ファブリ 前編
僕は、アルフレッドが天井を破壊したのを見て、死を覚悟したのと同時に、レクイエムを組織した時のことを思い出していた。
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僕の父は魔法学者だった。それも、とても優秀で、何度も教皇様から賞を受け取っていた。
「ファブリも、将来はお父さんの意志を継いで、色々研究してくれるか?」
「もちろんだよ! お父さん!」
当時十二歳だった僕は、父の言葉に感動し、子供ながらに様々な実験をし始めた。
「まず、自分の使える魔法から研究するといいぞ」
と言った父に従い、約二年間は、僕の使える、風魔法を研究した。
その時の教国は、ラント王国と帝国と同盟を結び、ともに十代目魔王を倒そうと奮闘している時だった。それが今から三年前だ。
そして、僕が研究をしている二年の間に、僕のお父さんはラント王国で行われた、十代目魔王との戦争、それも最前線に送られていた。
僕は、お父さんがいない間一人ぼっちだった。なぜなら僕の母は、僕が生まれてすぐに亡くなったからだ。
母は、まるで魂を僕に移すかのように、苦しむこともなく、僕が生まれてまもなくに息を引き取ったらしい。
しばらくして、戦争も人類の勝利に終わり、お父さんはすぐに僕に手紙をくれた。
きっと、僕は一人で寂しがっているだろう。教国にいち早く戻るから、待っていてほしい、といった内容だった。
僕は待った。それはもうウキウキしながら待った。久しぶりにお父さんに会えると、そう思いながら待った。
だけど、いつまで経ってもお父さんは戻って来なかった。
僕がおかしいと気がついてから、一週間がたったある日、教国の役人さんが家に来て、お父さんが死んだことを僕に伝えた。
僕はそれを聞いて、気が狂ったように叫んだ。
「どうしてです!? 人類は勝ったんでしょう!? なぜ僕のお父さんは死んだんですか!?」
僕が泣き喚いたことで、しばらく苦い顔をしていた役人さんは、僕に情けをかけてくれたのか、なにがあったのかを話してくれた。
だが、それを聞いても、僕の疑問は晴れなかった。
「帝国が…… 王国を…… 襲った……?」
そのついでにお父さんは死んだ? 帝国がずっと抱えていた、王国への恨みつらみのせいで、そのついでとして、僕のお父さんは死んだのか……?
僕はその時、空っぽになってしまったと思った自分の中に、なにかが入ってくるのを感じた。
……許さない。絶対に…… 許してなるものか。
僕のお父さんを殺した帝国のクズどもも、その原因を作った魔族どもも…… 僕の考えうるありとあらゆる策略を使って、滅ぼしてやる…… 殺してやる!
そこから三年間、僕は魔導人形について研究した。
どうやったら効率的に動くのか、どうやったら強くなるのかを、調べに調べた。
そして、魔族も帝国も、すべてを滅ぼす力を持った魔導人形が完成した。
それが魔導兵士アンゲロスだ。
構造は単純で、核となる人間の魔石を、アンゲロスの体と一体化させることで、魔石による魔力生成能力を兼ね備えた魔導人形ができる、という寸法だ。
だが、その魔石は、なんでもいいというわけではない。
核となる人間の魔力が多く、高純度で、できれば、回復力の高い光魔法が使える人間がよかった。
まあ、そんな人間がそう簡単に見つかるわけもなく、僕はそれを、三年間かけて探していた。
そんな三年間の間で、僕についてくる人間ができ始めた。
裏町のゴロツキども、帝国に痛い目に遭わされた兵士たち、そして、名のある芸術家たちだ。
僕は、どこにいくにしても顔を隠し、帝国と魔族への恨みを口にしながら行動していた。おかげで、帝国と魔族に因縁のある人間が集まってきたのだ。
もちろん、初めは僕のことなんか眼中になかった連中もいる。だが僕は、完成とは程遠いものの、二メートルほどの大きさの、簡易アンゲロスを作っていたため、その力を見た者たちは、次々に僕の配下になっていった。
その中でも多かったのが、徴兵を逃れたものの、家族や恋人が連れて行かれ、例の帝国の一件で、大切な人を失ったという人たちだ。
これらの人々に共通することは、そのほとんどが画家や音楽家という、芸術性を持った人たちだった。
芸術性を持った人間。それは、真神教の中の教えの中で、大切にするべき者たちだ。故に戦争には連れて行かれなかった。
しかし、徴兵を逃れたせいで、大切な人を失うことになるとは、なかなか皮肉なものである。
この経験のせいで、楽観的な作品を作っていた者まで、悲しげな作品を作り始めた時には、僕は苦笑してしまった。
作品の中では、哀れさを醸し出し、皆の同情を誘っているのに、実際に会ってみるとそんなことはなく、むしろ怒りの込もった目をしているのだ。
芸術とは、自分が思ったこととは逆のことを作るものなのかと、少しだけそんな思考に捕らわれたこともあった。
レクイエムも三年間で大きくなり、音楽堂まで建ててもらったある日、僕のところに一組の男女が訪ねてきた。