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視察

 レクイエムの本拠地は、教国の南の果てに堂々と建てられていた。

 本拠地と言っても、国が作成した音楽堂のような場所で、実際にオーケストラやオペラなどがここで演奏することも多々ある。

 そしてレクイエムは、この音楽堂の地下に拠点を置いているらしい。


「あくまで表向きは音楽団体ってことか」

「アル君、中はどんな感じ?」

「地下には、ファブリの言っていた魔道具と、大量の亜人たちってところだ」


 魔道具は、分厚い壁の中に大切に保管されているようだ。

 さすがに、魔眼だけでは壁の材質まではわからないが、壁の中はかなり大きな空間になっているだろう。

 その分、魔道具が大きいということも表している。


「ボス、亜人たちはどうするのですか?」


 今、俺をボスと呼んだのは、リベリオンの部隊長を務めているダンという男だ。魔族に劣らない戦闘力や、慎重な性格をしていて、今まで教国を拠点に情報収集をしていた。

 そして今回、亜人のことを頼むために、俺が通信機を使って呼んでおいたのだ。


「亜人はお前の部隊に護衛させつつ、王国まで運んでもらう気でいたんだが…… 予想以上に亜人の数が多いな。軽く千人はいるぞ」

「私の部隊は五十人ですからね…… ですが、ボスが命令してくださるのであれば、無茶なことでも必ずやり遂げてみせます!」


 背筋を伸ばし、ビシッと敬礼を決めるダン隊長。


「気概はいいが、とりあえず現実を見ろ。魔物のことも考えると危険すぎる。あの亜人たちも、奴隷として運ばれてきている分、体力も残ってないだろうしな。はぁ、こんなところで魔道具師がいないのが悔やまれるか……」


 ヨハンがいれば、俺と協力して簡単な車でも作り上げられるんだがな。さすがに俺一人では、一週間では間に合わないだろう。


「アル君、亜人たちは大司教に任せて、魔道具の方をどうにかしよ?」

「それが一番現実的だな。となると、聖騎士の協力も必要か。ダン、もしも聖騎士の協力が得られたなら、奴隷解放の手伝いをしてくれ」

「了解しました!」

「それじゃあ、俺からの指示があるまで待機だ」

「はっ!」


 ダンは忍者のような動きで、その場から一瞬で消え去り、持ち場に戻った。


「すごいですね…… あの方も魔族ですか?」


 いきなり知らない人が出てきたと思えば、俺と話し始めるという状況を見て、まったく話す気配のなかったビューレが、ようやく口を開いた。


「いや、あれは人間だ。俺についてきてくれた、リベリオンの一人だな」


 立ち去る姿が見えなかったのに驚いたファブリも、「僕もできるようになるのかな……?」などと呟いている。


「訓練次第だけどな。ファブリも、もしかしたらできるかもだぞ?」

「ほんとか!? ちなみに、どんな訓練をするんだ!?」

「軽く、聖騎士の訓練の三倍の量を、聖騎士の訓練の半分の時間でやってもらうくらいだな」


 リベリオンには戦力が必要だった。そのため、かなりキツめの訓練を一時期していたのだが…… 今考えると、やり過ぎだったかもな。


「……」


 黙り込んでしまったファブリに向かって、俺は笑顔を作って話しかける。


「どうした? やらないのか?」

「そんなの絶対無理だ!」

「リベリオンのみんなは、なんなくこなしてたぞ?」

「そんなバカな!?」


 まあ、あの時は、みんな復讐鬼みたいになっていたからな。体も心も麻痺していたのかもしれない。


「それで、この後はどう動くんですか?」

「とりあえず今日は観察だけして帰ろう。そして明日、教皇に会って、聖騎士を動かすように言ってくる」

「わかりました。それなら、私もついていきます」

「ああ、聖女が来てくれるとありがたい」


 このまましばらくの間、魔眼でレクイエムを観察していたが、特に動きがあるわけでもなかったので、ファブリの家に帰ることにした。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 ファブリの家の二階の一室で俺が休憩していると、扉が二度ノックされた。


「アルフレッドさん、ビューレです。入ってもいいですか?」

「ああ、ちょっと待ってろ」


 俺は椅子から立ち上がると、扉の前まで歩き、ビューレが入れるように扉を開けた。


「入っていいぞ」

「あ、ありがとうございます」


 ビューレは、少し緊張した様子で部屋の中に入った。

 俺はビューレに椅子を勧めて、ベッドに腰かけた。


「それで、どうしたんだ?」

「ええと、その…… 体を調べさせてほしいな…… と、思いまして……」

「ああ……」


 ビューレは、自分の目の前で人差し指をツンツンと合わせながら、気まずそうにそう切り出した。

 そういえば、大司教と会う前にそんな約束をした気がする。まあ、それで大司教と会えるのなら安いものだったし、別に構わないんだが。


「好きにしてくれていいぞ。それで、俺はどうすればいい?」

「あ、ありがとうございますっ! ええと、そこのベッドに横たわっていてください」

「わかった。こうだな」


 俺は言われた通りベッドに横たわる。すると、ビューレが近づいてきて、「失礼します……」と申し訳なさそうに言いつつ、俺の胸に触れた。

 ビューレは目を閉じると、自分の魔力を俺の体に流し始めた。

 いつもの俺ならば、逆に俺の魔力を相手に流し、敵を気絶させるところだが、相手がビューレではそうもいかない。

 俺はおとなしく、ビューレの魔力に、されるがままにされていた。

 しばらくすると、ビューレは自分の魔力をすべて回収し、俺に向き直った。身体の検査はもういいようだ。


「すごいですね…… 体の半分が魔族ですか……」

「…… すごいって言いたいのは、こっちの方だ」

「え?」


 ビューレはなんのことかと、ちょこんと首を傾げた。


「その魔力を使った検査術、どこで覚えたんだ?」

「ええと、私を助けてくれた時に、アルフレッドさんがやっていたものですから……」


 聖女であった分、少し世間知らずなところがあるみたいだな。


「その技術、勇者やソフィでさえできないし、ましてや一般人になんかには、夢のまた夢くらいの魔力操作の技術が必要なんだぞ?」


 俺が説明してやると、常識はずれの聖女様は飛び跳ねた。


「ええ!? そうなんですか!?」

「よくもまあ、一回目でこんなに上手く検査できたもんだよ。感心した」

「その…… なんというか、ありがとうございます……」


 まったく、俺の婚約者はとんでもないのがたくさんいるな。

 転生してきたオリヴィアはともかく、素でこれなのだから、本当にとんでもない才能だ。上手く訓練したら、化けるかもな。


「俺の身体を調べた分、明日もよろしく頼むぞ」

「あ、はい。任せてください。頑張ります!」


 ビューレは、手を体の正面でグッと握り、笑顔になった。

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