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私が入部した部活は超絶めんどくさい部活でした。  作者: 橘葵
一年生後期  全く訳が分からない
5/9

4  鬱陶しい先生と校内戦

 「全く意味がわからないよ!せっかくいいの決まった時に限って寝るなんてさ」

 「ほんまに―。なんでこんな時に限って寝てんのよー」


 まあ、何はともあれもう一度デュース。

 ののにとても感謝した。

 先生は救いようがないんだけども、ね。


 そして、もう一度コートに入る。こんどは私はしっかりとボールをとらえ、レシーブでポイントを取ることができた。


「よっしゃラッキー、でかいわー……」


 どうしても尻すぼみになってしまうのは仕方ないと思いたい。

 そりゃそうだ。だってさ、先輩に向かってそんな大声で言うことなんて無理に決まってるでしょ。言った時の先輩の冷ややかな目線、すごい怖いし。


 まあ、そんな感じでアドバンテージを取り、私たちはコートにまた入る。


「アドバンテージ、レシーバー」


 このコールは、ふつうは審判がするものなのだが、校内戦の時はあんまり審判をつけることがないので、レシーバー側の前衛がいうことになっている。

たまに私は間違えて言ってしまうこともあるんだけど。まあその辺はなあなあでも仕方がないかな。


 そんなことを考えていたら、いつの間にかゲームが終わっていた。

どうやら先輩のファーストを、ののが前衛を抜いたらしい。だからだろうか。ののは先輩の注目を浴びていた。


 ……私だって、練習すりゃあれぐらいできるようになるし。

ちょっと嫉妬の感情が芽生えてしまった。

 というよりも、いい加減先生起きてもらいたい。寝るくらいやったら午前だけで練習を終わらせてほしい。


 まあ何はともあれ二ゲーム目が終わり、チェンジサービスだ。

先輩がボールを送ってくれたので、私はそれを受け取り、サーブに備える。

何回か素振りをした後、私はコートに立った。


「ゲームカウント、1-1」


 私は、いつものお決まり、ボールを数回ついてからサーブを打つ。

これをしないと、気持ちが落ち着かないからかフォルトが多くなてしまうので、絶対にしておきたいことだ。


 バシッといい音がしたが、あとボール一つ分のところでネットにかかる。


「ドンマイ、次入るよー」


 ののは私に向かって声かけをしてくれる。

これは私にとってかなりの心の支えになっているので、とてもありがたい。

だから、私はそれに応えてあげないといけないのだが――


「入るよー」


 そういってから私はボールを打つ。

しかし、それはあと少し、またもやボール一個のところでネットだ。

 無慈悲に鳴る、白帯のパシッとした乾いた音。

ダブルフォルトを、私ははっきりと自覚してしまった。

まあ、怒ってしまったことは仕方がない。私はののに謝ろうとして近寄った。

その時。


「澤田!おまえダブルフォルトしてたら試合にならんだろうが!」


 背後から怒鳴り声が聞こえてきた……?!

それは間違いなく先生の声で。


 さっきまで寝ていた先生が、起きてしまったのだった。


「あ、すみません……」


 私は、少し下を向いて先生に向かって言う。

先生は、あきれた顔で私を見ていた。


「てかさー、なんで先生って私たちがミスった時に限って起きるんやろー」


 私は、小声でののに向かっていった。

ののはまた小声で返してきた。


「なんでやろねー。なんかそういうセンサーみたいなんがあるんかなー」

「それやったらすごい迷惑な話やな」

「ほんまになー」


 先生は本当に謎。成功したときは褒めてくれるけど、第一成功した瞬間をあまり先生は見ていない。

それこそ、さっきの先生が寝ていた時のように。

 なのに、なんでだか知らないけどミスをした瞬間はいつも見られている。

それは、思い込みではなくて、一年生、そして先輩もみんな言っていることだ。


 ミスをしても、笑って励ましてくれる先生ならいいのだが、あいにく私たちの先生はすぐに怒鳴る。けなす。

そのせいでやる気をなくす人もいる位に結構ひどい。


 ただ、切り替えていかないとすぐに負けてしまうので、私はさっき言われたことはいったん忘れることにした。


「入るよ、ファースト―」


 二人の声が、そろった気がした。


 私はさっきのファーストと同じくらいの強さだが、少しだけ打点を上げて打つ。

そうしたら、ちょうど先輩のバック側に落ち、サーブで決まった。

要はサービスエースというやつだ。


 私たちはそそくさとコートからのき、先輩の試合を観察する。


「やっぱり先輩ってすごいよなー。ラリーとかすごい続くし」

「どうやったらあんなに打てるようになるんやろうね」

「まあ、それは練習じゃない?先輩とかよくラリーしてるし」

「ののももっと打てるようにならないと加奈に迷惑かけちゃうから、もっと頑張る」

「いやいや、私ももっと打てるようにならんと。ミスすごい多いし」


 と、毎回のように交わされる会話。

先輩はやっぱり憧れの存在だ。テニスはすっごいうまいし、優しいし。

だからこそ、先輩には敬意を払うべきだろうし、なかなか先輩に向かって声出しをすることができない。


 先生と私たちの心の中は全然違うんだなっていつもこういう時に思う。

まあ、ちょっとほかの人に聞かれたら恥ずかしいから声出ししないってこともあったりするんですがね。


 「よっしゃラッキー、でかいわー」


 どうやら一ポイント終わったらしい。

 今回の試合はやけに長いなと思い、私は時計を見る。

一時二十五分、試合が始まったのが一時だったから、別にいつも通りだ。

 なんでこんなに長く感じるんだろう……


 ののはいつもの調子でサーブを打ち、二本とも入る。

要は、ただ突っ立てるだけで二点が入ったことに。


 私って、存在意義あるんかな……サーブもののより下手だし。

ただ、やはり先生の目線がなかなか感じられない。


 どうしてだろうかと私はあたりをぐるっと見渡した。

 その時、ののが私の横に駆け寄ってきた。


「加奈、今日どうしたん?やけにいつもと様子違うけど」

「なんか先生の目線が感じられないんよね。いつもはずっと見てるような気がするんやけど」

「確かに思った」


 と言いながらも、目線はずっとののからは外している。

先生の姿が見当たらないなと思っていたら、まさかのところにいた。


「あ……先生あそこにいる」

「ほんまやー。てかまた日陰?ほんまに鬱陶しいんやけどなんでよ」


 いつも先生が出てくるドアの前、少し高くなっているとこ。屋根があって日陰になっているところに先生はどっかりと椅子に腰かけていた。

先生は日陰を好んで移動するらしい。というより、日陰にいたらたいてい寝ているからちょっと鬱陶しい。


「まあ先生もご老体やならな。体には気を付けないとって思ってるんちゃう?」

「だからと言って寝るのはどうかと思うけどね……」

「まあせやな」


 と、いつものように交わされる会話。

そうしてコートがあいたので、私はいつものポジションにつく。


「入るよ、ファースト―」


私はサーブを打った。

しかし、今度もまた入らない。セカンドサーブを絶対に入れないと……

ちょっと緊張して、心臓が脈打つ。


 ただ、さっきのケースが特殊だっただけだ。私は普通にサーブを入れ、返球を待つ。


先輩はショットを打ってくると思われたが、どうやらカウントで負けているからか安全にロブで返してきた。


 しかし、ロブといえば、私が得意としているショットのチャンスだ。

しかも見事に前衛のサイドがあいている。

普通はそこを警戒して、前衛の頭上を越して返した方がいいのだが――


 私はそれを逆手にとって、ごく普通に前衛を抜いた……のかもしれない。

ぱん、と小気味いい音がラケットから響く。

見事に私は前衛抜きを成功させた。


 ていうよりも、先輩の前衛の動きなんて気にしてる余裕なんてないんですけどー。

と、私がそう考えた瞬間、コート外から先生が、


「おおー澤田。今の狙ったか?」

「……あ、はい。」

「今のボール、よかったぞ」

「あ、ありがとうございます」


 と、小声で返した。


 不意打ちで言われるから、私はいつもビックリする。

というよりも、期待してるときに限って先生は寝てるから、ビックリする、不意打ちというよりも全然予測不可能。期待外れという時もよくある。


 まあ、そんな感じで三ゲーム目も終わり、次は四ゲーム目だ。

 次のゲームで決着がつけられなかったらファイナルゲームだ。

ファイナルゲームは、七ポイントで決着なので、ふつうのゲームより長かったりするのでとてもめんどくさい。

 だから、私はこの四ゲーム目で決着をつけたいと思う。

まあ、次は私が得意とするレシーブだ。よっぽどのことがない限り落しはしない。先輩相手だけど。





 結果は予想できるだろう。

 ゲームカウント3-1、私たちの勝ちだ。

先輩の、私たちを怖がる声がやけに気になった。








 




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