作戦
教皇の城の会議室に集まったのは、作戦の重要人物たちだ。
「さて、全員集まったみたいだな。これから軍議…… じゃなくて、作戦会議を開始する」
「待ってくれ、魔王殿。そのエルフの子はいったい誰だ?」
今俺に話しかけてきたのは、聖騎士長のクートリフという男だ。
そして、そのクートリフが指差した先には、エレナが座っていた。
「俺たちの仲間だ。亜人のことなら亜人に、だろ?」
「よろしくお願いします」
エレナは、無表情のまま頭を下げた。
「むぅ……」
クートリフはなにやら納得いかないようだが、俺はそれを気にせず、話を進めた。
「じゃあ手短にいこう。まず作戦だが、正面から入る聖騎士軍と、裏に侵入してファブリの言っていた魔道具を壊す俺たちの二班に分けて、作戦を行う」
「私たち聖騎士の役目は、亜人たちの救出だけでよいのか?」
さすがは聖騎士長。納得いかない気持ちを、早々に切り替えてくれた。
「最優先はそれだ。だがもし、レクイエムの反撃を受けた場合は、自分たちでなんとかしてくれ。リベリオンも同じくな」
「了解した」
「了解致しました!」
軽く頷くだけのクートリフに対して、ダンはビシッと効果音がつきそうな勢いで敬礼をした。
この任務に関してはダンがいるので、万が一にも失敗はありえないだろう。それだけ、俺はダンを信頼している。
それにしても、今日はやけにテンションが高いな。久しぶりの大仕事だからか? 最近は情報収集ばっかりだったからなぁ。
「アルフレッド、亜人の奴隷はみんな、鉄の檻の中に入れられてる。どうにかして、それを破らないと」
一通りの話を聞いて、エレナが口を開いた。
俺がエレナを連れてきた理由がこれだ。エレナが一番、音楽堂の地下のことを知っている。
「なぜ、そんなことをこの亜人の子供が知っているのだ?」
案の定、なんの説明も受けていないクートリフが疑問を抱いた。
「このエレナがつい先日まで、レクイエムの地下に監禁されていたからだ。お得意の闇魔法で抜け出したところを、俺が助けた」
「なるほど……」
クートリフも、俺がエレナを連れてきた理由を理解したのか、納得してくれた。
「それで、檻はどうするの?」
クートリフへの説明を終えた俺に、エレナが質問してきた。
「ああ、鉄の檻くらいなら障害にもならないだろう。ここには聖騎士長殿と、うちの有能な隊長がいるからな」
軽く鼻を鳴らすクートリフと、嬉しそうに目をキラキラとさせ、大きく鼻を鳴らすダン。
信頼一つで、人って、こんなに犬みたいになるんだな。悪い大人に騙されないか心配だ。
「そして潜入チーム。こっちは俺、ソフィ、ファブリの三人だ」
「え? 僕も?」
会議に連れてこられたものの、なんの話もできず、周りの状況をキョロキョロと確認していたファブリが、突然名前を呼ばれてこちらを向いた。
「道案内は必要だろ? リベリオンの拠点には、お前とエレナしか入ってないんだぞ?」
無論、奴隷落ちしていて、体力のないエレナを案内役にするわけにはいかない。エレナには、やってもらわなければならない仕事もあるしな。
それと、俺の個人的な疑問があり、それを解決するためには、ファブリに案内をしてもらわないと困る。
「わかった。絶対に戦わないからね?」
「元から当てにしてないから大丈夫だ」
「…… なんだろう…… 人の口から言われるとショックが……」
「あの、アルフレッドさん! 私が行ってはダメでしょうか?」
重い雰囲気を出し始めたファブリを横目に、ビューレが前に出た。
「それはダメだ。ビューレは優秀な光魔法使いだからな。亜人たちの治療をしてもらう」
「わかりました……」
教国の聖女という責任感からか、はたまた俺たちが心配なのか。
どちらにしても、ビューレのお留守番は決定事項だ。まあ、お留守番だからといって休みはないんだが。
「手順としては、俺たち潜入チームが中に入り、情報を軽く集める。そして、問題がなにもなかったらダンに連絡を入れるから、それを機に突撃してくれ。作戦はたったこれだけだが、なにか質問はあるか?」
特に複雑でもない作戦なため、特に質問は出なかった。
このあと、潜入チームで話し合いをして、時間が来たら一気にレクイエムを叩く。
帝国の一件もある分、この作戦に何日もかけられないため、あえて単純な戦略にしたのだが、上手くいくだろうか?
いや、そうじゃないな。上手くやるんだ。よし。