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憎悪

 時計台の最上階には、ジンとオリヴィアが待ち構えていた。


「ようやくお出ましですか」


 ジンは帽子をかぶり直しながら、そう言った。


「ジン、オリヴィア…… 大人しく投降しろ」


 無駄だとは思うが、一応降伏の勧告をしておく。


「アルフレッド、私がなぜ人間を滅ぼそうとしているか…… わかりますか?」


 俺の勧告をあっさりとスルーし、ジンはこちらに話しかけてきた。


「さあな。俺はお前の思想など知らん」

「そうですか。なら、教えてあげましょう。この世界の真実を…………」


 長い沈黙を得て、俺は口を開く。


「…… 話してみろ」


 世界の真実…… この世界には、人間を滅ぼさなければならない理由があるというのか?


「時は遡り、一千年前。この世界は、滅亡の危機にありました」


 ジンは一度だけ咳払いをすると、語り始めた。


「人間による資源の搾取。行き過ぎた魔法の開発。自然破壊と汚染…… この大陸は、人間によって壊されていました。

 そして、神様はこれをよしとはしませんでした。

 その神様は、この大陸に自然を守る者を配置し、環境を破壊する人間に対抗しました。これがのちの魔物です。

 十数年後、人間の都市のほとんどが壊滅した時、やりすぎだと感じた神様は、ある者を召喚します」

「まさか……」

「ええ、そこにいる初代魔王ですよ」


 俺は、クラリスの方を振り向いた。

 クラリスは、信じられないと言った顔で、自分を指差していた。

 それにしても、今ジンの言ったことが本当の魔物の起源だとすると、このタイミングで呼ばれたクラリスは確か……


「初代魔王は魔物の、自然を守るという存在意義に反し、人間との協定を結びます。結果、これは両者決別のきっかけとなり、魔物と人間の戦争は激化。

 のちに戦争に勝利した人間は、真神教の起源でもあり、初代勇者を選出した功績のある教国。

 戦争で最も戦果を挙げた初代帝王による、帝国の建国。

 そして、魔物から人間を守るために建てられた、ラント王国の三つに分けられました。

 さて、この中でおかしい部分はどこでしょうかねぇ?」

「初代魔王が転生者というところか」


 ソフィが完全に置いてけぼりにされているが、この際は仕方ない。

 実際ソフィは、自分のわからない話だと理解して、黙り込んでいた。

 その間にも、ジンは話を進める。


「ええ、その通りです。なぜ、平和ボケしている日本の、魔物の存在意義に反する生き方を選択するような人間を魔王にしたのか……」

「真神教の教えの一つは、全生物の安全確保だ。もちろんそこには人間も含まれている。

 クラリスが魔物の存在意義に反していたとしても、協定を結ぶためにこの世界に呼ばれたとすれば、納得いくだろう?」

「いいえ。確かに、私も一時期はそう考えていましたが、そうではありません」

「へぇ。なら、説明してもらおうか?」

「魔王クラリスは、この世界の人間を滅ぼすためにこの世界に来たということです」

「なに? どういうことだ?」

「こういうことですよ」


 ジンは指を前に出し、一度だけパチっと鳴らした。


「がはっ……」


 すると、俺の隣から、ソフィも苦しそうな呻き声が聞こえた。

 俺がそちらに振り向くと、隣にいたソフィの胸に、クラリスの右手が突き刺さっていた。


「クラリス!?」


 俺は咄嗟に、クラリスに向かって鋼鉄のナイフを投げる。

 クラリスは、ソフィの胸から手を引き抜きつつそれを躱し、ジンの方へ移動した。

 俺は急いでソフィに近づき、〈ヒール〉かける。だが、ソフィの傷は一向に治らなかった。

 ヒールは細胞の再生能力を極限まで高め、最上級ともなると、失った器官までもを再生することができる。

 だが、それができないということは……


「ソフィ!!!! !」


 俺は、気がつけば叫んでいた。


「ふふふ、さすがに勇者一行の一人と言えど、心臓か魔石抜き取られたら死にますからねぇ。

 いやぁ、予定通りにいきましたよ。ねぇ、オリヴィア?」

「……」

「…… 少々意地の悪い質問でしたね。やっと宿敵を打てたものですから、少し舞い上がってしまいました。

 それにしてもクラリスさん、見事でしたよ」

「私も、邪魔者は消しておきたいですから」


 遠くでジンたちの声が聞こえた気がしたが、そんなことはどうでもいい。

 ソフィ…… ソフィが死んだ? どうして? クラリスにやられて? どうしてクラリスは裏切った? なぜソフィを殺した? なぜソフィはヒールで治らない? ソフィはもう…… 戻らない…………?


「うわぁぁあ!!!…… なぜ、私を裏切ったのだ? クラリス」


 アルフレッドがダメになり、私に人格が切り替わったか。

 まあ、あれほど愛していたソフィを失ったのだ。壊れてしまっても仕方がない。


「性格が切り替わりましたか。このまま倒れてくれれば、楽だったのですけどねぇ」


 ジンが、わかりきっていたことを口にした。


「貴様は黙っていろ、ジン。クラリス、貴様に聞いているのだ」


 私はそれを無視して、クラリスを睨む。


「…… あなたと会う前から、ジンとは協力関係だったからです。

 私は、私を裏切った人間を許せない…… 千年間待ちわびて、ようやくチャンスが降ってきたのです。この機会を無駄にするわけにはいきません」


 クラリスは感情を顔に出さないまま、私の問いに答えた。


「オリヴィアのことを知ったのも、私がクラリスと連絡を取っていたおかげですしねぇ」


 ほぅ。ジンは、クラリスと知り合いだったわけだ。


「ジン、貴様もあのダンジョンを攻略していのか?」

「ええ、あなたとオリヴィアが攻略する五年前にね。

 おかげで、重力魔法という便利なものまで発現しましたよ」

「なるほど。初めからそちら側だったということか」


 つまり、私とオリヴィアに会う前から、これは計画されていたわけだ。


「ええ、私とオリヴィアでは、あなたに勝てる見込みはありません。ですが、そこにクラリスさんが加われば、話は別。

 さあ、あなたも消えてください」


 ジンは、私に向かっていやらしい笑みを浮かべた。


「私が消えるかどうかはわからんな。私ももう、意識を保っているのは限界なのだ」


 そう、私の中にいるアルフレッドは、ただで壊れたわけではない。


「…… どういうことですか?」

「見ればわかるさ。これが、今まで数多くの魔石を取り込んだ末路だ」


 アルフレッドは生み出したのだ。ソフィを殺された怒りを、苦しみを、憎しみを……

 その感情の渦が、私の意識さえをもかき乱し、飲み込もうとしている。


 私たちはもう、止まらない。


 こうして私は、意識を失った。

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