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ジンの手口

 アルフレッドたちを嵌めたあと、私はジンさん、エド、そして新しく仲間になったオリヴィアさんとともに、ジンさんの部屋に戻ってきた。


「エド、災難でしたねぇ。まさか、あなたが右腕を落とされるとは」

「まったくだ。どこかの誰かが重いせいでな」


 エドは、アルフレッドによって失った右ひじをさすりながら、私を睨んだ。


「ごめんなさい」

「ふん」


 エドは私のことが嫌いだ。過去になにかあったわけではなく、純粋に性格が合わない。だから、私もエドのことが嫌いだ。


「まあまあ、あとで治せるように手配しておきますよ…… いや、確かオリヴィアは錬金術を使えますよねぇ?」

「…… うん」


 ジンさんの妹は、小さく頷いた。


「それで義手を作るなんて、できませんかねぇ?」

「…… できると思う」

「エド、どうです?」

「錬金術で作る義手か…… ちゃんと動くんだろうな?」

「…… たぶん問題ない」

「なら、早々に作っておいてくれよ」

「…… わかった」


 エドは、自室に戻るために部屋を出ていった。


「エレナ、あなたも帰っていいですよ?」


 いつもなら、ジンさんはこんなことは言わない。たぶん、久しぶりの妹との再会で、早く二人きりになりたかったんだと思う。


「ジンさん、少し相談があります」


 それでも、私はジンさんに話したいことがあった。


「どうしました?」

「こんなことを言うのは失礼ですし、恩人であるジンさんを裏切ることになるかもしれないですけど…… 私、引退したいです」


 私は、確実に反対されると思っていた。自分で言うのもあれだけど、私のスパイとして腕は、それなりにいいと思うから。

 でも、ジンさんの反応はあっさりとしていた。


「構いませんよ」

「へ?」


 私は、即答された答えにポカンと惚けてしまった。

 それを見て、ジンさんはクスクスと笑いだし、理由を説明し始めた。


「アルフレッドたちを嵌め、オリヴィアを手に入れる。そのためだけにあなたを雇いましたから、その役割が終わった今なら、退職しても構いませんよ」


 その情報は初耳だったが、そんなことよりも、ジンさんが私の引退を即答で認めたことが、私にとって意外だった。


「…… 本当にいいんですか?」

「ええ。あなた以外にも、優秀なスパイはいくらでもいますから。ああでも、子どもで優秀なスパイはあなたしかいませんねぇ。まあ、それも仕方ありません。辞めたいなら好きにどうぞ?」

「わかりました。ジンさん、今までありがとうございました」


 少し驚いたが、自分の提案は受け入れられたのだと思い、私は頭を深く下げ、部屋を出た。


 私が軍のスパイを引退して数ヶ月後、私が帝国の街をぶらぶらと歩いていると、前から右腕をマントで隠した男が前から歩いてきた。

 その男は私の目の前で立ち止まると、私と目を合わせた。


「久しぶりだな、エレナ」

「エド……」


 その時のエドは、なにか面白いことを隠しているかのような、嫌な笑みを浮かべていた。

 この男はいつもそうだ。なにかあるたび、わざわざ不気味な笑みを作る。


「なんの用?」

「別に、お前に用なんてない。ただ、少し面白いものを発見してしまってな」

「……」

「ほら、コレを見てみろよ」


 そう言ってエドが懐から取り出したのは、ジンさんが書いた、私の村の事件の報告書だった。


「今更そのこと? エドは知ってたでしょ?」

「ああ、事件のことは知ってたさ。ただ、ここまでは知らなかったなぁ……」


 エドは報告書の一部を指差した。

 そこにはこう書いてあった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ヨーマ村の事件について


 ヨーマ村にて行われた反逆者掃討作戦は、帝国軍兵士が誰一人怪我を負うことなく終えた。

 なお、それは山賊に変装した兵士たちも同様である。

 唯一助かった少女は現在、ジン少佐のもとで、スパイの修行中につき…………


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 山賊に…… 変装……?


「ふふ、くははは! 見たか? 見たよな? お前の村を襲ったのは、山賊なんかじゃない! そもそもあの場所の近くには軍の基地があって、山賊なんかが近づける場所じゃない! なら、なぜ現れるはずのない山賊が現れたのか…… 真実は、帝国軍の変装でした! なんてな! ふははは!」


 私の耳には、エドの言葉など一言も入っていなかった。

 私の頭の中にあったのものはひとつだけ。それは疑問だった。

 どうして? なぜ? あのジンさんが、私の村を滅ぼした張本人……?

 私の脳は、逃げ場のない矛盾した思考のせいでパンクし、そのまま意識を失った。

 そして、私が次に見たのは、暖かいベッドでも、ジンさんの隣でも、ましてやヨーマ村の人たちでもなく、鎖に繋がれた自分の足と冷たい地面だった。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 俺たちは、エレナの過去をしっかり最後まで聞き届けた。


「アル君、起こしてあげて」


 ソフィの沈んだ声を聞き、俺はエレナに手をかざす。


「〈リペル〉」


 俺がエレナにかかっていた魔法を解くと、ハッとした少女になったエレナに、ソフィが抱きついた。


「辛かったね。ショックだったよね。でも、もう大丈夫。私があなたを守るから」

「……」


 その言葉を聞いた瞬間、エレナの目はどんどん充血していき、涙が溢れ出してきた。

 ソフィは、泣いているエレナの背中をさすり、エレナの涙が乾ききるまで介抱を続けた。

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