大切断
申し訳ありません! 私の勘違いで、前回の投稿とこの回が逆になってしまいました。
よって、今回は割り込み投稿をさせていただきます。
今後は順番に気をつけて投稿いたしますので、お許しください!
「…… 私は、アン、ゲロス……」
無機質に呟くビューレを見て、俺は確信した。
「ビューレさん!?」
「ソフィ、近づくな! がはっ! こいつはまだ、ビューレじゃない!」
俺は胸を貫かれたまま、ビューレの頭を掴み、〈リペル〉を発動する。
「う…… うぅ……! アァァア!!!?」
「戻って…… こい! ビューレ!」
ビューレの形をしたアンゲロスは、リペルをかけられるのを嫌がり暴れ始めたが、俺は頭を決して離さず、リペルをかけ続けた。
「アァ! ウァぁあ! ア…… ルフレ、ッド…… さん……!」
ビューレは、俺の名前を呼んだ瞬間、全身脱力したように倒れ込み、俺はそれを受け止めた。
俺は、胸に刺さっているビューレの腕を抜き、〈ヒール〉で傷を塞ぎ、血を作る。
心臓の横ギリギリだったので、なんとか回復しないでリペルを使えたが、正直かなり危なかった。俺も大概運がよかったな。
俺は念のため、バラバラになったアンゲロスを魔眼で見る。しかし、どの部位にも魔力は込もっておらず、動く気配もなかった。
「これで脅威は排除できたな。あとは……」
俺はビューレをソフィに託し、ファブリのもとへと近づいていく。
ファブリはそれに気がつき、諦めた顔つきになった。
「…… 降参だ。もうなにもしない。だけど、あれを見てみろよ」
ファブリが俺の後ろの方を指差したので、振り向いて見てみる。
すると、俺たちの入ってきた扉は瓦礫に埋もれていた。おそらく、一番最初にアンゲロスが放ったビームのせいだろう。
「扉はあれ一つだ。アンゲロスが壊れた今、もう僕たちはここから出られないんだよ」
俺は無言でファブリに近づき、ポーチから紐を取り出して、手足を縛る。
「アンゲロスがいないからもう出られない? なにを馬鹿言ってるんだ? ここには、アンゲロスに勝った魔王がいるだろうに」
縛られたまま座り込んでいるファブリを見下して、俺は呟いた。
「…… ここは地下五十メートル。しかも、天井は鋼鉄製で、厚さは十メートルだ。いくら魔王でも、これを壊せるわけがない。得意のレーザーは撃てないんだろ?」
「確かに太陽の光がないここでは、クリスタルレーザーを撃つことはできない。だが、俺の本業は剣士だぞ?」
「…… 剣でここを抜け出すってのか?」
「ああ。まあ、そこで見てろ。ソフィ、ビューレを連れてこっちに来てくれ」
全員が俺の近くにいることを確認して、上を見上げる。
「天井までの高さが十五メートル。地面の厚さが三十五メートルってところか」
俺は剣を抜かずに、抜刀の構えをしたまま魔力を剣に集め、鞘の中で魔力を圧縮する。
そして軽い力で抜刀しつつ、天井に向かって剣を振った。
その後一瞬の静寂を得て、爆風とともに魔力の塊が上方に飛んでいく。
それが天井に当たると、爆発音とともに天井が降ってきた。
「な……」
絶句してしまっているファブリを横目に、もう一度剣に魔力を込め、先ほどの剣筋を逆方向からなぞるようにして斬り返す。
すると、降ってきた地面が真っ二つに裂け、俺たちを避けて床に衝突した。
とんでもない量の砂埃が舞うが、シールドを張って、汚れるのを防いだ。
「さて、道は開けたぞ。上に登ろうか」
「さすがアル君! 今、まったく剣が見えなかったよ!」
新技に興奮した様子のソフィが、前のめりになって、俺に顔を近づけてきた。
「この体の身体能力と、俺の身につけた技術があってできる技だな。まあ、かなり剣に負担がかかるんだが……」
剣を見てみると、俺の愛剣は刃の部分に大きなヒビが入っていた。
「はぁ…… 十年以上使ってたんだが、もうダメそうだな……」
十年も使えば、故障するのは当たり前ではあるのだが、こんなにあっさり別れがくるとは…… 虚しいな。
諦めて新しい剣でも買うか。どこかにミスリルの片手半剣が売ってるといいんだが……
俺は剣を鞘に入れて、ビューレとファブリを両脇に抱えて地上まで登った。すると、地面を斬った音を聞きつけたのか、クートリフとダンが来ていた。
「魔王殿、いったいなにをしていたんだ?」
「レクイエムのボスを捕まえた。ほら、こいつを連れていけ」
「こ、こいつがレクイエムの……? わ、わかった。連行しよう」
ファブリはクートリフに抱えられ、どこかに連れていかれた。
「ボス、大丈夫でしたか?」
クートリフを見送ったダンが、話しかけてきた。
「ああ、なんとかな。それより、亜人たちはどうなった?」
「エレナさんのおかげで落ち着いています。全員が大人しく治療施設に入ってくれましたし、心配することはないかと」
エレナは、自分に与えられた仕事をしっかりとこなしたようだ。病み上がりだっていうのに、優秀な子だな。
「そうか。エレナには感謝しないとな。俺たちは大司教の所に行ってくるから、あとは各自の判断で過ごしてくれ」
「了解しました!」
ダンの敬礼を横目に、俺はビューレを抱えたまま、事情の説明のため、大司教のもとへ向かった。