表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
131/169

血の繋がっていない兄妹

 亜人たちを説得した翌朝、俺たちは、ビューレが目を覚めたという情報を聞き、大司教の館に向かった。


「ビューレ、目が覚めたか」

「ビューレさん、大事にならなくてよかったね」

「あ、アルフレッドさん、ソフィさん。おかげさまでよくなりました。ありがとうございます」


 ビューレは、昨日に比べて顔色はよくなり、かなり元気そうになっていた。だが、一応安静を取って、ベッドからは立たせなかった。


「すみません。アルフレッドさんは、二度も助けてくれた恩人なのに……」

「婚約者を死なせるわけにはいかないからな。あまり気にするな」

「あうぅ…… ありがとうございます……」


 顔を真っ赤にして俯いてしまったビューレと、心なしかこちらを睨んでいるような気がするソフィ。

 ソフィよ、言ったことは本当のことなのだし、そんな嫉妬のこもった目で見ないでくれ……


「ビューレ、今日は頼みごとと、別れのあいさつを言いに来たんだ」


 ビューレは、俺の一言で、ちょっとした絶望感を漂わせた。


「え……」

「まず頼みごとだが、これは亜人のことだ。ハイタス王国に亜人を、なるべく早く送り届けてくれ。一応ダンとエレナはここに置いていくから、あいつらと相談すれば、なんとかなるだろう。そして、俺とソフィは、今日のうちに教国を出て帝国に行く」


 ビューレは、希望と困惑の込もった瞳で、俺を見つめた。


「また…… 会えますよね?」

「当たり前だ。帝国の一件が終わったら、俺はハイタス王国に戻るし、ビューレとの婚約もある。これから何度でも会えるさ」


 それを聞いて、パァっと表情が明るくなるビューレ。


「わかりました! 亜人たちのことは任せてください! 絶対になんとかしてみせます!」

「頼りにしてる、任せたぞ」

「はい! って、ひゃっ!?」


 俺は、ビューレの頭をぐしゃぐしゃと撫で、出口に向かって歩き出す。そのまま右手を軽く上げ、ビューレに別れを告げた。


「それじゃあ、次は王国でな」

「頑張って来てくださいね!」


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 俺は、初日に泊まっていた宿屋から馬と荷馬車と運転手を回収し、帝国に向かわせた。

 教国にいた期間は五日。そして、ここから帝国までも五日かかる。合わせて十日となると、ヨハンたちよりも早く到着するかもな。

 帝国に着いたら、そこにいるリベリオンたちと連絡して、情報を収集するとしよう。

 しばらく馬車に揺られていると、ポーチの中に入っていた連絡用魔道具が鳴りだした。俺は魔道具を取り出し、耳にはめ込む。


『アルフレッド、こちらヨハン。勇者一行は、魔族の幹部とクラリスを連れて、帝国に移動中。急げば、あと五日で到着しそうだそうだ』

「そうか。それはちょうどよかったな。こちらもあと五日だ。それにしても、普通なら二週間はかかるところを、ずいぶんと早くできたな?」

『クラリスが馬を魔物に変えたからな。普通の馬とは、スピードもスタミナも段違いだ』


 へぇ、ゼロからだけじゃなく、動物も魔物にできるのか。便利な能力だな。


「というか、ヨハンは来ないのか?」


 勇者一行は、などという言葉を使うあたり、ヨハンは、アレックスたちと一緒に行動していないのだろう。


『俺は少し遅れて出発だ。特別な移動方法があるんでな』

「へぇ、是非とも教えてもらいたいな」

『見てからのお楽しみだ。きっと驚くぞ』


 ヨハンの声が事務的な口調から、まるで子供のような弾んだ口調に変わる時、それはだいたい魔道具の話だ。


「わかった、楽しみにしてるぞ」

『任せとけ!』


 俺は魔道具を耳から取り外し、ソフィの方に振り向いた。


「ソフィ、アレックスたちとは、帝国で合流できそうだ。こっちも急ぐぞ」

「わかった。ねぇ、アル君。ジンって、オリヴィアのお兄さんなんだよね?」


 ソフィが突然、当たり前のことを聞いてきた。


「ん? そうだが、それがどうした?」

「私が洗脳されてた時に聞いた話なんだけど、オリヴィアとジンの出身地が違うって言ってて…… それで、どうして兄妹ってわかったのかなって」


 洗脳中なのに記憶がはっきりしてるのは、ソフィの魔法耐性の高さゆえだろうか? なんにしろ、厄介なことを覚えているらしい。


「それは……」


 この世界ではなく、前世で兄妹だったからだ。

 これは予想ではなく、リベリオンで調査した結果わかっている。

 俺はリベリオンに、オリヴィアとジンと出生を探らせた。その結果、オリヴィアはラント王国出身。ジンは帝国出身で、血筋も繋がっていなかった。

 つまり、二人はこの世界においては兄妹ではないのだ。

 この調査結果のおかげで、オリヴィアがジン側についた理由が、前世でなにかあったのだろうと納得できたのだが…… それを、純ディヴェルト大陸出身のソフィに話してもいいのだろうか?


「ソフィ、実は前世で兄妹だった…… なんて言ったら、信じるか?」

「どういうこと?」


 ソフィは眉間にしわを寄せ、首を傾げた。


「いや、やっぱりなんでもない。忘れてくれ」


 このことについて話すとしても、俺一人では話しきれないだろう。なにせ、なぜ俺がこの世界に転生したのかもわかっていないのだ。

 そういえば、オリヴィアならなにか知っているだろうか? 今は敵だとしても、話だけでもしたいな。


「アル君、オリヴィアは、ちゃんと取り戻そうね」


 相変わらずエスパーだな、ソフィは。


「ああ、もちろんだ。あのエドという男が、帝国で待っていると言っていたからな。おそらく、ジンもオリヴィアもそこにいるんだろう。今度は必ず取り戻してみせるさ」


 王国の魔王としてではなく、オリヴィアの恋人として。必ず俺の元に戻らせてやる。

 待っていろよ、オリヴィア。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ