3 校内戦
この話は、テニスで主に使われている用語が多数含まれているので、何言ってんのかわからねーってなると思います。
出来るだけ説明も挟むようにしていますが、慣れていってほしいです
「今日も校内戦します。この結果でも番手を変えたりするので、真剣にするように。」
と、先生が言った。
まあ、予想通りだよね。というより、今までの全日練で午後が校内戦じゃなかった日なんて一度もない。
校内戦は、練習の時みたいにきつくないけど、その代わりだれるから先生が怒りっぽくなる。
別に、普通の練習だけしていても飽きるだけだから結局先生は怒ると思うけど。
「じゃあ、このホワイトボードを見て行動するように。」
「「お願いします。」」
いつものように声を合わせて返事をした。
この返事をしないと、先生が本気で怒ってしまう。だからかどうか全く分からないが、私たちは指示を受け、行動に移るときには必ずこう言うようにしている。
「んで、今日は十番手の先輩か。んじゃ、がんばろ。」
私はペアの、ののに駆け寄って行き、そう言うと、相手の先輩を探すために辺りを見回した。
どうやら先輩はホワイトボードの前に立っているようだ。
私たちは先輩に声をかけ、トスを申し込む。
トスは、中学校ではまず前衛がじゃんけんをして、勝ったほうが表か裏が決められる。
そして、負けたほうがラケットを回して、あてたほうがサーブかレシーブ、もしくはコートを選ぶ事ができる。
勝っても負けても実力で勝負できるようにされているのは、さすがスポーツの世界だ、というところだろう。
「じゃーんけーん、ぽん。」
ののはパーを出し、先輩はグーを出した。
私たちの勝ちなので、表か裏を決める。
「じゃあ、表お願いします。」
ののが、私に目配せをしてから、先輩に向かってそう言った。
そして、先輩がラケットを回す。結果は表、私たちが決められる。
「サーブお願いします。」
「レシーブお願いします。」
私たちは迷うことなくサーブを選んだ。
まあ、この学校はサーブに力を入れているから、トスに勝ったらサーブ権を取るほうが一ゲーム目は有利に進められる。だからか、皆トスに勝ったらサーブを選ぶんだけど……
私はサーブが超絶苦手なんです―。しかも後衛だから一番最初にサーブしないといけないんですけどー。
まあ、そんな事思っても、ペアの、ののはとてもサーブがうまくて、入れば点を決められる事が多い。
ののを考えると、普通にサーブ権はとっといたほうが無難、といったところだろう。
「コートは……手前お願いします。」
「奥お願いします。」
「「お願いします。」」
先輩がコートを選んだので、私たちはそれに続ける。
これで試合前のトスは終わり、試合開始だ。
「ファイブゲームマッチ、プレイ」
と、レシーバーの先輩がコールする。
「入るよファーストー、先リード」
「はーい、入るよー」
私たちは、サーバーがサーブを打つ前にこのような掛け声をかけないといけない。
前に声だしをしていなかったら、先生にもっと声だししろとこっぴどく叱られたので、まあしておくほうが無難だろう。
別に、校内戦でそこまで本気になる必要なんてないんだけどな……
私はそう思いながらも、ボールを二、三度ついて、サーブを打つ。
ポーン、と小気味いい音が鳴り、見事にサービスコートに入った。
そうしてから、先輩がレシーブを返す。
ファーストサーブが入ったので、少しボールがゆるめだ。
その機を狙って、私は後衛の先輩の足元を狙って思いっきり打ち込んだ。
これで決まらないかもしれないが、決まらなくてもののがうまい事決めてくれるだろう。
先輩が、焦って打ち返し、そのボールは予想通りののの前へ。
そのボールをしっかりと相手のいない所に叩きつけ――
「よーしゃラッキー、でかいわー。」
と、私たちは小声で言った。
本当はもっと大声で、叫ぶように言わないと行けないらしい。
だけど……だけど、無理でしょ!先輩に向かってこんな事言うなんて。心臓がはち切れるほど緊張するわ。
「今のボレーめっちゃ良かった。ありがと。」
「ううん。まだまだうまい事叩けてないから……」
「えーでも、すごいいいコースやったのに。」
と、私たちはコートの外で今のポイントの感想を言う。
試合は二試合同時形式で進めているので、もう一試合している時は少し休憩できる。
先輩たちの試合が一ポイント終わったので、再び私たちの試合の番だ。
「入るよ、ファーストー」
私がそう言って、ラケットを振る。
今度はさっきのようにうまく入らず、ボールはネットへ。今度はセカンドサーブだ。
セカンドサーブは、確実に入れないと行けないので、とても緊張する。
私たちが入部したての時に、セカンドサーブが入らないと試合にならないから絶対に入れること。
と耳にタコができるほど言っていたのを、今でもはっきりと覚えている。
今度も、普通にコートの中に落ち、先輩がレシーブする。
今度はサーブがゆるかったので打ち込まれる可能性が高い。
パン、ととてもいい音が鳴ったと思ったとき、すでにボールは私の目の前にあった。
「ごめんごめん。さっきのはセカンドの位置が悪かったわ。」
「あー、別にいいよー。次がんばろー。」
……先生は、この時期になったら先輩と互角に試合出来るようになりなさい、とか言ってくるけど、本当に先輩は強い。というより、この時期でもう互角に試合出来ていたら逆に凄いよ。ほんとに。
こんな感じで四ポイント先取の一ゲーム目が終わる。
予想出来るように私たちが一ゲーム目を落とし、コートチェンジをする。
「次はレシーブやね。頑張って返すわ。」
私はそうやってののに言い、コートの中へと入っていった。
「ゲームカウント、1-0」
と、前衛の、ののが言った。
「返すよ、ファーストー」
「はーい、返すよー」
毎度毎度おなじみのこの声だしで、二ゲーム目も始まった。
ボールを打つ音がし、それがまっすぐに私に向かってくる。
そうして、サービスコートに入り、低めに弾む。
それを掬いあげるように私は返した。
私が打ったボールはきれいな弧を描いていき、前衛の先輩の後ろに落ちた。
もしかしたらスマッシュされるかと思ったが、落ちたところはベースライン近く。後衛が取るべきボールだ。それを、先輩がバックハンドで返し、今度は私が左へと引っ張られる。
それで、私はバックハンドで先輩の元へ返そうとしたが――
きれいに校舎の壁へとぶつけていた。
いや、まあそうなるでしょ。これでも一年生の中ではバック打てるほうなんだけど。
先生はフォアと同じくらいの威力で打てるようになりなさいとよく言うけど、普通に考えてバックは打点がまず分からないし、まずフォアのほうが打つ頻度が高いしで全然上達しない。
「やっぱバックは難しいわ。ごめんよ。」
「――」
さっきからののは無表情、もしかしたらミスの多い私にあきれているかもしれない。
本当に、ごめんなさい。
いやね、でもね、後衛のほうが打つ回数も多いし、難しいボールも、速いボールも取らないとで大変なんだな。しかも、後衛のほうが地味だから先生にも褒められないし。まあそこまで言ったら言い訳になるけど。
「返すよ、ファーストー」
「はーい返すよー」
先輩がサーブを打つ。しかし、それはわずかにコートからそれて、フォルトした。
今度はセカンドサーブ、と言ったところなのだが――
先輩は先生にセカンドをカットで打てときつく言われている。
しかし、私たちはなかなかセカンドのカットを返す機会がやってこなくて、練習も何も出来ていない。
カットを返すなんて無理な話ではなかろうか。
そうして、先輩がサーブを打ち、ののは見事に空ぶった。
まあ、仕方ないよね。私でもたまに取れるか、取れないか――位の感じだし、
「ごめん。やっぱりカット取れない。」
「別にいいよー。てかこんな時期でカット取れたら逆に凄いわ」
と、私は気楽に声をかけた。
やっぱり、先輩ってすごいんだなーと思いつつも、私たちはもう一つの、先輩どうしの試合を見ていた。
先輩たちは、さすが、と言ったところだろうか。ロブできれいにボールをつなぎ、どちらかがミスをするまで続ける。私たちは勝手に一本目でミスったりするので、そういう点が大違いだ。
まあ、そろそろその先輩の番手、抜かしそうなんですけどね!
おもに先生のせいで。というよりも、もう私もひとペア、先輩を抜いて、もう十一番手だ。
今やってる試合、普通に負けそうなんですが……
と、私は思っていたら、今度は私たちの番だ。
「返すよー」
と言って、私は入ったファーストサーブを、先輩のいない所へ返す。
それを先輩が何とか取ったが、前衛、ののの元へ。それをしっかりと返し、得点が決まった。
「「よーっしゃラッキー、でかいわー」」
ああ、もうこの声出し嫌い。
同学年どうしで試合してる時は別に何ともないよ。
でもさ、先輩相手にそうやって言うのはちょっと気がひけない?
普通に考えてさ、思いっきり先輩をけなしてる事になるからさ、後で陰口叩かれそうじゃん?
先生はやっぱり女の世界を分かってないなーっていつも思う。
まあ、そんな感じで二ゲーム目。私もちょっと調子に乗ってきたのか好調だ。
というより、私たちの時期だと、後衛がしっかりボールを返せているだけで勝てるので、調子がよかったら普通に勝てると、自分でも思う。
またコートに入り、レシーブ返して、そしてまた入り……
「2-3」
私たちは三回連続で得点をし、ついにマッチポイント。
ここでちゃんと落とさずに得点をすれば、一ゲームは取る事ができる。
そうして、先輩から放たれたファーストサーブを、ののが返したが――
ゆるく弧を描き、ベースラインより外へ出てしまった。
「まあ、ドンマイ。大丈夫大丈夫。」
「ん……ごめん。」
「まあ、今からデュースやし、気楽にいこ。」
「デュース」
私たちは、さっきよりも少し緊張感を持ってラケットを構えた。
まあ、私がミスをするとののに迷惑をかける事になるし、ちょっとはそう感じていないとおかしいんだけど。
しかし、私が返したボールはものの見事に前衛の前へ。
「あー……ごめん。私あんなこと言ったのに」
「あー、大丈夫やで」
「えー……もう何で前衛の頭をうまい事越せへんのやろ。あれができたら普通に勝てるのにさー。」
「まあ、それができたら先生もあんなに苦労しないと思うよ。」
そうして次はのののレシーブの番だ。
ののはしっかりとレシーブを返したが、あいにくにも場所が悪い。このままだと前衛を抜かれてしまう……
と、私が警戒している時だった。
ののが、その前衛を抜くボールをしっかりと捉え、目の前に落とした。
先輩は何が起こったかわからないような顔をして、何かを呟きながらコートを出る。
「今のボール凄かったなー、私やったら絶対取られへんかったからありがと―」
「うん」
ののの返事は少しそっけないが、得意げだ。
まあ、普通はそうなると私も思う。一年生、ましてや先輩でもなかなかお目にかかれない技をしたのだ。
というよりも、もうちょっと自分に自信を持ってもいいんではなかろうか。
いつもなら、こういう事をした時、先生は褒めてくれるのだが、今回はそれがない。
何でだろうねー、と言いながら、私たちは先生のほうを見ると、
「何で寝てんのよあの先生!」
先生は椅子の上で船を漕いでいた。
先生の名前が決まらねぇ……
誰か案を送ってくださいな。
ちなみに、今回の話はまだ続きます。もうちょっとで説明回も終わると思うので、この先品の存在を忘れないでほしいです。