転生
処女作です。お手柔らかにお願いします。
俺はただのしがないサラリーマンだ。今年で二十五歳になる。
高校の時にあまり将来について考えず、なんとなくで大学に行き、なんとなくで、とある有名企業に就職した。
もともと頭は良かったため、それなりの勉強しかしていなかったのにも関わらず採用されたのは、ラッキーだったと言う他ない。
俺の生活自体は悪くない。裕福とは言えないが、少なくとも貧乏ではない。
だが生きがいが何もない。仕事にやりがいを感じたこともない。
趣味は小説を読むことだ。仕事帰りに本屋に寄って本を買って帰ったり、最近ではウェブ小説なんかも読んでいる。
ただ仕事をして、給料を貰うだけの日々。
こんな毎日はもう嫌だ。やはり学生時代に、自分の夢とかを作っておいた方がよかった。
だが、何を思おうともう遅い。そんなことはわかっている。もうこの道に進んでしまったのだから。
今日は上司にこっぴどく怒られた。家に帰る気力すらも出てこない。
ボーっとしながら帰り道を歩いていると、こちらを眺めている黒猫を見かけた。
黒猫と俺は目を合わせる。何秒か見つめあったあと、黒猫は振り返って歩き始めた。
その姿がまるで、俺について来いと言っているようで、俺は少し気になり、その猫について行くことにした。
一体この猫はどこから来て、どこに帰るんだろうか? もしかしたら、帰る場所がないのかもしれない。 俺の心と同じように……
この猫についてきて、どのくらいの時間が経っただろう? 何も考えずに淡々とついてきたから、よく覚えていない。
黒猫は何もないところに座り込んだ。
それと同時に俺の足も止まる。
トラックが一台、こちらの方に向かってくるのが見える。
トラックとすれ違う寸前、道路脇で座り込んで動かなかった猫が、いきなりトラックの方に走り出した。
危ない!!
俺の体は、考える前にすでに動いていた。
トラックの前に出て、黒猫を抱きかかえる。
そういえば俺は、昔から動物が好きだったな…… って、なんで今思い出すんだ。もう少し前だったら、就職先を変えていたかもしれないのに……
ものすごい衝撃が、俺の身体を強く打った。
激痛が走る。
それと同時に浮遊感を感じた。
視界が次々に入れ替わる。
ドシャッ!
…… 地面にぶつかったようだ。
体の感覚が感じられない。痛みもなくなった。
だんだん意識が遠のいていくのがわかる。同時に、急激に寒くなってきた。おそらく、出血多量のせいだろう。
俺にぶつかったトラックは今、目の前でクラクションを鳴らし続けている。
俺にぶつかった後に、コンクリート壁に思いっきり衝突したから、運転手がハンドルにかぶさる形で気絶しているのだろう。
俺の腕の中から黒猫が出てくる。どうやら生きているようだ。
助けられて良かった……
そのまま俺の意識は暗転した。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「えーと、はじめまして女神と申します」
今、俺の目の前には女神と名乗る少女がいる。薄い羽衣の様なものを身につけている少女だ。
だが、それ以外の事がわからない。いや、わからないのは初めて会ったから当然なのだが、なんと言えば良いのだろうか? 全体の輪郭が掴めない様な感じだ。顔や体がぼやけて見える。
「あの、あまり無視しないでいただけるとありがたいのですが……」
「申し訳ない。ただいきなり女神と言われても、どういうことなのか、よくわからん……」
「それもそうでしょうね、今から説明します。ええとですね……」
どうやらここは女神の精神世界的なところらしい。俺の魂が輪廻に帰る前に、呼び止めたとかなんとか。
詳しいことはよくわからなかった。話す内容があまりに現実とかけ離れていて、理解ができなかったのだ。
「それで、なんで俺はこんな所に呼び止められたんだ?」
「神域をこんな所呼ばわりって、なかなかひどいですね……」
すぐに答えを出さない女神に、俺は苛立つ。
もし俺が、会社でこんなくだらないことを言ったとしたら、きっと上司に嫌味を言われるだろう。
「知らん、それよりも、質問に答えろ」
「はぁ…… まあいいです。えーと、あなたには、今まで生きていた世界とは、別の世界で生きてきてほしいんですよ!
簡単に言えば転生ですね!
安心してください! 男の子の夢と希望の詰まったファンタジーな世界ですよ! もちろん魔法もあります!」
どうやら異世界に行って来いって事らしい。
しかもファンタジー、剣と魔法の世界ってやつだろうか?
なにか、どこかの小説で見たような内容だ。確かに男のロマンと言えるだろう。
それにこれは、人生をやり直すいい機会じゃないか!
俺は、だんだんと自分のテンションが上がっていくのを感じた。
「へぇ、やっぱり中世ヨーロッパ的なところか?」
「もちろんです!」
「なるほど。ところで、なんで俺は転生できるんだ?」
「それはなんと言いますか…… あちらに適応できる人だから?」
「どうして疑問形なんだ? まあいい、さっさと転生させてくれ」
「その前にある程度生まれや、魔法適正なんかも決められますよ」
どうやらプレゼントを貰えるらしい。
特に生まれを決められるのはありがたいな。貧しい農村暮らしは嫌だからな。
「それじゃあ、生まれは貴族で頼む。いないなんてことはないよな?」
「ええ、もちろんいますよ」
「なら貴族で。
魔法は回復とか防御系を中心にしてくれ。できれば、武術のセンスなんかも欲しい」
今までに戦闘経験なんてないからな。魔法の火力押しで戦って、攻撃をくらってすぐ死ぬなんてごめんだ。
火力の方は武器を使えば補えるだろう。あくまで予想でしかないが。
「なるほどなるほど。ではそのようにしておきますね!
それ以外はランダムで決まりますが、よろしいですか?」
「魔力が無いなんてことにはならないだろうな?」
「それは問題ありませんよ。あちらの世界の人間には、必ず魔力がありますからね」
「そうか。なら大丈夫だ」
貴族生まれなら、戦わずに一生を過ごせるかもしれないしな。莫大な魔力なんて、いらないだろう。
なるべく戦わずに生きていけるのなら、それが一番いい。
「ちなみに、あちらの世界の言語は全て統一されています。なので、一つだけ覚えてくだされば生きていけますよ」
「翻訳的なものはないのか?」
「つけてもいいのですが、あまり加護を与えすぎてしまいますと、運命が狂って大変な事になりますよ?」
「…… そういうことは先に言え」
あまり欲張ると早死にしそうだな。自重しておこう。
さっきも言ったが、死ぬのはごめんだ。
「さて、他に何か質問はありますか?」
「いや、特にない」
「わかりました。では、新しい人生を楽しんでくださいね!」
女神にそう言われた瞬間、俺の意識は闇に溶けていった。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
《魔法》
魔法とは、この世界の魔石を持った生物が使える力である。自分の魔力をその空間にいる精霊に与えることにより、精霊の力を借りて発動することができる。
魔法には、初級、中級、上級、最上級の四つのランクがある。
そして、魔法の属性は五つ、〈火〉、〈水〉、〈風〉の自然の属性に、〈光〉と〈闇〉の特殊属性。自然の属性を持っている者が多く、特殊属性を持っている者は極端に少ない。
他にも、〈火〉と〈風〉を合わせて〈雷〉の魔法ができたり、〈水〉と〈風〉を合わせて〈氷〉の魔法ができる。
この二つは努力と才能が必要なので、使い手も少ない。だが、その分威力は高い。