一人目の友達
学校見学が終わったら、次は寮に向かう。ソフィは女子寮なので、途中で別れることになる。
「また明日な。しっかり寝るんだぞ」
「分かってるよ。アル君も、緊張で眠れなかったりしないようにね!」
「そんなことあるわけないだろ。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみー!」
ソフィならきっと、相部屋の人とも仲良くできるだろう。問題があるとすれば、俺の方だな。
男子寮に入り、一階の角部屋に向かう。
「ここが俺の部屋か」
中に相部屋になる人がいることを考えると、少し緊張する。
俺は、中にいる人に緊張を悟られないように、自然にドアを開けた。
「誰だ!?」
部屋に入った途端、すごい警戒された。何故だ?俺は何もしてないぞ。そんなに俺が嫌いなのか? それとも、何かやましいことでもしていたのか?
よく見てみると、何か作業していたのだろう。何かの道具が散らかっていた。
あれは…… 魔道具か?
「この部屋に泊まることになった、アルフレッド・アバークロンビーだ。よろしく頼む」
「…… そうか。僕はヨハンだ」
どうやらヨハンというらしい。茶色い髪に茶色い目で、身長が小さい男だ。
とりあえず、ヨハンがしている、手元の作業について聞いてみる。
「それって魔道具だよな?よくそんな細かい物を一人で作れるもんだ。
でも、それだと魔法陣を繋ぐ回路が複雑になり過ぎてるぞ。魔法同士が衝突して効果を打ち消し合ってる。発動は無理だな」
「…… 分かるのか?」
「まあな」
父様の書斎で勉強したからな。
「…… どうすれば良いか、分かるか?」
「おう、少し貸してみろ。ええと、これをこうしてっと……」
衝突を起こさないように、魔法陣の位置を変える。そして、回路を組み直す。
「これでどうだ?」
俺の魔力を流した途端、魔道具が光を発した。白い光だ。
この魔道具は、魔法の適正を判断するもののようだ。一番適正の高い一色までしか分からないみたいだが、よくこんな物を作ったもんだ。
「……すごい」
「ん?」
「回路が全て組み直されている。それに加えて、魔法陣の位置も重ならないように変えたのか。しかも、二つの魔法陣で一つの効果を生み出すように魔法陣を重ね合わせているのか。なるほど、一つの魔法陣で一つの効果を出そうとするから回路が複雑化していたのか……」
俺の手から一瞬で魔道具を取り上げ、いきなり一人ブツブツと話し始めた。
この歳で魔法陣と回路の仕組みを理解している。なかなか頭が良いみたいだな。
「お、おう。ちゃんと分かってるじゃないか」
しかしあまりに一瞬で取り上げられたため、動揺が隠しきれなかった。今の、俺の父様の本気並みに早かったかもしれない。
あれから二十分、俺がいじった魔道具を調べている。独り言付きでだ。そろそろうるさくなってきた。
だが、どうやら一通り調べ終えたらしく、急に手元の作業も独り言も止まった。
「アルフレッドは、魔道具が専門分野なのか?」
「いや、俺の専門は剣士だよ。ヨハンは魔道具が専門か?」
「そうだ。それにしても、何故こんな技術を持っているのに、魔道具の専門にならないんだ?」
「俺は魔法が使えないからな。自分で開発しても、自分で使えなきゃつまんないだろ?」
ヨハンはそこで、ハッとしたらしい。
「そういえば…… そうだったな」
「ああ、あいにく魔力量が少なくてね」
まあ、魔法が使えても多分剣士になってたと思うがな。
理由は二つ。まず、光魔法が攻撃系の魔法に向いていないというのが一つ目。
そして、魔道具作りという、細かい作業をし続けるのはストレスが溜まる、と言うのが二つ目だ。
まあ、できないこともないんだが、進んでやりたくはないな。
「それにしても、剣士が専門なのにどうして魔道具が作れるんだ?」
「まあ、家に魔道具に関する本があったからな。興味本位で読んでたんだよ」
「魔道具を作ったことは?」
「さっきのが初めてだが?」
「はぁ……」
な、何故ため息をつかれたんだ?
それにしても、ヨハンはあまり俺に見下すような目をしないようだ。もしやこれは、友達第一号だろうか?
「まあなんだ、また魔道具で困ったら聞いてくれ。教えられることなら、教えるよ」
「ああ、その……なんだ……よ、よ……」
「よ?」
「よ、よろしくお願いする! アルフレッド!」
うつむいてまで俺から目を逸らし、叫ぶようにお願いされた。
そのおかしな姿を見て、俺は笑いがこらえきれなかった。
「ふふっ、ふははははは!」
「な、何故笑う!?」
「意外と恥ずかしがり屋なんだな! こちらこそ、よろしくな!」
「ち、違う! 僕は恥ずかしがり屋なんかではない!」
赤面で言っても、全く説得力が無いものである。
それにしても、友達はちゃんとできたな。学院での目標の一つ、〈友達作り〉が達成できた。
こう言ってしまうと、なんだか俺が、本当にボッチみたいだな。いや、実際ボッチだったか。
いやいや、俺にはソフィとシャルがいた。大丈夫だ。ボッチじゃない。ボッチじゃないやい。
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《魔道具》
魔道具というのは、簡単な物を作ろうとすれば、誰でも作ることができる物だ。紙切れ一枚に、魔法陣を描くだけなため、魔法陣さえ覚えてしまえば単純作業なのである。
だが、より複雑な魔道具を作ろうとすると、魔法陣同士を繋げるという作業が必要になる。この繋がっている部分を魔力が通るのだが、その通り道を回路と言う。
そして、この作業をする時、相反する属性(火と水、光と闇)の魔法陣同士を繋げてしまうと、互いに打ち消されて効果が発動しなくなる。そのため、魔法陣の位置と回路を組み換えて、魔法効果が打ち消されるのを防いだのだ。(乾電池の直列回路で、片方の電池が火属性で、もう片方の電池が水属性だった時、お互いがお互いの電力が打ち消し合ってしまう様な感じだ)
それに加え、複数の魔法陣を重ね合わせて一つの魔法陣とすることで、消費する魔力が上がる代わりに出力を上げて、しっかり魔法が発動するようにしたのだ。(乾電池でいう並列回路の様なものである)