男の甲斐性
学院に入学してから、半年が経った。
ソフィと一緒に勉強して、昼食はソフィとヨハンと俺の三人で食べる。という風な日常を過ごしていた。
剣を振る時だけは、毎日一人だったが。
そういえば、ヨハンが初めてソフィに会った時は面白かったな。
「ソフィ、こいつが俺と相部屋で、友達のヨハンだ。よろしくしてやってくれ」
「ぼ、僕がヨハン……です。よ、よろしくお願いします……」
「うん! よろしくね!」
顔を真っ赤にして、口元をゴニョゴニョさせて自己紹介をする様は、見ていて思わず大笑いしてしまった。ソフィもその姿を微笑ましそうに見ていた。もちろんその後に、
「わ、笑うなーー!!」
と言って、ヨハンが俺に殴りかかって来たのはご愛嬌である。
なんとか落ち着かせて、席に着かせるまで大変だったものだ。
それからは毎日、三人で一緒にご飯を食べている。
そしてなんと、ヨハンも俺と同じでボッチ体質だったらしい。今まで友達と呼べる人がいなかったとか。
俺の仲間である。これからも仲良くしてやろう。
「アル君、今度の森でのサバイバル訓練の話はちゃんと聞いてた?」
食事の中で、ソフィが俺に聞いてきた。
俺はサバイバル訓練という単語に、全く聞き覚えがない。
「そんなのがあるのか?」
「やっぱり聞いてなかったんだね。
一週間後に、森で二泊三日のサバイバルをするから用意しておけって、先生言ってたじゃん」
どうやらサバイバルを学ばないといけないらしい。
貴族の楽な生活に慣れているから大変そうだな。というかめんどくさそうだ。
「用意って、何を用意するんだ?」
「サバイバル用品全般と服かな」
「服って、制服じゃダメなのか?」
「制服でも良いけど、汚れちゃうよ?」
確かに洗うのは手間がかかるな。サバイバル用品となると、ナイフとか方位磁針やらがあれば良いか。
次の休みの日に、俺とソフィは私服で街に出る。
「よし、じゃあ買いに行こうか」
「おー」
今日は、ソフィと二人でデートというわけだ。
初デートが王都か、色々なお店があるから迷いそうだ。行き先はほとんど決まっているが。
「ええと…… あった! あのお店だ!」
「武器屋だな。まさか初来店が、サバイバルナイフを買いに来ることになるとは」
どちらかと言うと剣を買いに来たかった。
父様から貰ったミスリルの剣があるため、当分買いに来ることは無いだろうが。
「細かいことは気にしないの」
「それもそうだな」
さて、どのくらいのお値段の物を買えば良いのやら…… 一応、少しお高いのを買っておくとするか。すぐに壊れても嫌だし。
色々あると悩むなあ……
「うーむ…… これにするか」
まったく関係のない話だが、だんだんお腹が空いてきた。そういえば今日は、朝食を食べていなかったな。
「おじさん、この鋼のナイフ、二本ください」
「おう、一本大銀貨五枚だ」
けっこう高いが、作りの方は良さそうだ。職人が上手いのだろう。これなら簡単に壊れることは無さそうだ。
俺がナイフを選んでいる間、ソフィはずっと細剣を見ていた。
確か、少し前まで習っていたとか言ってたな。いつかは闘いぶりを見てみたいものだ。
会計を済ませ、俺は店の出口へと向かう。
「ソフィ、先に服屋に行ってるぞー」
「あ、待ってアル君! 置いてかないでー!」
ソフィを置いていくふりでからかって、服屋へ向かう。
ラッキーなことに、通りの向かい側にあるようだ。
服屋では、サバイバルしても破れないような丈夫な服を買わないとだ。
早速、中に入ってみる。
「おお、かなり種類があるんだな」
「王都だからね。みんな売れ筋商品だよ」
なるほど、この中から探すのはなかなか骨が折れそうだ。とりあえず、茶色っぽい服一式を二組買おう。
地味だし、隠密能力も高くなる。本当なら、白とか黒を買いたいところだが、それを着ると、森では目立つからな。
二つ合わせて金貨一枚。これもトラップスパイダーの糸を使っているらしい。通りで高いわけだ。
さて、早く帰ってご飯を食べよう。もうお腹がペコペコだ。
「ソフィ、早く行……」
ソフィが服を物欲しそうに見ている。真っ白なワンピースか…… ソフィの白い髪と合わさって、すごく似合いそうだ。
これはもう、買ってあげるしかないだろう。男の甲斐性ってやつだ。
「ソフィ、欲しいなら買ってやるぞ」
「…… いいの?」
上目遣いで、少し申し訳なさそうにこちらを見てくるソフィ。
写真に収めておきたい。カメラなんてないが。
「もちろん。俺に任せなさい」
「やった! ありがと!」
ソフィにサムズアップをし、店員さんに頼んでサイズを合わせて貰った。
そして、持ち前の交渉術でなるべく値段を下げて買うことができた。具体的に言うと、大銀貨一枚だったところを、銀貨六枚まで値引きさせた。
いやあ、いい買い物だった。何より、ソフィの笑顔が見れたのが僥倖である。
「えへへ、大事にするね!」
「今度一緒に出掛ける時、着てもらえると嬉しいな」
「もちろん!」
このために生きているんだと言っても、最早過言ではないだろう。
次に来た時は、もっといろんな服を買ってあげよう。
その後は雑貨屋に行き、サバイバルに必要な小物をいくつか買った。寝袋や方位磁針、水筒などだ。
ぐぅぅぅぅ
…… っと、お腹が鳴ってしまった。
ソフィに、我慢していたのがバレてしまう。恥ずかしい。
「お腹が減った…… 何か食べに行かないか?」
「ふふふ、じゃあ、パスタ食べに行こっか。王都のパスタは美味しいんだよ!」
「よし、なら、今すぐに行こう」
そのあとは、王都の有名料理人が経営しているパスタ店に行った。
ちなみに、パスタはめちゃくちゃ美味しかった。
今度エスカルゴなんかも食べてみよう。どんな味がするのか楽しみだ。
さて、買い物も終わったし、お腹も満たした。これで準備は万端だな。
サバイバルなんて、前世でやった事無かったから、結構楽しみだったりする。怪我も病気もなく終わらせられるといいな。
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《ラント硬貨》
ラント王国で使われている貨幣は、六種類ある。
銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の六つだ。
日本円にすると、だいたい銅貨→十円、大銅貨→百円、銀貨→千円、大銀貨→一万円、金貨→十万円、大金貨→百万円くらいになる。
《細剣》
レイピアと呼ばれる両刃の片手剣である。刀身が細く、先端が尖っている。
突きを基本戦術として使用される。斬る事もできなくはないが、あまり威力は出ない。
基本的に右手にレイピア、左手に短剣を持って戦闘を行う。レイピアで攻撃し、短剣で防御する様な形となる。
長さは一・二メートル。重さは一・三キロ。(重さの基準は鉄製)
《短剣》
ダガーと呼ばれる短い両刃の剣である。
刺す事と投げる事に特化した剣で、小さいため急所を的確に狙わなければ致命傷を与えられない。だが、取り回しが良いので、全身甲冑を用いている者は押し倒して、ダガーを鎧の隙間に突き刺すことで致命傷を与えるなど、利用価値は高い。
長さは十センチから三十センチ。