表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/169

レクイエムの目的

 エレナが泣き止み、ソフィがエレナの頭を撫で続けて十分が経過した。

 俺はその間、レクイエムについて思考を巡らせていた。レクイエムは結局、どういう目的のために作られた組織なのか、ということについてだ。

 ビューレによると、レクイエムができたのは大体二年前だそうだ。いつのまにか結成されていたらしいので、正確な時期はわからない。

 人身売買だとか密売だとか、そんな金稼ぎはともかく、レクイエム の目的はやはり、あの魔道具によってなにかをすると考えるのが妥当だろう。

 魔道具は、分厚い壁で覆われた部屋の中にあった。

 魔眼でしか確認ができず、魔法陣しか見えなかったのせいで、パッと見ただけでは全体を理解することができなかった。だが、ヨハンならあるいは…… いない人物に頼っても仕方ないか。

 魔道具の全貌がわからない。あの魔道具が、目的を知る鍵だとなると、その目的はなんだろう?

 考えはぐるぐると回り、魔道具以外で目的を知る糸口がないかと、記憶を探る。だが、そう簡単には出てきてくれない。


「…… アル君」

「ん?」


 俺は、ソフィに呼ばれる声で、思考の渦から帰ってきた。


「また考えごと?」

「ああ。結局、レクイエムの目的がわからないままだったからな」

「奴隷売りじゃないの?」


 目を腫らしたエレナが、積極的な姿勢で話に混ざってきた。


「それが本当の目的じゃない。レクイエムは、謎の魔道具を隠し持っているからな」

「その魔道具でやることが、レクイエムの目的?」

「確証はないがな」


 エレナは首を傾げて悩むと、なにかを思いついたように、人差し指を立てた。


「わかった。浄化装置だ」

「浄化装置?」


 訳がわからん。なぜレクイエムの魔道具が、浄化装置に繋がるんだ?


「うん。だって、レクイエムってそういう意味なんでしょ?」

「そんな馬鹿な」


 レクイエムの言葉の意味が浄化装置だったら、一体あの鎮魂曲はなんだと言うのだ。確か、ヴェルディだかなんだか……


「違うかな?」


 エレナは心配そうに、ソフィの方を向いた。

 ソフィは一瞬困った顔をしたが、エレナの表情を見て、なるべく傷つけないように言葉を選びながら、話し始めた。


「少なくとも、浄化装置ではないと思うけど…… でも、それに近い意味はあった気がするね」


 こう、人を思いやる絶妙な言葉選びというのは、俺にはできない。俺は、割とスパッと言うからな。

 こういうところが、ソフィのいいところだと思う…… というのはさておき、


「レクイエムって音楽用語じゃないのか?」


 そんなような意味があることを、俺はまったく知らなかった。

 そんな無知な俺に、ソフィは優しげな目を向け、口を開いた。


「レクイエムは確か、最初は鎮魂曲って意味ではなかったんだと思う。そのもともとの意味は、私もちょっとわからないけど」

「ほう。鎮魂曲と言うと、なんだか宗教チックだな」


 何気なく呟いた一言だったが、これがソフィの顔つきを変えた。


「…… ミサ」

「誰だ?」


 ソフィがボソッと呟いた一言に、俺がすかさずに疑問を投げかける。


「人名じゃなくて、儀式のこと!」

「儀式? 一体なんの?」

「鎮魂のだよ! そっか、レクイエムってそういうことだったんだ!」


 ソフィには、俺のわからないなにかがわかったらしく、なにやら興奮していた。


「ソ、ソフィ? なにかわかったのか?」

「うん! レクイエムの意味、アル君よりも早くわかっちゃった!」


 俺に勝てたことがそんなに嬉しいのか、今にも踊り出しそうな様子で、ソフィは満遍の笑みを浮かべた。


「ソフィ、教えてくれ」

「うん! ええとね……」


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 ソフィの説明を聞いた俺は、我が婚約者の意外なおてんば力を見せつけられた気分で、頭を抱えていた。


「あ、あの、アル君…… ごめんね」

「いや、いいんだ。ソフィにとって、俺に勝ったっていう事実が、まさか物事の意味を理解する前に喜ぶレベルの幸福であったとは、思いもしていなかっただけだから」

「あぅ……」


 変な角度からの愛情(?)を受け取ったと思いこんで、俺は顔を上げた。


「それにしてもなるほどな。悪魔か……」

「真神教的に言うと、悪魔じゃない」


 俺と一緒にソフィの話を聞いていたエレナが、俺に対してツッコミを入れた。

 なんだか、仲間になった途端、急に態度が柔らかくなったな。これもソフィのおかげか?


「いやまあ、魔法を実力って意味では、人間よりも才能があるのは確かだがな」


 それがレクイエムの目的となると、あの魔道具は一体どんな兵器なんだろうな? 作戦が始まるまでに、もう一度確認してくるか。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 《悪魔》


 デーモンという魔物は、この世界に、いそうでいない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ