクルスたちが、一斉に爆発し始めた。
その爆発の間にも、ホムンクルスは次々に地面から湧いて出てきて、アルフレッドに飛びつき、破裂していく。
「どうだ……?」
数分間続いた爆発が止み、その勢いで舞っていた砂埃が晴れると、そこには、無傷の状態のアルフレッドが立っていた。
「バカな……」
エドも絶句している。
アルフレッドが無傷である理由は明確。アルフレッドの周りには、薄いガラスのような魔法が張られていたのだ。
「シールドですか…… エドの破裂魔法も効かないとは…… ふふ、本当にどうしようもありませんねぇ」
ジンはまるで、万策尽きたと言ったような顔をしていた。
というか、シールドを使える時点で、俺たちも万策尽きているような状況だった。
いくら俺一人が最上級魔法を撃ったとしても、アルフレッドには通用しない。
ターニャもランベルトも、魔法で火力を出すのには向いていないし、どうすれば……
せめてソフィアがいれば話は別なのだが、そのソフィアは……
絶望感がはびこる中、ナディアがアルフレッドの正面に立ちはだかった。
「ナディア!? 魔王様は今正気ではないぞ! 危険だ!」
いつもは冷静なセルジオが、目を見開いて大声を出す。
「大丈夫です、セルジオ。私は魔族の中で、最も魔王様の近くにいたのですから」
セルジオの言葉はナディアには届かず、ナディアはアルフレッドの方に、ゆっくりと一歩ずつ近づいていく。
一方でアルフレッドは、正面から詰め寄ってきたナディアを、じっと見つめていた。
「魔王様、私のことがわかりますでしょうか? あなたの世話係を任せられた、ナディアです。
魔王様、ソフィア様を失った悲しみはわかります。しかし、お気を確かにお持ちください。あなたは偉大なる、第十一代目魔王なのですから」
ナディアがそう言った途端、アルフレッドの動きが完全に止まった。
ナディアはそれを見て、笑顔で進んでいく。
「そうです。あなた様は強いお方。大切な人を失った悲しみも、きっと乗り越えられます。さあ、お目覚めください」
ナディアは、一歩を大きく踏み出し、アルフレッドに迫っていった。
そして、ナディアの右手が、アルフレッドの顔に触れようとした瞬間、アルフレッドは動き出した。
それも、ナディアに向かって…… 頭についている角を突き出しながら……
誰もが声を上げようとした次の瞬間、アルフレッドの角は、ナディアを突き飛ばしたクラリスの胸を貫いていた。