表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/169

まさかの巡り合い

 教皇との会談は、ビューレのおかげで簡単に取りつけることができた。

 教皇とその執事は終始俺に怯えていたが、これまたビューレのおかげで、話をスムーズに持っていくことにも成功した。

 ビューレ様々である。


「ビューレがいてくれて助かったよ。俺一人だと、あんなに簡単にはいかなかっただろうからな」

「いえいえ、お役に立てたのであればよかったです。私には、これくらいしかできませんので」


 会談では、亜人救出のための人員ーー聖騎士ーーを貸し出してくれることが決定し、亜人たちの保護場所も用意してくれるそうだ。

 それにしても、こんなにあっさりと承諾してもよかったんだろうか? もしかすると、大司教になにか言われてたとか……?

 ビューレの評価を上げるために、裏から手を回していたとか、あの大司教ならやりかねなさそうだな。


「それにしてもあの二人、ずっとアル君の機嫌を伺ってたね」

「まあ、前の会談ではズタボロにやられてたからな」


 ビューレは、素朴な疑問を聞くかのように、俺の方に顔を向ける。


「いったいどんな目に合わしたんですか?」


 ズタボロになる方法など、一つしかないだろうに。


「力の差を見せつけてやっただけだぞ」

「聖騎士相手にですか?」

「まあ、たった三十人だったけどな」


 俺とて、聖騎士三十人がどれほどの戦力なのかは理解している。たった、と言ったのは、婚約者ーーどちらかと言うとソフィに対するーー見栄である。


「…… 聖騎士は、一人で魔族と渡り合えると言われているのですけど……」

「いや、うちのリベリオンの団員より弱かったし、頑張っても、聖騎士三人で魔族二人分だな」


 これは戦ってみた感覚による判断だが、おそらく合っているだろう。

 聖騎士は、教国の軍の中からエリートだけがなれるものだが、リベリオンのは訓練の効率が違う。聖騎士がリベリオンばりの訓練をすれば話は別だが、今のところの戦力は、リベリオンの方が高いだろう。


「それでも十分すぎる戦力だと思うんですが……」

「まあほら、アル君、魔王だからね」


 ソフィが横から、諦めたような表情でそう言った。


「めちゃくちゃなんですね……」


 ビューレもそれを聞いて、俺を若干哀れむような目で見てきた。

 確かに力を手に入れるのは大変だったし、苦労もした。だが、だからといって、その苦労を哀れまれるとちょっと虚しい気分になる。


「そこの二人、俺を常識はずれみたいに言うな」

「でも、実際戦力にしたら……」

「規格外ですよね……」

「……」


 この時の俺の頭の中には、帝国軍を魔法一つで撃退した記憶がよぎり、二人の言葉になにも言い返せなかった。

 もちろん、二人で俺のことをからかっているのはわかっている。わかっているが、事実である以上、何を言っても無駄なため、俺は硬く口を閉ざすことにした。


 教皇の城を出たあと、俺はもう一度、レクイエムの本拠地に向かった。理由は地図を作成するためだ。

 簡単な地図しか書けないが、無いよりはマシだろう。

 魔眼を使って透視をしながら、簡単な地図を完成させる。

 ここを攻めるのは二日後、これさえあれば、聖騎士たちも突入しやすくなるだろう。

 ちなみに、なるべく見つからないようにということを考えて、一応一人で隠れながら行動している。

 しばらくして、地図の正確性の確認を終え、周りを軽く見渡しながらレクイエムの行動を観察していると、音楽堂の裏の出入り口から一人の長耳族の少女が出てきた。

 少女はフラフラとした足取りで、音楽堂から離れていこうとしている。だが、それに続くようにして、音楽堂から男たちが飛び出した。

 男たちは、しばらく周りをキョロキョロと見渡すと、なにか焦った様子で、街の方へと駆け出した。


「ん〜! ん〜!」


 そして、俺の腕の中には、手足をジタバタとさせながら泣いている、エルフの少女がいた。

 一言で言えば、俺はエルフの少女を攫ったのである。

 なあに、悪いことはしない。ただ、音楽堂の中の様子を聞くだけだ。


「大丈夫だ、俺はレクイエムじゃない。それどころか、レクイエムと敵対する者だ。安心してくれていい」


 俺は、ぼろぼろの少女に〈ヒール〉を使い、ついていた足枷を指の力だけで外した。


「ひっ!」


 指の力だけで足枷を外したところを見て、驚いた少女は、バッと俺の顔を見上げた。そして、そのまま一瞬悲鳴を上げると、パタッと倒れて動かなくなってしまった。

 そんなにショッキングな顔か……? まあ、疲れていたんだと思っておこう。

 俺は少女に上着を着せておぶり、地図をポーチに入れ、ファブリの家まで歩き出した。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「…… で、連れてきちゃったのね」


 ソフィに呆れ顔をされ、弁明の言葉も浮かばない理由は、なにも俺が人攫いをしたことに対してではない。

 問題は、攫ってきた人物だった。


「あはは…… いや、まさか、エルフだとは思わなかったもんで……」

「早く殺して……」


 今俺たちに周りを囲まれ、布団に丸まって絶望の表情をしているのは、エレナだ。

 そう、あのエレナだ。


「帝国にいた時に会ってるのに、魔眼では分からなかったの?」


 もっともな質問である。しかし、魔眼とて、そんな便利なものではない。


「いや、俺だって、ずっと魔眼を使ってるわけではないからな。魔王になってからはともかく、あの時の俺は、エレナを魔眼で見ることはなかったぞ」

「早くしないと自殺する…… いいの?」


 普通の視界と魔眼の視界は、まったく見え方が違うため、混同して使うと視界が乱れて混乱しそうになる。それを防ぐために俺は、普通の視界を使う時は、なるべく魔眼を控えているのだ。


「ええと、この子はアルフレッドさんの敵…… ということでいいんですか?」


 ビューレが、真っ青な顔をしているエレナを見ながら、首を傾げる。

 それに対して俺は、曖昧な言い方をするしかなかった。


「敵だったが、レクイエムから奴隷の状態で出てきたからなぁ……」

「なるほど。まだどっちなのかは分からないんですね」

「…… バーカバーカ」


 奴隷になっていたということは、途中で捨てられたってことか? だが、ジンがこんな有能なコマを捨てたりするのだろうか?

 これは、エレナもいろいろワケありってことなのかもな。


「こんなに小さくて可愛い子がアルフレッドを騙してたなんて、すごいなぁ」


 ファブリも、エレナの経歴に驚きを隠せず、彼女のことをまじまじと観察していた。


「ああ、俺も子供だからって油断してた。まさかの展開だったからな」


 ジンの、使えるものはなんでも使う、という見境のなさに、俺も驚いたものである。


「………… アルフレッドのアホー、しんじゃえー、バカー」

「「「「……」」」」

「……………… ふぁっきゅー……」


 あんまりにあんまりなエレナの言動に我慢できず、ソフィは疑問を口にした。


「アル君、エレナってこんなだったっけ?」

「もしかして、奴隷堕ちしたショックでおかしくなってる……? もしくは、どこかに頭でも打ったか……?」


 俺の方をジーっと見つめ、低レベルの暴言を吐き続けるエレナ。

 その表情から読み取れるのは、絶望だと思っていた。いや、思い込んでいたのだが、よくよく見てみると、ただ無表情でやつれているだけに見えてきた。


「まあ、ともかく、ご飯を持ってきてやれ。死んでもらっても困るからな」

「わかった。下から取ってくる」


 ファブリが下の居酒屋へ食料を取りに行き、俺たちはエレナに対しての尋問を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ