勇者辞めました。
『野良勇者拾いました。』の勇者サイドです。
相変わらず勇者要素が無いです。
※勇者であるシュンがちょっとゲスいです。
現実は小説より奇なり。
よく聞く言葉だが、まさか自分がテンプレラノベの展開に巻き込まれるとは思いもしなかった。
僕こと継森俊は、何処にでもいる普通の高校生だった。
ただ、ちょっとばかし頭が良かったので、県内一の進学校へ通っていた。
進学校とはいっても、勉強ばかりしているガリ勉ばかりではなく、適度に遊んでいる奴らも結構いた。僕もその一人で、勉学に励みつつ趣味や恋愛など青春を謳歌していた。
そんな僕が馬鹿げたラノベ展開に巻き込まれたのは、高校三年の時。
同じクラスの綾木みくると共に、異世界の聖ラクファール王国とやらに召喚されたのだ。
しかも何の変哲もない僕が、伝説の勇者で魔王を倒す為に召喚されたらしい。馬鹿らしくて笑えもしなかった。
しかし、一緒に召喚された綾木は僕とは違い、救世の聖女とやらの自分に酔っていた。日本にいる時は清楚で可愛いとクラスで人気だったが、中々にイタイ性格だったようだ。
因みに僕は、綾木は全くタイプじゃなかったので、ブリブリされてもムカつくだけだったが、周りの人間はそうではなかったらしく、男連中はほぼ彼女に骨抜きにされていた。
僕は自分で言うとちょっと悲しいのだが、極めて凡庸な顔立ちをしている。クラスに二、三人くらいいそうな顔立ちだ。女子からは『イケメンじゃないけど、優しそうな顔』とか言われる。褒め言葉なのかは不明だが。
対してこの聖ラクファール王国の国民は、地球で言うと欧米人の顔立ちが近い。しかも美形率が高い。ハリウッド俳優が霞んでしまいそうなレベルの美形が多い。
周りが美形だらけの所為もあって、僕のこの典型的な日本人顔は珍しがられた。因みに綾木は日本人にしては目鼻立ちがはっきりしており、ハーフ顔だと男共に人気だったので、僕ほどは注目されなかった。
……まぁ、この国じゃ珍しい日本人顔のお陰で、世話になっていた王城に勤めていたメイドたちに人気で、ワンナイトラブしたりして結構オイシイ思いはしていた。巨乳のメイドって素晴らしい。
実は、召喚されて直ぐに魔王討伐の旅に出た訳ではなく、剣術や魔術などを使いこなす為の訓練を数ヶ月受けた。
幸い僕は小さい頃から武道を嗜んでおり、剣道や居合いなどの経験もあって、剣術訓練はスムーズに済んだ。魔術の方も地球でいう化学に近いものがあり、思いの外すんなりとマスターすることが出来た。多分勇者補整もあったんだと思う。
綾木の方は、世界唯一の浄化の能力持ちで、魔術訓練はクリアしていたが、華奢な身体付きな上に運動が苦手らしく、剣術訓練は免除されていた。いざというときの為に護身術程度は習うべきだと言ったのだが、骨抜きにされた男共が『自分たちが守るから必要ない』と、綾木に甘ったるく囁いていた。綾木も美形たちにチヤホヤされて、うっとりと表情を蕩けさせていた。……キモッ。
この時もなんやかんや不快な思いはしたが、直接自分に被害がなかったので平穏に過ごしていた。
僕としては早く済ませて元の世界に戻りたかった。第一、自分に縁もゆかりもない世界を救う義理などないし、召喚と厳かに言っているが、要は拉致された訳で召喚した奴らは犯罪者だ。
腹立たしいが、討伐に行かないと元の世界に戻さないと脅されたので渋々従っている。
綾木は完全に自分の設定に酔っており、元の世界に戻りたいとは言わない。日本にいた時には気付かなかったが、かなり夢見がちな奴だったようだ。中二病ってヤツの一つかもしれない。
そして出立数日前に、僕と綾木に付いてくるメンバーを紹介されたのだが、まぁ騎士から魔術師に至るまで皆がみんな美形の男だった。……この時点で僕のテンションは駄々下がり。反対に綾木は『逆ハーレムよ!!』とテンション上げ上げだった。一人くらい巨乳の色っぽい魔女をメンバーに入れとけよ。
綾木と美形の取り巻きwith僕なパーティーメンバーで、魔王討伐へ出立した。行く先々に魔王の僕である魔獣が行く手を阻んだが、取り巻きと僕の剣術で倒していった。因みに僕の魔術は桁違いの威力があり、それこそ一つの詠唱で、町一つが消滅するレベルなのだ。だから、メンバーに魔術は禁止されていた。折角覚えたのだから使いたかったのに、残念だ。
魔獣より厄介なのは、魔王が出現した所為で、大陸の所々で病原菌の素である瘴気が蔓延しており、体力の無い者から次々に亡くなっていた事だ。
瘴気を浄化出来るのは、聖女である綾木だけなのだが、コイツはそれを逆手にとってワガママ放題だった。
兎に角、気が乗らないと浄化しないし、ちょっと疲れるとすぐ浄化を止める。そのくせイベントや自分の目立つ事なんかには積極的に参加する。
『疲れたぁ~帰るぅ~』と言う度に絶望する国民の顔など、コイツには映らないのだろう。
ある日、あんまりにワガママ過ぎるので、綾木にかなりきつく注意をした。
「お前の所為で中々進まない。真面目にやれよ」
そう言った僕をチラリと一瞥した綾木は、染めた栗色の髪の毛先を弄りつつ、不貞腐れた顔をする。
「継森くんにはわかんないだろうけどぉ、浄化ってすっごく疲れるのぉ~。それに他のみんなは無理しないでって言ってくれるしぃ~」
甘ったれた語尾を伸ばす物言いに、物凄く苛ついた。
「黙れクソビッチが。誰もお前に文句言わないのは、お前のその貧相な身体で誑かしているからだろうが」
今まで我慢していただけに、つい口に出てしまった。
まぁ、間違いではなく、本当の事だった。
僕は凡庸な顔立ちだったから面食いな綾木のタイプでは無かったし、僕も綾木のようなダイエットし過ぎなガリガリな女はタイプじゃなかったので何もなかったが、恐らくパーティメンバーの男共……多分全員と身体の関係があった。頻繁に綾木の泊まっている部屋からはあられもない喘ぎ声が聞こえていた。もう少し音量落とせよ。
その事をオブラートに包まずダイレクトに伝えたら、いきなり泣き真似をした綾木が、自分の取り巻きに有ること無いことを訴えた。……誰がお前みたいな貧相な身体のビッチに欲情するかよ!!
綾木に洗脳でもされているのか、男共は僕の意見に聞く耳を持たず、寄って集ってリンチをした。何せこの世界のトップクラスの武人や魔術師だ。いくら勇者と言われる僕だって、そんな奴ら複数を相手出来ない。ただ防御魔法を張るだけで精一杯だった。
僕がリンチされてる様をニヤニヤと見ていた綾木を、こうなるなら一発くらい殴っておけば良かった。
……そして僕は、王様から貰った剣やアイテムを奪われ、気を失ってる間に森に捨てられた。
そこから五日間、地獄だった。
僕は典型的な都会育ちの現代っ子だったので、サバイバルの知識はあっても実行には移せない。
狩りも出来ないし、仮に獲物が取れても捌けない。何が食べれて何が毒なのかも解らない。何より虫が嫌いだった。
虫や獣に怯えて、眠れないし落ち着かないので、身体が休まらず疲労が蓄積されていく。
漸く食べれる果物を見つけて、それで餓えを凌いでいたが、育ち盛りの高校生男子が果物だけで生きていける訳でもなく……。
―――五日目に倒れた。
ムカつく綾木やその取り巻き共を呪いながら、静かに死を待っていたら、地面に降り積もった枯れ葉を踏む音が聞こえた。
「あの~大丈夫ですか?」
この時、僕は天使に出会ったのだ。
天使ことシュナさんは、この付近に住む森の一族の少女だった。
藁色の髪に若草色の瞳。おっとりとした可愛い顔立ちで、ちょっとタレ目な所が色っぽい。
ちょっとぽっちゃりしてて抱き心地良さそうだし……何より、はち切れんばかりの胸元が最高だった。僕はおっぱい星人だった。
シュナさんがぱたぱたと動く度に、たゆんたゆんと揺れる柔らかそうなおっぱい。
……ぶっちゃけムカつく綾木共の事なんてどうでも良くなるくらい、魅惑的な光景だった。
綾木のきつめの顔立ちばかり見ていたので、シュナさんのおっとりとした柔らかな顔立ちは、僕の荒んだ心を癒やしてくれた。
性格もおおらかで優しい。しかも料理上手だ。
……僕はシュナさんに一目惚れしていた。こんなに好みな女の子に出会ったのは初めてだった。
恋に浮かれた僕は現金なもので、シュナさんと出会える切欠を作った綾木たちに感謝すらした。
シュナさんはおっとりとした顔立ちに似合わず、狩猟がとても上手で、僕は躊躇ってしまう獣の解体も素早く済ませる。
僕は驚いたが、どうやらシュナさんたち森の一族は当たり前の事らしい。
……熊さえ倒せるシュナさんに、僕はちょっとビビってしまった。
シュナさんと出会って、綾木たちに完全に愛想が尽きた僕は、何とかシュナさんとどうにかなりたくて、彼女の家に強引に居候した。
てか、シュナさん。異性と一つ屋根の下に暮らすのに、もっと警戒心持ちなよ……まぁ、警戒心ないお陰で一緒に暮らせるんだけどね。
やはりと言うか、シュナさんは一族の男に人気だった。当たり前だ、こんなに優しくて可愛い女の子が近くにいたら惚れないはずがない。
突然現れた不審な僕に、一族の人たちは警戒していた。 まぁ、当たり前だ。シュナさんがおおらか過ぎるのだ。
僕はシュナさんの仕事を手伝いつつ、祖父母が農業をしていたので、教わった知識を惜し気もなく一族のみんなに伝えた。
手先が器用な上に元々何かを作るのが好きな僕は、動物の皮や骨を加工したりして、それを近くの町で売ると結構なお金になった。
骨に劣化防止になる樹液を塗り込みながら磨いて艶を出して、色んな形に削ったり模様を彫ったりすると、髪止めやブローチ、万年筆の柄などの装飾品になる。
何回か売りに出したら、貴族や豪商の奥方や令嬢に贔屓にされた。
女性には骨を使った装飾品が人気だったが、男性には獣の皮を使った革製品が人気だった。
鞣した皮を縫い合わせ、ベルトや鞄などを作った。骨を加工するよりも革製品を扱う方が、僕は得意だった。
その利益を一族みんなに反映させ、ゆっくりと信用を得て行った。
シュナさんとも周りの恋敵を牽制しつつ、関係を深めて行った。
両親を瘴気が原因の流行病で亡くしたと聞いた時、ワガママ放題で中々浄化しなかった綾木に、今までにないくらい憤りを感じた。
非情なその現実を静かに受け止めるしかないシュナさんを、抱き締めてしまった事に後悔はない。
彼女を幸せにしたい。
それが、僕の願いとなった。
……シュナさんは、僕のスキンシップが嫌ではないみたいだ。
初めて抱き締めてから、度々彼女に触れているのだが、嫌がられた事がない。
昨晩ついに、シュナさんの柔らかい唇に接吻たのだが、抵抗されなかった。……いや、寧ろ求められたような……。
舌を入れたかなりディープなキスだったんだが、くぐもった可愛い声を漏らすのでかなり興奮してしまい、身体もまさぐったのだが。
……やはりシュナさんのおっぱいは最高の揉み心地だった。
昨晩の想い人の可愛らしい仕草に、鼻の下が伸びそうになる。
ふと、あれだけ早く元の世界にもどりたかったのに、今はシュナさんとずっと一緒にいたいと思っている。
元の世界には、家族や友達など大切なものが沢山ある。
―――だけど、シュナさんは何処にもいない。
……僕の中では答えは出ていた。
この世界で、彼女と一緒に生きたい―――と。
「シュナさん」
夕飯の後、二人でテーブルを挟んで向き合っている時に、僕は彼女に告白をした。
「僕はシュナさんが好きです。優しくて芯の強い貴女を愛しています。……僕は貴女とずっと一緒にいたいと思っています」
僕の告白に、若草色の瞳を丸く見開いて驚いたシュナさんは、ぱっと頬を染めて僕を見る。柔らかい唇を何度もパクパクと動かして、必死に言葉を探している。その仕草がとても愛おしかった。
「で、でも、シュンさまは、元の世界に戻りたいとおっしゃってたと思うんですが……」
あたふたと狼狽えながら言うシュナさんに、そう言えば会った当初そんか話をしていた事を思い出した。彼女と一族の皆と暮らす日々が楽しくて、すっかり忘れていた。
「戻りたかったのは本当だよ……元の世界には両親や兄弟、友人たちもいるし、折角勉強を頑張っていたのに、見ず知らずの世界に来て無駄にするのも悔しかった」
「それなら、今からでも王国に戻って、魔導師さまに元の世界に戻して頂いたらいいのではないですか?聖女さまがこちらに居るのなら、魔王は倒せると言えば……戻してもらえると思いますよ?」
「うん。仲間に裏切られたと訴えたら、無理に合流しろとは言われないだろうし、脅し……ゴホン!!願えば元の世界に戻れるだろうね」
僕の言葉に、落胆と寂しさで若草色を翳らした瞳が揺れる。
彼女が僕と離れる事に、寂しさを感じてくれていると、ありありと解る表情をしていた。
「でもね、元の世界にシュナさんは居ないでしょ?僕はそれに耐えられない」
育ててくれた両親や、一緒に馬鹿やってた友人らには悪いが、彼らとシュナさんを天秤に掛けたら……シュナさんに傾いた。
最初は単に好みな女の子だった。だけど今は、内に寂しさを抱えても尚強く在ろうとする姿に、側にいて支えてあげたいと……出来れば少しでも寂しさを紛らわせるような存在になりたいと思うようになった。
まさか自分が十代で人生の伴侶を選ぶとは、元の世界では考えられない事だったけど、不思議としっくりとする答えだった。
「シュンさまは……私と一緒にいたいと思ってくれるのですか?」
顔を真っ赤にして瞳を潤ませるシュナさん。僕は椅子から立ち上がり、彼女の側に跪いて手を取った。
「こんな事言っちゃうと、シュナさん怒ると思うけど、魔王討伐放り出して勇者辞めるくらい、僕は貴女を愛しているよ」
「私も、勇者なんて凄い肩書きの持ち主なのに決して驕らない、虫が嫌いでちょっといやらしい貴方が大好きです」
「……神に感謝するくらい嬉しいけど、ちょっと複雑だなぁ……」
泣きながら笑うシュナさんにキスをしながら、虫嫌いは克服しないといけないと思った。
こうして僕はこの世界に留まる事を選択した。
因みに僕が抜けた魔王討伐パーティーは、数年掛けて無事に討伐に成功した。その後、聖女であった綾木が元の世界に戻ったかは知らない。
僕はというと、一族の皆に日本の農業のノウハウを教えながら、子どもたちに勉強を教えたりした。
相変わらず虫が嫌いなままだけど、最愛の妻と可愛い娘と共に幸せに暮らしている。
『野良勇者拾いました。』の方で、シュナが気付かない内に結婚してたみたいな描写をしてたんですが、流石に俊が酷いと思ってプロポーズさせました。
俊は私の話の中でも、一番の肉食系男子です。据え膳は遠慮なく頂きます。紳士性ゼロです(笑)
捕足人物紹介
継森俊
進学校に通う高校三年生。
容姿は普通だが、スペックは高い。そのお陰でかなりモテていた。
スクールカースト上位のリア充。彼女がいたこともある。割と手が早い肉食系。メイドに手を出していた事は、シュナには内緒。
勇者を辞めたけれど、近隣の町で魔物が現れたら倒しに行っていた。因みに激強だった。
シュナ
森の一族の少女。森で俊を助ける。
両親を早くに亡くし一人暮らしをしていたが、俊と(半ば強引に)暮らすようになり、彼を意識するようになる。本人には自覚なし。
しっかりしてるように見えるが、割と流されやすく、好意もあったけど俊のセクハラを受け入れていたのもその所為。
俊は知らないが、町でも一族のなかでもモテているので、よくヤキモチを妬いている。
綾木みくる(18)
俊のクラスメイト。栗色の髪に茶色の目のハーフ系の美少女。俊と共に聖女として異世界に召喚される。
スクールカースト上位のリア充だが、実は隠れオタク。乙女ゲームや夢小説が大好きで、異世界トリップに直ぐに順応したのもこのお陰。
性格はワガママで性に奔放。普段は清楚な仮面を被っている所謂清楚系ビッチ。
因みに俊を追い出した後、暫くイチャイチャ逆ハーレムを楽しんでいたが、段々ワガママがエスカレートしていき仲間に注意されるようになるが、全く改心する事がなかったので、魔王討伐後に皆離れて行った。挙げ句の果て誰にも引き止められないまま元の世界に戻った。
俊やみくる以外のパーティー メンバー
大陸にある国々から集められた精鋭。因みに五人いました。
魔王討伐の旅の途中に改心して、討伐後に俊を探し出して謝罪した。その時に俊に一発ずつ殴られる。