2 どうにもならないような、そんな感じかも。
十月も後半、もうすぐ十一月に入ろうとしているころだった。
朝練が始まる前、わたしは私はいつものように皆と話していた。
その時、先輩の姿を見て、ふと疑問に思ったことがあったので、他の人に向かって呟いた。
「さすがに、これは寒いわ。ウィンドブレーカーがないと死ぬ。」
天気予報では、今季で一番の冷え込みだと言っていた。
先輩はもうほぼ全員がウィンドブレーカーを着用しておりとても温かそうだ。
そんなつぶやきを聞いて、夕美が、
「確かにー。これは先生に言わないと困るよねー。」
と言い、先生の元へと向かっていった。
そうして、少し経った頃優実が戻ってきて言った。
「先生さー。うちらのウィンドブレーカーの事すっかり忘れてたみたい。」
……意味わからん。
何で先生は防寒具の事を知らないのだろうか。
というより、何で気づかなかったのだろうか。
まあ、いつもの事だけど。年食ってるから仕方ないか。
そんな自問自答をしていたら、いつものように声だしから始まる朝練が始まったのだった。
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一週間後の放課後。先生がウィンドブレーカーのカタログをやっと持ってきてくれた。
やっぱり、というか先生絶対忘れてたでしょ。
早く決めないとテスト週間に入ってしまう。そうなると、決めるのが遅れて、テスト明けにいきなり風邪を引く、という洒落にならない事になるかもしれない。
この部活のリーダー格、美空が言った。
「やっぱりユニフォームと会社合わせないと変にならない?」
「確かに、そうやと思う。」
どうやら満場一致らしい。
確かに会社は合わせたほうが無難だろう。
でもさ。それでダサかったらいやでしょ。これから最低でも一年半は使う事になるのに。女の子だし。
そんな感じでカタログをざっと見た。
「これ可愛くない?」
「いや、何かゴルフしてる人っぽいやん。」
「でもさ、結構かっこよくて良くない?」
「私これはちょっと…」
どうやらお気に召さないらしい。
美空がカタログをを捲る。
「じゃあこっちは?」
「それは美空とか夕美は似合うと思うけどさ、何か彼氏のジャージ着てみましたって感じやん」
「てかそれ男物じゃない?」
「確かにそう書いてあるー。」
「でも、かっこよかったらそれで良くない?」
「私は可愛いの無理やからな」
「でもさ、それ言ってたら決まらんくない?」
……あーもう面倒な事になる。
1年は個性が強いのと、我が強い人がほとんどで、意見が一つに纏まらない。私は、そんなテニス部を見ていて、
「別にこの中やったら何でもいいんやけどな……」
と、誰にも聞こえないように呟いた。
どーせ意見を言っても伝わらないんだし、もう成り行きに任せるしかない。
そして二十分後
どうやら、意見が二つくらいに絞られてきたらしい。
「この白いやつが可愛くていいと思うー。」
という意見と、
「黒ベースでチャックの位置がかっこいいからこれがいいー。」
という意見だ。
私は、その二つを見るに、白ベースで胸元にラインが入っているものが可愛らしくていいと思った。
ただ、たとえ意見が二つに絞られたからって簡単には決まりそうにない雰囲気だったので、私は口を挟む。
「こんな感じだったら決まらんから多数決で決めよ。」
それをいうと、隣にいた莉愛が
「えー。でも私これ似合わんから絶対いやー。」
と、白の方を指差しながら言った。
しかし、この調子だと永遠に決まらない。
私がそう反論しようとしたとき、美空が私が思っていたことをそのまま言ってくれた。
「それ言い出したら切りないし。折れてくれないと困るよ。」
莉愛は不服そうだったが、まあ仕方がない。
私は白の方がいいので、そっちに挙げることにする。
「じゃあ、この白の方がいい人ー。」
美空がそう言った。
上げた人は八人。もちろん私も入っている。
一年生は十二人なので、白の方に決定した。
そのあと、サイズを書いて先生に提出した。
「……あっ、決まりました。」
「お前らは何でそんなに決めるのに時間がかかる。」
先生はどうやら簡単には纏まらない私たちに呆れているようだった。
というより、もっと早く持ってきて、じっくり決めていたらこんなことにはならなかったのに、と私は先生に心の中でも毒づく。
「じゃあ、早く練習に参加するように。ちゃんと注文しておくから。」
先生が言い、私たちは練習に参加した。
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次の日。
先生がまた例のカタログを持ってきた。
どうやら在庫切れを起こしているらしい。
私たちは、今度は時間をかけずに、第二希望の方を先生に伝えた。
やっぱりもっと早く持ってきといてもらわないとだめなんじゃないかと思ったが、まあ人気だったのだろう。まあ、こっちでも悪くない。これが通ってくれれば……とテニス部で話していた。
また翌日。先生がカタログを持ってきていた。
どうやら遅すぎたようで、ほとんど在庫が残っていないらしい。
「在庫が人数分あるやつに丸しといたから、この中から選べ。」
「……」
テニス部十二人、全員が絶句していた。
そう。思い切りダサいやつしか残っていなかったのだ。
「やっぱり先生もっと早く持ってきといてくれないとダメなやつだったんじゃ……」
というと、夕美が言った。
「……まあ、この中から選ばないとしゃーない。全部ダサいけど」
本当にだ。先生には恨みの言葉しか沸き上がってこない。
あまりにも種類が無さすぎて、私たちは仕方なく第一希望の黒バージョンを選んだ。
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そんなことがあって一週間位たった頃。
ついにウィンドブレーカーが届いた。
「ちょっとは期待できるかもねー」
と、夕美が呟く。
まあ、それもそうだろう。何せ第一希望だったものの色違いだ。
色合いが少しダサいがまあ、期待できる範囲だろう。
先生がウィンドブレーカーをとってきて、私たちに渡した。
そうして、私たちは少しの期待を覗かせながらウィンドブレーカーを取り出す。
「なんだこれーーー!」
あまりのダサさに絶句してしまった。
下はベーシックな黒だが、上がとてもひどい。
黒ベースに、胸元にはラインでポイントがあるのだが。
そこまで聞いたらまだかっこいいと思うかもしれない。
ただ、そのラインのポイントが問題なのだ。
普通に一色にしておいてくれたらいいものを、何故か緑とオレンジの二色にしてある。
そのせいで、
「これやったらなんかブラジルみたいやんかー」
莉愛がそう言った。
そうだ。何かに似ていると思ったらブラジルとか、そんな派手なところのイメージだ。
「もう、何でこんな変なウィンドブレーカーになったんやろ……」
しかし、こんな事でボヤいていても何も始まらない。
とりあえず、練習に参加することにした。
ちなみに、今日はテスト二週間前の土曜日。明日は練習試合の日だ。
ちょっとは頑張らないといけないかも。
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大体週末は、練習試合か午前練のどちらかだ。
たまに先生の都合で?全日練になったりするんですがね。
それで、今日は久しぶりの全日練。お弁当やパンを持って皆がやってくる。
それで、今日は練習時間が長いので、一歩踏み込んだ練習をしている。
今やっている前衛対後衛の練習もそれに分類されるだろう。
私たち後衛は前衛のサイドを抜く練習。前衛はそれを取りに行く練習。
まあ理にかなった練習方法であると言える。
ただ……ただ、私たち一年生にはそこまで技術もない。
なのに、私のペアともう一つのペアの子は、先輩に混じって練習するように言われていたのだ。
いやいや……私たちがやっても先輩に迷惑かけるだけですって。
むこうのバレーコートで私たちも練習したほうがいいと思いますって。
そう思いながら、私はボールを打っていた。
「あっ……すみません!」
ボールがネットに掛かり、私は先輩に軽く謝る。
さっきからそんなのばっかりだ。さすがに私も一年生の一番手だとはいえ、そこまでボールのコントロール力はついていない。必然的に、先輩に迷惑をかけてしまう事になるのだ。
私が待っている時、先輩のほうを見る。
先輩はやっぱり凄い。後衛の先輩は正確に前衛のサイドに打てるし、前衛の先輩はそれをしっかりと返せている。
「私もあんな風になれたらなー。」
と、誰にも聞こえない声で呟く。
そうしたら、また私の番が回ってきた。
今度は、うまく前衛のサイドにボールを通す事ができた。
しかし、威力が乏しい。うまい前衛の人だったら簡単に取られてしまうだろう。
もっとうまくなりたいなと思いながら、私たちは練習を続けた。
午前の練習が終わった。
相変わらず先生は私たちに並みではない期待を寄せているらしく、ずっと先輩に混ざって練習させてもらっている。普通の人が聞いたらうらやましいと思うかもしれないが、別にうらやましいでも何でもない。
何せ緊張するのだ。それもかなり。
私たちが少しボール出しを失敗すると、先輩が練習出来なくなる。
そんな事を考えていたら、思いきってボールを打つ事ができない。そうなると、練習していても気持ち良くなれない。
だから、私は先輩に混ざって練習する事が嫌いだった。
そんな事を考えながら、お昼を食べるために通路へと歩いていく。
ちなみに、先生はお昼の時に教室開放を行わず、私たちはいつも荷物を置いている、北館と南館をつなぐる通路で食べる事になっている。
今日はいろいろある日だな……めんどくさい。
どうせお昼を食べたら校内戦なんでしょう。別にそんな事をしても飽きてだれるだけだし。
それだったら午前練ですっぱりと終わらせてほしい。
そんな事を思いながら私はもしゃもしゃとパンを食べていた。
他の一年生は固まって食べていたりするが、私はそこまで皆とつるみたいわけでもない。
というか、ぶっちゃけめんどくさい。
私は、練習試合のペア数の都合とかで、休日はあまり一年生全員でいる事のほうが少ない。
と言うよりも、一年生全員でほとんど居る事がない。
明日も、みんなは午前練なのに、私のペアだけが練習試合だ。
こんなんで、一年生と仲良くなれるわけがない。
まあ、仕方ないよね。
と、言い訳がましい事を考えていたら、もうすぐで昼食終了の時間だ。
「集合。駆け足」
先生が端的に言う。
私たちはコートに戻り、先生の前に集合した。