暴走
私たち四人は、魔王様の命令を受け、帝都の人間たちを助けていました。
人間たちは、初めは魔族が現れたことに恐れていましたが、私たちが自分たちを助けてくれるとわかると、次々に助けを求めてきました。
都合がいいことに少しイラッとしましたが、魔王様の命令を破るわけにはいきません。頑張ります。
私が人間たちの案内をしていると、突然閃光が周りを包み、爆発音がしました。
音を頼りに振り向いてみると、そこには、上の階が崩壊した時計台と、その中にいる、魔王様とクラリスさん、そして、魔王様の宿敵であるジンがいました。
しかし、どうやら魔王様の様子がおかしいようです。見た目が人のようなお姿ではなく、角の生えた馬のようなお姿なのです。
「セルジオ、魔王様はどうしたのでしょうか?」
セルジオは博識です。
魔王様の言っていた通り、私のことを認めてくれているので、わからないことがあれば、なんでも聞いています。
「わからぬ。あれは馬? 鹿? いや龍か?」
しかし、今回ばかりはわからないようですね。
「とりあえず、行ってみるしかないよねー」
ステラは、口調は適当ですが、意外と心配そうな顔をしています。
「そうだな。魔王様の身になにかあったのは確かなんだ。確認しに行くしかないだろう」
例の一件があってから、魔王様に従順になったカルロも、それに賛同しました。
あとは、魔王様の右腕である私が意思決定をするだけです。
「それでは、とりあえず勇者たちと合流しましょうか」
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
俺は閃光と爆発音を聞き、その方向を振り向いた。
するとそこには、人よりも何倍か大きいくらいの謎の生物が立っていた。
「なんだあれは?」
「あそこは…… アルフレッドたちが向かったところなのにゃ」
「じゃあ、あれはジンが用意した魔物だってのか?」
ジンの手の内はわからないが、あんなものまで用意していたのか。俺は一瞬そう思ったが、その考えは、目の前にいる義手の男の姿を見て、すぐに消え去った。
「な、なんだあれは……」
義手の男は、完全に放心した様子で謎の生物を見ていた。
『どうやら、ジンの用意した魔物ではなさそうね』
義手の男を、戦いながら観察していたジュリアが呟いた。
「ランベルト、警戒しておけよ?」
ランベルトは俺の言葉を聞いて、盾を構えながら前に出た。
「ターニャ、あそこの様子は見えるか?」
ターニャは、獣人の目の良さを生かし、時計台の最上階をじっくりと見て、口を開いた。
「アルフレッドがいないにゃ」
「どういうことだ?」
「わからないにゃ」
もしかして、あの爆発で吹っ飛んだのか? あのアルフレッドが?
周りのホムンクルスをほとんど倒しきり、四人で謎の生物を観察していると、ナディアたち魔族組がやってきた。
代表してナディアが前に出て、俺に話しかけてくる。
「アレックスさん、魔王様のあの状態について、なにか知っていますか?」
「アルフレッドの状態? なんのことだ?」
「あの馬のような状態のことです。なにか知らないのですか?」
な!? まさか……
『あれがアルフレッドなの!?』
俺が思ったことを、ジュリアが叫んだ。
アルフレッドのことなら、ずっと一緒にいたジュリアの方が詳しいと思うんだが、どうやらジュリアも知らないらしい。
「ええ、魔眼で確認しましたから、あれは確実に魔王様です。私が見間違えるはずがありません」
ナディアはやけに自信満々に、胸を張って言い切った。
「そ、そうなのか…… いや、俺たちはあんな姿は見たことがない」
『私も見たことないわ…… イービルヒートなら知ってるかもしれないけど、あいつは今王国にいるから……』
「そうですか……」
俺は、目線をナディアの方からアルフレッドの方へと変えた。
すると、アルフレッドは頭から一本だけ生えている角を輝かせ始めた。
「クリスタルレーザーです! 誰か防御を!」
ナディアがそう叫んだ瞬間、アルフレッドは真下に向けて、黄色いレーザーを発射した。
その威力はとんでもなく、一瞬で時計台の周りの建物を、ほとんど消滅させてしまった。
しかも、クリスタルレーザーの衝撃波はこちらまで届き、ランベルトが盾にならなければ、俺たちまで吹き飛ばされていただろう。
「おおっと!? いやぁ、危なかったですねぇ。危うくチリになるところでしたよ」
クリスタルレーザーの衝撃波がなくなると、空から、ジン、クラリス、オリヴィアの三人が降ってきた。
「全員、構えるにゃ!」
それをいち早く察知したターニャが、俺たちに戦闘態勢を促した。
『ちょっと待って! どうしてクラリスが、ジンを助けてるの!?』
「…………」
ジュリアがそう言うと、クラリスはこちらを見て、黙り込んでしまった。
あんな行動をするということは、俺たちに後ろめたいことがあるということである。
「まさか…… 裏切ったのか!?」
俺の怒気を含めた声を聞いて、ジンが口を開いた。
「勘違いはよくありませんねぇ。クラリスさんはもともとこちら側です」
「くそ! ジン! 覚悟しろよ!」
「おおっと、血の気が多いですねぇ。ですがその前に、アレのなんとかしないと、私を殺しても大陸が滅びますよ?」
ジンは、アルフレッドを指差してそう言った。
「ジン、アレは一体なんなんだ?」
衝撃波で吹き飛ばされていたエドは、瓦礫の下から這い上がってくると、ジンに話しかけた。
「エド、生きてましたか。
あれは暴走したアルフレッドです。本人は、数多くの魔石を取り込んだ末路、だとか言ってましたねぇ。確かに、色々な魔物の姿に似ている気はしますが…… そうですねぇ。強いて言うなら麒麟…… ですかねぇ?」
キリンというのがなにかはわからないが、大事なのはそこじゃない。大切なのは、あのアルフレッドが暴走しているということだ。
あの自制心の塊のようなアルフレッドが暴走するとは、一体なにがあったんだ?
『アルフレッドが暴走なんて…… どうしてそんなことに……』
やはり、ジュリアも驚いている。
「それは、私たちがソフィアさんを殺したからでしょうねぇ」
俺たちが不思議に思う中、ジンがあっさりと答えを口にした。それも、驚きの答えを。
「なっ!? ソフィアを!?」
「ええ、敵ですから。殺すのは当たり前でしょう」
「…… クソ!!」
だが、納得がいった。アルフレッドが暴走するなんて、そのくらいしか考えつかないからな……
俺たちが話していると、アルフレッドは再び角を光らせ始めた。
「マズイですねぇ。もう一発撃ってくるみたいですよ」
「〈フォーム・タートル〉」
クラリスが魔法を唱えると、俺たちの目の前に亀型の魔物が生成された。
そして、それと同時に、アルフレッドはクリスタルレーザーを放ち、この場は再び閃光と爆音で包まれた。