ファブリからの情報
教国との同盟、そしてビューレとの婚約が決まり、ビューレの赤面が落ち着いたあと、次の話題に入った。
「次はファブリについてだな」
「わ、わかりました。なにを話せばいいんですか?」
教国の実質的トップである大司教を前にして、ファブリは緊張でガチガチになっていた。だが、説明させるために連れてきたので、ここはしっかりと話してもらわなければいけない。
大司教がファブリの方に身を乗り出した。
「なぜビューレと一緒に行動していたのか、というところじゃな」
「は、はいっ。ええと、僕の父がレクイエムの幹部だからですっ!」
「「「…… はぁ!?」」」
ファブリのまさかの発言に、一瞬の静寂を置いて、一同が目を見開いた。
ファブリの父親がレクイエムの幹部だと? まさか、こんなに近くにレクイエム関係者がいるとは…… なんという幸運。
「ファブリ、あなたのお父さんの情報を、お爺様たちに教えてあげてください」
「うん、わかったよ、ビューレ」
ビューレに催促され、ファブリは少し下を向きながら話し始める。
「お父さんはあまり家にいない人でした。なので、僕はある日、興味本位でお父さんの仕事場に勝手に入ったんです。そして、その場所こそが、レクイエムの本拠地でした」
「それで、中にはなにがあったんじゃ?」
驚きから立ち直った大司教は、さらに身を乗り出して、ファブリの話に耳を傾けた。
「…… 僕が見たのは、よくわからない装置だけです。形もよくわかりませんでしたが、大きさはかなりのものでした」
話を聞く限り、巨大な魔道具というところだろう。
「しかもお父さんは、それを作るプロジェクトのリーダーらしくて、僕も情報を得ようとしたのですが、敢え無く見つかりそうになったので、その時は諦めて逃げてきました」
「その時はってことは、その後も何回か潜入したのか?」
今度は俺が質問を飛ばす。
「ええ、合計で五回ほど調査をしました。そして、その五回目の潜入が終わった時、ビューレと出会ったんです」
ファブリがそこまで話すと、次はビューレが口を開いた。
「ここからは私が説明しますね。私が教会を抜け出して、レクイエムの拠点を調べている時、たまたまそこにコソコソと入っていく人影を見たのです」
「なるほど。それがファブリだった訳か」
「はい。そして、私はファブリが拠点から出てくるのを待って、接触しました」
「ビューレが僕に話しかけた時、一瞬レクイエムかと思ったんですけど、顔を見て、すぐに聖女だってわかりました」
そして、そのまま協力関係になったということか。
ビューレがファブリを見つけたのは、かなり運がよかったな。おかげで、俺にも情報が入ってきた。
「まあ、私たちが協力してなにかをする前に、私は攫われてしまうのですけどね。そこからは、皆さんの知っている通りです」
「なるほど。ファブリ、知っている限りでいいから、レクイエムの情報を話してくれ」
「あれ? アルフレッドは情報を得ているんじゃないの? あの太っちょを使って……」
「あのデブが知っていたことは、薬物の密売についてだけだった。だから、それ以外にあればでいい」
まあ、レクイエムほどの大きな組織となると、確実にあるだろうが。
「わかった。それ以外にもいくつかあったから、今から話します。まず一つは、獣人、長耳、小人族の人身売買。二つ目は、謎の装置の起動。そして最後に…… 人間の製造です」
「な、なんじゃと? に、人間の製造?」
「はい。拠点の地下で人を作っていました」
目をぱちくりとさせる大司教と、俺の方を向くソフィ。
「アル君、まさかそれって……」
「ホムンクルスに違いないだろうな」
帝国にいるホムンクルスが、教国で作られているとは思わなかったな。
「ホムンクルスというと、錬金術によって作られた人間じゃったな。なぜそれが教国で作られているんじゃ……」
大司教が考え込むと、すかさず俺が答えた。
「レクイエムと協力している、ジンという男の仕業です」
「ジンとな……?」
「ええ、大陸中のすべての国を滅ぼすことを目的とする男です。そして、その妹のオリヴィアは、錬金術に精通しています」
「なるほど。儂を陥れた兄妹のことか……」
どうやら、ブレインハックをかけられた時の記憶はあるらしい。
「覚えているのですね?」
「ああ、もちろんじゃ。いきなり儂の前に現れ、頭を鷲掴みにしたと思ったら、変な魔法をかけられたのじゃ。まあ、その魔法は、魔王殿が解いてくれたようじゃが」
切羽詰まっていたのか、意外と雑な洗脳の仕方だった。普通なら気づかれないように魔法をかけるもんなんだが。
「それでは、レクイエムの対策ですが…… 先手を打ちましょう」
「うむ、早めの動きは、儂もよいと思う。相手が対応してくる前に叩くのは、戦術の基本じゃからな」
確かにそれもあるのだが、今はそんなことよりも、急がねばならない理由がある。
「ええ、ということでファブリ、本拠地に案内してくれ」
「ええ!? 今から!?」
「ああ、さっきも言った通り、先手を打つ」
「いやでも…… わかった。案内するよ。レクイエムに見つからないようにしないとなぁ……」
「ファブリ、私も一緒に行きますから、大丈夫ですよ」
ファブリとビューレは、ゆっくりと立ち上がった。
…… 疑いすぎだといいんだが。
「アル君? 早く行くよ」
ソフィは、いつまで経っても動かない俺を見て、声をかけてきた。
「ん? ああ、悪い。ぼーっとしてた」
「大丈夫? やっぱり風邪ひいた?」
「いや、大丈夫だ。早く行こう」
気をつけておくことに損はないか。