教皇との対談
俺とソフィが教国の城に到着すると、皇座の間の扉の目の前までメイドに案内された。
「なんか、久しぶりだから緊張しちゃうね」
「と言っても、一度は会ってるだろ?」
「ううん、前にここに来た時は、アレンのパーティに入った時だから、教皇様には会ってないんだ」
「そうだったのか。まあ、ソフィは俺の隣にいるだけでいいし、緊張しなくても大丈夫だぞ?」
「うん、ありがと。アル君も頑張ってね」
「おう、任せとけ」
二人のメイドが、身長の二倍はあるかのような大きな扉を開く。すると、その奥には教皇が待ち構えていた。
俺たちは大きな部屋の中に入り、敷かれたレッドカーペットの上を歩いていく。そして、教皇の前で止まった。
俺は座っている教皇を直視して、一言目を発した。
「私はハイタス王国が魔王、アルフレッドである。本日は忙しい中時間を取って頂き、感謝する」
俺が自己紹介をした途端、皇座の間にいる貴族や兵士たちがざわめき始めた。おそらく、俺が魔王であることが原因だろう。
「静かにせい! 皇の御前であるぞ!」
そのざわめきを、教皇の隣に立っている男が沈めた。執事的な存在だろうか?
「私は教皇、スラント七世である。本日は何の用かね?」
スラント七世は、貴族たちが静まったのを確認すると、自己紹介をし、要件を聞いてきた。
「私が来た目的は一つ。我が王国と貴国とで、同盟関係を結ぶためだ」
「同盟…… 同盟か…… ふふふ…… ふははは! 愉快愉快! 実に愉快であるぞ!」
「そうでありますな、教皇様! ふははは!」
俺の同盟という言葉を聞いた途端、教皇とその執事は、勢いよく笑い出した。
「我が、ハイタス王国との同盟を快く思ってくれているとは、実にありがたい。ぜひ、すぐにでも契約を結ぼうではーー」
「ふはは! いいや、そうではない!」
俺の言葉は、途中で遮られてしまった。
「では、どういうことで?」
「教皇である私の前に、のこのこと魔王が出てきたことが愉快と言っておるのだ! ふふ…… 魔王が王である国との同盟? そんな不可能なことのために、ここまで出向いてくれて感謝するぞ! さあ騎士たちよ! この魔王を殺すのだ!」
教皇が叫んだ瞬間、脇の方から次々と騎士が出てきた。総勢三十名と言ったところか。
「アル君……」
「大丈夫だ、ソフィ。ここは俺に任せておけ」
「ん〜? よく見てみると、なかなかよい女を連れているではないか。おい、そこの女。魔王を捨て、私の妃となれば、お前の命は助けてやっても構わんぞ? まあ、そこのポンコツ魔王は殺すがな! ふははははは!!」
…… 今、なんと言った……? ソフィを妃に寄越せ、だと? この愚の体現者であるかのような貴様に…… ソフィを渡せとでもいうのか?
そんなことは、この私が許さない。
「……」
「どうしたのかね? 魔王殿。今更怖くなったのかね? だが、逃がしはせんぞ。この私こそが、魔王を討ち取った教皇となるのだ!」
私は盛り上がり始めた教皇を差し置いて、自分の魔力を手のひらに集めた。
「ぬ? おい、聖騎士どもよ! 魔王がなにかをする前に討ち取らんか!」
「「「「「「「「「「はっ!!!」」」」」」」」」」
槍や剣を持った騎士は、真っ直ぐに武器を突き出しながら、私に突撃してきた。
私は、手にあつめた魔力を魔法に変換せず、そのまま部屋中にばら撒いた。すると、私の魔力に触れた聖騎士は、力が抜けたようにがくりと倒れ伏した。
もちろん、その倒れた聖騎士の数は、奥から出てきた聖騎士の数と同じである。
一瞬、その場を静寂が支配した。そして、その静けさの中に、教皇の隣で口をあんぐりと開いていた執事の言葉がよく響いた。
「そんな、馬鹿な……」
その言葉で状況を完全に理解した教皇は、顔を白くしながら震え始めた。
そして、そんな無様な姿をさらしている教皇の前で、私は口を開いた。
「貴様ら程度が、この私に指の一本でも触れられるとでも思ったか? このアホどもめが」