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かいふく系モンスターと…

かいふく系モンスターと異界からの侵略者

挿絵(By みてみん)

なんか、こんなの。

 気付くと僕は剣を握ってそこに立っていた。おかしい、とそう思う。さっき僕は洞窟の入り口に辿り着いたばかりだったはずだ。ここは既に洞窟の深層のように思える。どうやって僕はここに来たのだろう? しかし、戸惑っている余裕はなかった。何故なら、ヤツがすぐ目の前にいるからだ。

 僕は強く剣を握り締めると言った。

 「絶対に、お前をこの世界に入れるわけにはいかない! なんとしても僕の手で食い止めてみせる!」

 ヤツは笑ってこう返す。

 「アハハハ! 面白い! やれるものならやってみろ。オレはまだこの世界に馴染んではいないが、それでもくだらんザコなど相手にならんくらいの力は持っているぞ!」

 朱と黒の入り混じった影がヤツを覆っている。禍々しい。勝てないかもしれない。だが、ここで怖気づくわけにいかない。なんとしてもヤツの侵入を防がなくては、この世界はとんでもない事になってしまうかもしれないからだ。

 そこで視界の隅に、白い影が漂っているのに僕は気が付いた。くらげのような造形の気の抜けた生き物。そんなものが空に浮かんでいて、不思議そうにこちらを見つめている。

 「おい。あのモンスターは、お前の手下か?」

 僕はそう尋ねてみる。ヤツは馬鹿にするようにこう答えた。

 「こんな緊張感を削ぐようなモンスターは、知らんな。この世界のモンスターなのじゃないか?」

 「僕もこんなモンスターは知らない」

 そんな会話をしていると、その白いモンスターは僕とヤツの間を漂い始めた。邪魔だ。僕は言った。

 「まぁ、いい。気を取り直そう。絶対に僕はお前をここで倒す!」

 剣を構える。すると、白いモンスターが「ウ」と言って首を傾げた。そこで僕は既視感を覚える。

 どうしてか、前にも一度、こんな事があったような気がしたのだ。

 ヤツはそれにこう返した。

 「アハハハ! さっさとかかってこい!」

 その言葉も覚えていた。やっぱり、既にこんな体験をしている気がする。ヤツと闘っているような。だが、それは有り得ない。もし闘っていたなら、僕は大ダメージを負っているはずだ。今の僕はダメージどころかまったく疲れを感じていない。

 僕はそれから剣を振りかざして、ヤツに斬りかかった。

 ――その瞬間、

 先の白いモンスターが、「ラー!」とそう叫んだ……

 

 ……事の始まりは、数か月前にうちの倉庫で見つけた禁書だった。それまで知らなかったのだけど、その禁書によると、僕の一族は代々、異世界と通信できるチャネリングの能力を有しているらしいのだ。しかも訓練すると容易くその力を僕は発揮することができた。

 それに気を良くした僕は、その力を使って様々な世界と交信するようになった。面白かった。映像や言葉で、未知の世界の見知らぬ者達とコミュニケーションを取る。ただそれだけで興奮した。そしてそんななかで、僕はヤツとも知り合ったのだ。

 はじめ、ヤツはとても紳士的だった。友好的で話が上手く、未知の不思議な世界について教えてくれる。僕は直ぐにヤツが好きになった。そして僕は訊かれるままに僕のいる世界についてもヤツに教えていったのだ。何にも疑っていなかった。ところが、ある日、チャネリングで知合った友人の一人から僕は自分が騙されている事を教えられたのだ。

 彼の話によると、ヤツは異世界を見つけては侵略し、その世界を滅茶苦茶にした後で、また別の異世界を見つけて侵略するということを繰り返しているらしいのだ。

 僕はそれを簡単には信じなかった。ところがそれをヤツに言ってみると、ヤツは態度を急変させたのだった。

 「アハハハ! 知ってしまったか! だがもう遅い! お前との交信でお前のいる世界の場所は覚えた。次に侵略するのはお前の世界にするとしよう!」

 僕はそれを聞いて愕然となり、恐怖した。ヤツが凄まじい力を持っているのは確かなようだったからだ。だが、希望がないわけでもない。どうも、ヤツは異世界に侵入したばかりの頃は、まだそれほどの力を発揮できないようなのだ。つまり、この世界に入って来た瞬間を叩けば、ヤツに勝てる可能性がある。

 問題は、この話を信用してくれる人間が一人もいないという事だった。話しても、ただの僕の空想だと思われてしまう。それで僕は、たった一人だけでヤツに挑むしかなかった。幸いチャネリング能力のお蔭で、ヤツが来る時と場所を僕は察知できていた。その日を目指して、僕は必死に剣を修行した。

 そして、いよいよヤツがやって来るその日、僕は剣を持って、ヤツが現れるだろう洞窟を目指したのだった……

 

 気付くと僕は剣を握ってそこに立っていた。おかしい、とそう思う。さっき僕は洞窟を目指して家を出たばかりのはずだ。ここはどう考えても洞窟の内部だ。しかも、目の前にはヤツの気配がありありとあった。恐らくは、目の前の影がそれだ。僕は剣を構えると言った。

 「絶対に、お前をこの世界に入れるわけにはいかない! なんとしても僕の手で食い止めてみせる!」

 ヤツは笑ってこう返す。

 「アハハハ! 面白い! やれるものならやってみろ。オレはまだこの世界に馴染んではいないが、それでもくだらんザコなど相手にならんくらいの力は持っているぞ!」

 それを聞いて僕は思う。

 ……なんか、おかしい。既視感がある。こんな体験を前にもしたような。辺りを見回すと、直ぐ傍を気の抜けたくらげのような姿のモンスターが飛んでいた。円らな瞳で僕らを不思議そうに見つめている。

 「なんだ、このモンスターは?」

 「さぁな、知らんぞ」

 「まぁ、いい。気を取り直そう。絶対に僕はお前をここで倒す!」

 そう言って、僕は剣を振りかざして、ヤツに斬りかかった。

 ――その瞬間、

 先の白いモンスターが、「ラー!」とそう叫んだ……

 

 ……その、けっこう前の事。

 「え? なに? いくら眠らせても喧嘩を止めようとしない人達がいる?」

 洞窟の中、宿屋の娘のアーニャがそう訊いた。直ぐ目の前に浮かんでいる謎の回復系モンスターのカイくんは、それを聞くと「ウ」と言って頷く。

 くらげに似ている緊張感を削ぐような造形で、まるでラクガキみたいに見える回復系モンスターのカイくん。アーニャは何故か、そのカイくんととても仲が良いのだった。アーニャがまた訊く。

 「あんた、それって単に肉食獣が餌を食べようとしているってだけじゃないでしょうね? そーいう自然の摂理を邪魔しちゃ駄目なんだからね?」

 それを聞くと、カイくんは首を横に振った。

 「え? 違うの? 本当に喧嘩をしているだけ? 本当?」

 「ウ」

 と、それにカイ君は頷く。

 アーニャはそのカイ君の態度から察すると言った。

 「で、あんたはその喧嘩を止めたいわけだ。いつも通り」

 「ウ」とカイ君は返す。

 彼女は少し考えると、こう言った。

 「うーん。なら、そうね、記憶を飛ばしちゃえば良いんじゃないの? ほら、喧嘩している理由を忘れちゃえば、もう喧嘩なんかしないでしょう?

 まぁ、あんたにそんな能力があれば、だけどね」

 するとカイ君は「アー」とそう嬉しそうな声を上げたのだった。そして、そのまま何処かへと飛んで行ってしまう。

 そんなカイ君を見つめながら、アーニャは呟いた。

 「……もしかして、できるの?」

 

 気付くと僕は剣を握ってそこに立っていた。おかしい、とそう思う。さっきまで僕は家の中で寛いでいたのに、そこはどう見ても洞窟の中だったからだ。しかも目の前には、朱と黒が入り混じったような不気味な影があった。

 どうして僕は、こんな場所にいるのだろう? 目の前のこいつは、一体、なんだ? そんな風に不思議に思っていたのは、どうやら僕だけじゃなかったようだった。

 「なんだ、ここは? どうしてオレはこんな所にいる?」

 目の前の影がそんなことを言ったのだ。それから影は「よく分からんが、とにかく戻ろう」とそう言って、洞窟の壁に浮かんだ暗い穴の中に消えて行った。僕はそれを見て、何故だか妙に安心をした。

 「僕も戻るか」

 そしてそれから、僕は洞窟の出口を探して歩き始めたのだった。こんな妙な事が起こるのは、もしかしたら、近頃僕が家の倉庫で禁書を探していたからかもしれない。もうそんなものを探すのは止めよう。僕はそんな事を思っていた。

 気付くと、僕の近くに気の抜けたくらげみたいなモンスターが漂っていた。僕がそこを離れるのをじっと見つめている。

 「アッアァー」

 そして、そこから出て行くと、なんでか、嬉しそうにそんな声を上げたのだった。

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