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素顔

作者: 皐月 悠

水無月 鈴香の恋愛事情


1 バレンタインデー


「水無月君v」

冬のある朝、中学校の校門前でカッコイイ系の生徒は、ハートマークつきの声のした方に振り向いた。声の主らしいロングの可愛いかんじのその女生徒の手には、丁寧に包装されている箱がある。

それを彼女は両手でさしだしてきた。

「受け取ってくださいvv」

呼び止められた水無月は、受け取って困った表情を浮かべた。

おそらく箱の中身はチョコであり、冬の大イベントであり、女子にとっては大切な日だとしても、何個もいらない…というか あげる相手を間違えているような気がする。

「…ありがとう」

ニコっと笑った。 ちょうどいいタイミングで、風が吹きサラサラの前髪撫でる。

美形の笑顔というのは見事な威力があるらしい。まともに見た彼女は一瞬で真っ赤になり、今にも倒れそうになっているし、 たまたま近くにいた女子の全員の目がハートになってキャーキャー騒がれている。 はしゃぐ彼女たちを避けながら登校していく男子からの恨みがましい視線は、かなり痛い…。

あたりを見回すと知り合いの男子と目があってしまい、すれ違いざまにニヤニヤ口元に笑みを浮かべられた。

「もてていいじゃねーか。うらやましい」

「――――・・・あなたには言われたくないよ、竜牙」

ヤツは、卯月 竜牙。 彼の下駄箱は毎年この時期になるとポストと化している。

「じゃあね」

放心(?)している彼女にいうと、その場から離れて下駄箱に向かった。

そう、今日はバレンタインデー。 特にファンからプレゼントをもらう日で、男子から殺気を感じさせる視線で睨まれてしまう。

「水無月、く~ん♪」

スタッカートつきでそう呼ばれて肩を軽く叩かれた。

聞き覚えのあるその声はわざわざ振り返って確認するまでもない。クラスメイトの江口 加奈だ。

「モテモテだね~、朝から」

彼女は横に並んで水無月を見上げた。 ショートのレモンブラウンの前髪の間からのぞく、彼女の瞳は、今、好奇心でキラキラ輝いている。

「おかげさまで。新入生歓迎会で主人公やったからね」

加奈に拝み倒されて、去年の演劇部の新入生歓迎会で主人公を演じた。 その主人公は、男子高校生という設定で聞いた時からこうなりそうなことは想像できた。 小学校の時にも似たようなことがあったから、あまりのり気ではなかった。

「うん、鈴香がやってくれて、本当によかったよ~。イメージどうりだし」

漆黒の黒髪に長めのショートカット。 見るものを惹きつける深い闇色の瞳。 背が高く、当然のように整っている顔、どこかのプロダクションにもスカウトされたことのあるその容姿は、 主人公にもってこいだった。

「でも…さっきのファンの子たち、鈴香に好きな人がいるって知ったらがっかりするんだろうなぁ」

「……」

自分でも顔が赤くなるのが分かる。 そう、私、水無月鈴香には好きな人がいる。 受験対策のために入った塾で、その人に出会った。

「その、いつもつけているピアスも、ヤツからのだしね~」

日の光を浴びて、髪の間からのぞく髪にシルバーピアスがまぶしく光る。

「これ、零からもらったって言ったけ…?」

「ううん、言ってないけど…鈴香の新歓の時の動揺をみてればバレバレ」

「そんなに動揺していた?」

「あれで分からなかったら、相当にぶいわね」

「…ウソ…」

「ついでに言うと、顔にも出すぎて分かりやすすぎだよ?」

「じゃあ、気持ちバレてるって事?ど、どうしよう…」

「普通はうすうす感づくけど、はっきりしないと気づかないんじゃない?」

鈴香を見ながら加奈は呆れた表情を浮かべ、手をひらひらと動かす。

「そうかなあ~」

コクッと加奈は頷く。

そのまま見るともなしに見ていると加奈の視界に、深いスカイブルーの髪をした同じ年くらいの少年が前を歩いているのが見えた。ここの男子の制服と同じ学ランで、すっかりこの場になじんでいるが、彼はこことは違う中学校に通っている男子だ。

「…坂滝」

「え?」

加奈の視線の先をたどると、誰かを探している様子の零がいた。 ぽんっとかるく肩をたたく。

「ま、がんばれや」

「…うん。ちょっと嬉しいかも」

視線に気づいたのか、零は彼女がいるほうに振り返った。

登校してくる生徒の中から鈴香がいるのを見つけて目が合うと、嬉しそうにニコッと満面の笑みを浮かべて そのまま、走り寄ってくる。珍しい髪のためか、すれ違った生徒が一回は振り返って見ては、また昇降口に向かって歩いていく。

「鈴香、ちょっとええか?」

そう言って彼はいきなり彼女の手首を掴む。

鈴香はびっくりした表情を浮かべた。

「…うん」

「わるい、ちょっと借りるわ」

加奈にそれだけ言い残すと、校門に向かって走り出した。

「わかったぁ~」

加奈は二人の背中に大声で声をかけ、しばらく鈴香の姿を目で追うと昇降口に入って下駄箱から上履きをとりだす。

「さてっと、戻ってきたら絶対聞き出そう」

彼女は上機嫌で教室に向かった。


2 ヤツ、悪魔との出会い


一方その頃、 公立大泉南中学校の校門前。

一人の女生徒が息をきらしながら走りこんできた。 茶髪のショート。 イタズラッ子のような輝きのある勝気そうな茶色の瞳、整っているその顔は、どちらかといえば男顔だ。

「~~~~ッヤバイ、あと一分で遅刻だよ~」

もうすでに予鈴は鳴り終わっているし、遅刻は間逃れない。

「やっぱり、仕事先にやっとけばよかったぁ~」

情報屋という仕事をしていて、夜遅くまでパソコンに向かっていたせい。 先に仕事ができなかったのは、数学の宿題が大量に出されていて、量はあるわ、解けないわ結構てこずってしまい、それから仕事をやり始めて寝たのは今日の夜中三時だった。

「…ずいぶんと来るのが遅いんだな、睦月」

校門に寄りかかるようにして立っていた青年は、彼女に視線をゆっくり向けた。 その声で彼女も彼の方を見る。

「おかげで、生徒達にはジロジロ見られるし、大変だったんだぞ。 おまけに、睦月は来ないし」

笑っている青年は、前髪だけ濃い色の茶色で、それ以外が琥珀色に近い茶色のショート。 黒い上下のスーツに、黒いコートをはおっていた。外見から判断すると二十代前半くらいだろうか。 整っている顔にスっと切れ長のたれ目なのが、優しそうな印象を与えている。

「…皐月」

驚いて彼女は目を見開く。

自然と足が止まり、自分でも気づかないほどの自然の笑みを浮かべる。

「どうしたの…?」

「アイツがまたいなくなって…学校、サボれるか…?」

「いい、けど…」

彼女はジーっと見上げる。

「ううん、なんでもない」

きょとんとした表情を浮かべた皐月に、睦月 弧華は笑ってそういった。 この組織でバイトをするようになって数ヶ月。自分の気持ちに自覚したのはつい最近。 それとなく態度にだしてはみたものの、気づく気配なんてまったくない。

「アイツの事だし、とりあえず『vamp』から探す?」

「んー…そうだな。とりあえず行ってみるか」

そう言いながら皐月はそこに向きかって歩き始めた。

…ま、いっか。なんであれデートだし♪

弧華は駆け足で追いかけて、ふざけて腕をくむ。 皐月は驚きはしたもののふりほどきはしなかった。


ゼームセンター『vamp』。

平日の昼間だというのに制服姿の若者がたくさんうろついている。

その入り口に、必死でドキドキする心臓をなだめようとしている、青髪の少年と 黒髪の少女がいた。

「で、話ってなに?」

鈴香にいきなり切り出されて、彼の心臓はこれ以上ないくらいに跳ね上がった。

「あぁ、あんな…?」

「うん」

「あ、後で言うから、とりあえず遊ばへん?」

がっかりしたようなほっとしたような表情を浮かべてから、笑ってから彼女は携帯をとりだす。

「でも、授業があるから…」

「そないなもん、一日くらいサボってかてええねん!」

ぷっと鈴香は吹き出す。

「だから、友達に今日一日休むって、メールしよう思ったんだけど?」

俺は、はやとちりしてしまったらしい。 てっきり、学校に戻ると言い出すのかと思った。 マジメだし学校をサボるのもイヤがるだろうと思ったからだ。 よほどあっけにとられた顔をしていたのか、今も彼女はクスクス笑っている。

「零と一緒に居るの嫌いじゃないよ、私」

顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。だんだん直視できなくなって顔を逸らす。

横目で彼女をみるとメールを打ち込みながら何かあるのに気づいたのか、しゃがみこんで小さく銀色に輝くものを 拾いあげた。

「なんや、それ?」

覗き込むとそれは、シルバーで小さい、細かい花のような模様の細工がほどこしてある小さい指輪。

「…指輪? でもなんでこないなところに落ちているんやろ?」

「うん、だよねぇ。きっと、大切なヒトからもらったモノだと思うし・・・」

「なんで、そう思うねん?」

「カン! …先に行ってて。私、コレ交番に届けてくるから」

「なら、俺もついてくで」

「すぐ行ってくるからさ、ね♪」

「…わかった。じゃ、中に入って適当に遊んどくわ」


このとき、俺は彼女の異変に気づかなかった。

完全に騙されていた。 気づいていれば、まきこまれることもなかったのに…。


ゆっくり深呼吸してから、鈴香はさっきからずっと立っていた目の前の高校生くらいの少女に笑いかけた。

「これ、貴方のものでしょう?」

しっかりと目線を合わされて言われたので、彼女は驚いたようだった。

「…ん、そう。もう持つことはできないけどね。キミにあげる。私の変わりに持っていてくれないかな?」

「…つけて、いいの?」

「うん」

つけると彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。

「それにしてもいいよねぇ、学校サボッてデート。お姉さんも一回はやってみたかったなぁ。 羨ましいな、男同士のカップルでも」

「……私は女です」

「? あ、制服スカート」

この反応に悪意はないだろう。間違われるのも小学校の頃からずっとそうだったから、今更深く傷つくという事もない。ただ、少しチクっとはくる。

「ご、ごめんね。わざとじゃないよ」

「いえ、分かっていますから」

「…それにしてもよかったぁ、拾ってくれて」

彼女はそっと指輪に触れる。 左腕と右目に静電気のようなものがピリっとはしり、痛みを感じた瞬間に映像がなだれこんできた。

最初に見えたものは、闇。

嫌な、不気味なほど静まり返った真っ暗な部屋。 感情のない冷めた琥珀色の眼で、赤い髪の少年は、しゃがみこんでいる赤紫色の髪の少年を見下ろしている。 二人の少年は、黒いぬめっとする液体を体中に浴びていた。 景色は鏡がわれるかのようにヒビがはいって砕け散っていく。 ぼんやりと浮かびあがってきたのは、震えている白くてまだ小さい獣。

その獣が顔を上げると青くとても澄んだ瞳と目があった。 そらすことができない。 不思議と吸い込まれてしまいそうな錯覚すら起こしてしまう。 そんな獣とこの少女の姿重なる。 震えている獣に手をさしのばしたのは、赤紫色の髪をした少年。 抱き抱えると、彼は笑顔で指輪を彼女に渡す。

彼女も笑顔で受け取っていた。 いつのまに現れたのか、黒いダークスーツを着込んだ深い緑色の瞳をした青年が現れた。 見守るかのように優しい目つきが急に厳しくなって、こちらに気づいて睨みつけてきた。


その瞬間。


ドクンと左腕が心臓の鼓動のように大きく波打った。 右目にも鋭い痛みがはしる。

「…また、だ」

ため息とともに小声でつぶやく。 勝手に映像がなだれ込んでくるのは、今日だけではなかった。 時々起こっていて、特に最近では頻繁に起こるようになっている。

「?」

「平気だよ、サクマ」

「…なんで、私の名前…」

「見えたから」

悪戯っ子のように細められた瞳は、右目だけ海のように深い青色の瞳に変わっている。

「私ね、触れられると大体見えたり聞こえたりするの、過去とか」

「…」

彼女はなんともいえない複雑な悲しそうな表情を浮かべていた。

今思えば、彼女はこれから数年先に起こる出来事を見通していたのかもしれない。

「うわー、可愛い男の子がいる~♪」

目的地につくと、開口一番に彼女―睦月 弧華はわくわくした口調でそう言った。 彼女が見ているは紛れもなく女子中学生であって、男子ではない。 しかし、彼女がそんなことに気づくはずもなかった。

「ちょと、行ってくるね~」

睦月は彼女がいる方に駆け出していった。 これからどんな行動をとるか分かっていた皐月は、浅くため息を吐き出す。

というのも…

「ねぇ」

ていっと睦月は後ろから抱きついた。 睦月は抱きつき魔だから。 抱きつかれた方はびっくりして睦月を見る。

「なぁなぁ、お姉さんとお茶しない?」

「…ナンパは結構です」

当たり障りなく断ったつもりのようだが、睦月がそれくらいでひくわけない。

「えぇー、いいじゃん」

ギロっと敵意のこもった瞳で、サクマは睦月を睨みつけている。

「しつこくすると嫌われるよ?もうこれは私のモノ」

「…私は、サクマのモノになったつもりなってないけど…」

「あぁー、ずるいー」

「べー、早いもの勝ちよ」

「そんな理屈は通用しない」

「へ~」

ぎゃんぎゃんと本人の意思を無視して言い合っているサクマを見て、

皐月は瞳を懐かしそうに細める。 あんなことがあって、久しぶりに見かけた彼女が元気な姿でいることに安心する。 もう、あんなことは起こさせたくない。

そのために、神野をシェノスを連れ戻す…。


3   罠


「……」

鈴香が遅いと思って外に出た時、俺は見てはいけないものでも見てしまった気がした。

友達でじゃれつかれているところなんだろうけど、なぜか彼女が 狙われているような気がしてアブナイ感じがする。

「あ、零」

声につられてじゃれついていた二人が俺を見た。 高校生くらいの黒髪のロングの少女は、

俺を見るなり息をのんだ。 その人はどこかで見たことのある人だった。

「あ、あや…?」

「いや、ちゃうで」

「…って、事はキミが弟君の零?キレイな青い髪だね」

俺はゆっくりと首を振った。

この髪は生まれつきのもので、染めたわけではない。 坂滝の家系の、それの特別な者だけが青い髪なのだという。 なぜ、そうなるのかは知らない。

何度も一族の人に尋ねたが大人たちはそのことになると、そろって押し黙った。 ただ、脅えている姿が目に映るだけで、幼い頃は不快感を感じていた。

「・・・。零、この人が見えるの??」

「なにいうてんねん。見えるにきまっとるやろ」

笑って鈴香に答えてから嫌な予感がよぎった。 前にも姉に同じような事を言われたことがある。

あの時も姉はつらそうな表情を浮かべて、「・・・そっか・・・」と言った。

「・・・へ~、キミも、なんだ」

もう一人の茶髪の少年は、スッと目を細める。

「・・・な、なんの事や?」

「なんにも知らないんだ」

「どういうことや・・・?」

おかしい。 なんで、この人は俺の事を知っている・・・?

一回逢ったことのある姉貴の友人、そんな人は一人しか会ったことがない。 けれど・・・その人は・・・。

「サ、クマ・・・?佐久間 玲奈なんか・・・??」

「そうだよ」

彼女は困ったかのような表情を浮かべた。

「私は、もう死んでるの」

悲しそうに話す彼女の先には、鈴香の指にはまっている指輪が日の光を反射して いっそう強く輝きまぶしそうに目を細める。

「でも、その指輪から離れなれなくて・・・」

つられて指輪をみると、悲しい光に見えて思わず俺はこういっていた。

「・・・行動してみーや。時間がかかってもそこからぬけださないと動けなくなってまうし、 恐れていても何もはじまらへんねん」

「・・・。ありがとう、優しいね。お礼にいいこと教えてあげようか?」

「いいこと・・・?」

すっと耳元に近づけてくると、小声でささやかれて反射的に俺は怒鳴った。

「んなわけねーだろ!!」

「わからないよ~。意外とってこともあるし?」

ない。 そないなこと、絶対ありえへんやんか。 鈴香に視線を向けると彼女はこっちによってきた。

「なになになんの話し?」

「~~~~ッ なんでもあらへん!」

「本当に・・・?」

動揺しまくりの態度の俺に疑いのこもった視線で見上げてくる・・・。

『案外、両思いなんじゃないの・・・?』 だってありえへんやんか。 鈴香が俺のこと好きなのかもしれないって・・・。

「あぁ、ホンマや」

「…なら、いいけど」

少し傷ついたような表情を浮かべたが、それも一瞬のことで、このときの俺は気づいていなかった。


4 カミング・アウト


ゲームセンター『vamp』から出てきた大学生くらいの女を連れた青年は、自分を捕まえに来たらしい 顔見知りの二人を見て心の中で低くうなった。

「どうかしたの?神野」

「なんでもねーよ」

ぶっきらぼうにそう言うと、あいつらが居ない方に歩いて行く。 別の道を使っていけば気づかれる事もないだろうし、こっちの方にも喫茶店くらいならある。

しばらく歩いてから歩調をゆっくりしたものに変えて彼女が追いつけるように調節した。 追いつくと、彼女は腕を組みながらクスクスと笑う。

「? 何が可笑しい?」

「神野ってこういうところがさりげなく優しいよね」

「そうか?」

「うん」

嬉しそうな表情を浮かべて顔をすり寄せてくる彼女は可愛いと思った。特に優しく接しているつもりもないから、優しいよねといわれても分からない。ただ、体が勝手に動いているような感じがする。

「ねえ、神野。本気で好きな人いるの?」

「今はいない。ずーっと昔にはいたな、一人だけ」

気が遠くなるような昔。 親友とも恋人とも兄弟とも言えるような大切な人がいた。

「それって、どんな人?」

こんなことを彼女が聞いてくること自体珍しいのに、必死にしがみついてくるような表情を 浮かべているから気になったが、気づかないフリをした。

「俺がないものを全部持っているような人」

「えぇ、それじゃ分からないよ」

「って言われてもなぁ…具体的にと言われても、きりがねーよ? 明るくて、優しくて、気が回っていて、知らなくてよさそうなものをいっぱい抱えて、 素直で、食い意地はってて、すべての事に一所懸命に取り組んで、可愛くて、素直で、 性格が綺麗で、輝いていて、花にたとえるならひまわりみたいなヤツ?」

彼女はびっくりして、口がぽかーんと開いてしまった。

「よく言えるね、私だったら言えないよ」

「うん、俺も自分でびっくり」

言い始めたら止まらないし、一言ではあまり言えない。 タバコが吸いたくなったが、彼女が嫌いなので吸うわけにもいかず、シャツの胸ポケットに 伸ばしかけた手をズボンのポケットにつっこむ。

「ま、好きになるのって、その人がその人だからってことじゃねーのかな?」

「…うん」

切なそうに顔が歪んで、ぎゅっと組んでいる腕に力がこもった。

この先にある喫茶店までには距離があるし、かといってこのまま沈黙というのも俺には 耐えられない。でも気のきいた言葉もでてこない。

俺は軽く息を吸い込んで歌い始めた。

「それ、誰の曲?」

「この前駅で二人組みのストリートミュージシャンが歌ってた」

「…いい曲だね」

歌で伝えようとするのは少しベタすぎたのかもしれないけど、彼女に何か伝わってくれていたらいい。

「なんか、はげまされる感じで元気が出てきそう」

彼女の表情が幾分かはれて、ほっとして俺は笑みを浮かべた。

「…私ね、最近失恋したばっかなんだ」

「うん」

話してくれて、なぜか俺は嬉しいと感じていた。 それから、彼女の話をあいづちをうちながら聞くことになった。


彼女は、松本 利江、大学二年。

高校生から付き合っていた彼氏がいた。

今は大学が違うせいもあっほとんど逢っていなかったらしい。

彼も利江もいろいろと学校生活が忙しく、なかなか会う暇もなかったので、特に気にしていなかったという。

当然のように、メールも電話も忙しいという理由からあまりしなくなっていった。

そんなある日。

夕方頃、彼から電話がかかってきていたのだが、バイトでちょうどでることができなかったらしい。 終わってからすぐにメールを送ると、すぐに電話が

かかってきたという。 あわてて彼女は電話にでた。

「なんで、メールも電話もしてくれねーの…?」

いきなりそう言われて、彼女は言葉につまって何も言えなかったらしい。 その沈黙を彼は肯定と誤解した。

「理由って、俺に言えないようなことなの?」

違うと彼女は言ったが、彼は信じようとはしなかったらしい。

「他に好きなやつができたのかよ!?そうなんだろ・・・・!!」

彼は彼で、パニックにおちいってらしく、その後に何を言っても聞き入れようとはしなかった。 そうなってくると彼女もきれてしまってたまっていたものを吐き出してしまった。

「なんで、そうなるのよ!!大体、そっちからのメールとかも全然なかったじゃない!!」

その最初の言葉を言ったら最後だった。 もうあとはとまらなくなって、言い合いの後の、あのなんとも言えない沈黙の後、彼は妙に冷静な声であさくため息を吐きながらこう言ったらしい。

「…利江、別れよう…」


その話を聞き終わって、正直俺は、なんて声をかけたらいいのか分からなかった。

「…で、やけ酒、やけ食い、一人カラオケやって忘れなれなくて、あんなところでナンパ待ちしていたわけ?」

コクッと利江は頷いた。

脳裏に声をかけた時の姿がよぎっていく。 小雨が降るはじめた夜の街一人、ぽつんと立っていた。

「…つらかったのに、よく話してくれたな。どうだ、少しは楽になったか?」

「…うん」

「そっか、ならよかった」

にしても、捕まえたのが俺でよかった。

俺じゃなかったら、きっと、今頃喰われてる。

全員がそうとは言わないが、そういう男は喰うことしか考えてないし、それで彼女が忘れられるとも思えない。やけになってそういう関係になったとしても、結局はむなしさだけが残っていくものだし根本の解決には、なりはしない。 自分で自分を壊していくようなものだ。

「ねえ、神野」

「なんだ?」

「なんでナンパしているの?」

「…さぁ、寂しいから、かな。ぶっちゃけていうと俺、孤独恐怖症で一人でいるのがすっげー怖いの。寝たからってそれが埋まるわけでもないし、どっちかつーとあたたかさと心を求めている」

そう、人間界に追放されて、アイツと会えなくなったあの時からずっと、一度も満ち足りた気がしなかった。

「神野!」

呼ばれて利江を見ると、彼女の大きな瞳に俺が写りこむ。

「また、会えないかな?」

ふっと笑みがこぼれた。 答えなんてもう決まっている。

「いいよ」

交換したメルアドを見ながら、ふと独り言がこぼれおちる。

「…また、恋に落ちる日がくるなんて思いもしなかった…」

「あ、神野!やっと見つけたぁ」

数時間後。 まだいると思って『vamp』の前に来てみると思ったとおりだった。

「どこ行っていたの?神野」

「散歩」

「お前、気楽にほっつき歩ける立場か?夜は特に魔物とかうろついていて危ないって分かってるのか!!」

「キャー、僕、男だから襲われないもんvv」

「なにが、『襲われないもんvv』だ。キモイっつーんじゃ、こんのバカ堕天使!!」

ゴンッツ

ほんの冗談で言ったのに、皐月は手加減なしで思いっきり殴ってきた。

「い、痛てー!!ちょっとふざけただけじゃねーか、皐月!!」

「…何かいいことでもあったのか?顔が気持ち悪いくらいニヤケてるぞ」

「あぁ、あったよ」

また、会える日はいつくるのだろう。 あえる日が早く来てほしい。

「ええ、特になんの進展もなかったの?鈴香」

「ん、遊んだだけ」


次の日。

学校に登校してきたそうそう昨日の事を話したら、加奈は不満そうな声でそう言った。

「つまんなーい」

ウソ。 本当は、プリ張に二枚だけ増えている。一枚はあのメンバー全員五人で撮ったもので…もう一枚は…。

『ツーショットのプリ撮っているってだけで進展だもんねーvv』  

…サクマが言ったとおりです。

なぜ彼女が今も私の近くにいるのかっていうと、どういう訳だが気に入られてというのと、指輪から離れられず その指輪は私が預かることになっているからだったり。

『でもさ、弟君の話って結局なんだったんだろう』

「わからない。でも…」

ゆっくりでも確実に進んでいっている。

いつの日にか、付き合える日が来るのかな。

大好きなあの人と付き合える、そんな日が…。




睦月 弧華さんの恋愛事情


意識がはっきりしなくてぼや~っとした視界の中、よく知っている顔が徐々に近づいてくる。

『―――ッ』

チュッツ

頬にやわらかい感触がして唇が触れられたのが分かった。何もできないでいると今度は首筋をペロッとなめてくる。それも一箇所だけではなくて、何箇所もペロペロなめられた。

『~~~~ッ』

『…弧華』

『皐月…』

彼の顔を手で触れてこっちに向けさせる。

相手はびっくりしてビクっと体を震わせて逃げようとしたけど、その前に口をふさごうとした。


「ちょっ…起きてよ、弧華!!」

聞き覚えのある声で意識がだんだんはっきりしてくる。

モソっと体を動かしながら重いまぶたを開けると、困惑した表情を浮かべた鈴香がアップで見える。

「…どんな夢見ていたの?」

どうやらさっきのは夢で、部室で涼んでいるうちに寝てしまっていたらしい。

それにしても、ただの夢のわりには妙に感触がリアルだし、なんで鈴香の顔がアップで見えているの?

そう思って手を動かそうとして何かをつかんでいるのに気づいた。

ゆっくり、視線を下に向けると私の手は鈴香のあごをつかんでいて、いうなれば、マンガとかで見かけるキスシーンに似ていて…。

「ご、ごごご、ごめん」

あわてて私は手を離した。

「どんな夢って、今の行動で大体想像がつくよ、鈴香」

困ったような表情を浮かべ、照れながら言っている、この見るからに可愛い感じの彼女は村上 佐津季。

私と同じ部活にはいっている中学校からの友人なんだ。

「…まぁ、大体は…」

鈴香は答えながら耳まで真っ赤になっている。

相変わらず素直な反応。

「皐月と付き合うようになって四年、キス以上の進展はなしだし」

「「えぇ、ウソ」」

「もう、とっく…だと思っていた」

「…うん」

言いにくそうに赤くなりながら頷いた二人。

そんな二人を見て、机にだれた。

「そう思うよね~。あ、サツキたちはそういうの考えたことないの?」

「私はないよ、鈴香は?」

「…ある。そこまではひどくないけど」


バン!


部室のドアを開けて一人の少女が走りこんできた。走ってきたせいなのか、大きく肩を動かしてハァハァと息をきらしている。鈴香を見るとその女生徒はパンと両手を胸の前でそろえた。

「鈴香、お願い助けて…!」


ココ、演劇部の部室はしばしば恋愛相談室となっている。 というのも、彼氏がいる鈴香と私が放課後にたいていココでたまっているから。

ほら、鈴香は面倒見がいい。私はなぜか恋愛経験が豊富(?)と一般の生徒にはとおっている(らしい)。ので、時々こういう彼女のような相談者がまいこんだりする。

「…なるほどねぇ…」

鈴香は彼女の話を聞き終わってからコクと頷く。

彼女は、鈴香のクラスメイトで森 理緒。

この夏の期末でオール赤点をとってしまったらしく、親に黙っていたのだが幼なじみの光邦が、彼女の母親にテストがかえってきている知ってしまったため。なしくずし的に見せなさいと言われてバレた。 怒った彼女の母親は塾に行けといったが、彼女が断ったために学年主席の家庭教師―光邦を頼むことになった。 勉強に集中できなくて困っているのだという。その理由は…。

「光邦のこと好き?」

彼女は私が聞くとビクと震えて頷いた。

なにもそこまで脅えなくても、とって食いはしないのに・・・。

「で、勉強にならないってのはなんでなの?」

「それは…」

鈴香に聞かれて言いたくなさそうに、彼女は視線を逸らした。私はポンと手を打つ。

「気のせいだとは思うんだけど、じーっと視線を感じるの」

「それは、彼が見ているって事?」

「うん」

遠慮がちにサツキが聞くと理緒はうなづく。

「にゃるほどにゃ、それが特別な視線に感じるってことでしょ?」

「…うん。ほ、ほんと気のせいだと、思うんだけど、なんか、もしかしたらそうなのかなぁって」

「で、理緒はどうしたいの?」

「…まだ、告白するつもりもないの。ただ、その…気になって…」

「そっか。しばらく様子見ていたら?気のせいじゃなかったら何か反応を起こすかもしれないし」

「…うん…」

たぶん、両思いじゃないって思っているみたい。

それに、なんとなく話をきくかぎり、光邦君は彼女のことをどうやら好きっぽい感じがする。 そうじゃなかったとしても、くっつきそうな感じがするんだよねー。 頬杖をつついて目を細める。

「協力できることがあったら協力するから、なんでもいって」

「うん、何かあったら知らせてねぇ」

「ありがとう、サツキ、睦月サン」

満面の笑顔を浮かべて彼女を見上げた。

「叶うといいね、理緒」

鈴香もにっこりと優しい笑顔を浮かべる。そういえば鈴香も、零と付き合い始めたばっかだっけ。私は机につっぷしてだれた。


勘があたったのか、すぐその反応とやらはやってきた。

理緒サンから相談をうけた次の日の昼休み、廊下で私は彼に呼び止められた。

「あの、睦月 弧華サンですか?」

振り向くと同じクラスで話したことのない、メガネでおとなしそうな男子生徒が立っている。

「…何?」

その男子生徒は、アッチといいながら屋上へと続く階段をさしている。

屋上にでられたらもっと人がいるんだろうけど、そこは全くと言っていいほど人気がなく、サボル人以外はめったに人がこない。

「…いいよ」

他人に聞かれたくないなんて、よっぽどのことなのかな? 私はその人の話を聞くことにした。

「…なんだ。どうしたらいいんでしょう?」

階段に座ってひじについて話はほとんど聞いていなかった。

この男子生徒の名前は光邦。

で、話というのが恋愛相談で友達に聞いて私のところに来たらしく内容は理緒サンが言っていたのとほとんど同じ。そう、この二人は両想いってわけ。

「…う~ん」

かるくうなるように言いながら、なんて言ったらいいのか困っていた。

本音を言えば『彼女もキミの事好きなんだし、早く告って勝手にラブラブしてれば?』

って感じなのだがそういうわけにはいかない。

やっぱ、告白は他人としてではなく直接言った方がいいしねぇ。

「しかも、その…ヤバイんですよ」

顔を赤くして言いにくそうに話を切り出した彼を、目を半分すがめながらみてニヤっと笑みを浮かべる。それが怖かったのか、彼はビクっと体を震わせた。

「彼女の部屋に行くじゃないですか…そうすると、めっちゃくつろいでいるんですよ。

苦手な教科の時に人でとかせると寝ちゃってたり、顔が近くになったりで…」

「あぁー、うん。犯罪になる前に告れば?」

彼は一気に暗くなった表情を浮かべて、周りの空気も暗くする。

「…彼女には好きな人がいるんですよ?」

カクッと頬杖から顔がすべってしまった。

「…え、だ、誰!?」

初耳にかみつくようにそういうと、彼はポケットから携帯を取り出し、ビシっと一枚の写メをつきつけてくる。そこに写っていた人物に私は思わずひきつったような笑いを浮かべてしまう。


―――・・・こんな偶然あっていいのでしょうか、神様・・・。


「『白夜』ですよ。世間を騒がせている怪盗の!それも茶髪の方。運動神経はよくて顔が整っていて、そのうえ…!!」

嫉妬による怒りだと思われる怖い炎(幻覚です)がメラメラと燃えあがっている彼に恐々聞いてみた。

「そ、その上?」

「女遊びをしているっていうじゃないですか!」

ザーッと一気に血の気がひくのが分かった。

誰だよ、そんなウソ言っているの。

『白夜』の正体は私と鈴香で男でもないし、彼氏がいます。

クラクラしながら頭を片手で支え、顔を半分くらい真っ暗にさせながらなんとかそう言いたい感情をしずめる。

「それってさ、なんで知ったの?」

「ネット、です。いつも嬉しそうに話しているのが気になって調べてみたんですよ。

…そんなヤツに奪われたくありません!」

フンっと鼻息も荒く言い切った彼は男らしいと思うけど、その本人が今目の前にいるとは夢にも思ってないんだろうなぁ。

「あのね、奪われる心配なんてないよ?アイツは女に興味がないらしいから(白夜は、女だから)」

彼は嬉しいような困ったような複雑そうな顔を浮かべ、ため息を吐いた。

「…同性愛主義者ですか…(白夜を男だと思っている)」

「~~~ッ」

必死に平常心を装い視線を彼からそらす。

「…そういえば、弧華サンて似てませんか?ヤツに…」

ギクッ 体が一瞬こわばった。

冷や汗がダラダラ流れおちていく。

ここでバレたら命にかかわると、彼の冷たーい視線は語っていたから。

「そ、そんなことないよ~?」

「そうですか、そっくりですよ?まるで本人みたいに・・・」

にっこりと彼は怖い笑みを浮かべた。

視線を横にそらして必死にここから脱出する方法を思いつくと、ポケットからチケットを二枚とりだして彼の前につきつける。

「え~と…あ、今度ランドに新しいアトラクションができたって二枚割引券もらったから彼女と行ってきたら?」

「…え?」

びっくりした彼は目を見開いた。

そんな彼をニッといたずらっ子のような瞳で見る。

「きっと、面白い事が起こるよ?」

「ちょっ…どういう…」

それだけを言い残すとそういう彼を無視して脱兎のごとく走り去る。

残された彼はチケットを見て、何かに気づき困った表情を浮かべた。

「いいのかな?コレつかって・・・」


その日の放課後。

デートに誘われたと理緒から報告が入った。




「…ここまでしなくてもいいと思うなぁ」

理緒サンたちのデート当日。 頼んだとおりに白夜の格好できてくれた鈴香は、どっちかを告白させようと計画を聞き終わった後に困ったような笑みを浮かべていた。

「怖かったんだよ~。必死だったんだよ~」

「あぁー、うん。怖かったんだねぇー」

泣きついた私を背中で優しくなでてくれる。

「…ちょっと、そこのバカップル(笑)ターゲットが来たよぉ?」

からかい半分って口調でそう言いながらサツキが、ポンとかるく鈴香と私の肩をかるくたたいた。視線をめぐらせると仲良くデートをしている二人を見つける。 ニヤッと笑みを浮かべた。

「ミッション、スタート♪」


ミッション1 嫉妬させて、あわよくば言ってもらっちゃいましょう!


「ねぇねぇ、キミ可愛いねぇ~」

「…え?」

一人になったところで声をかけると、不審そうな表情を浮かべながら見上げてくる。

まぁ、サングラスをかけた怖そうな兄ちゃんがナンパしてきたら、不審がるわなぁ。

「ちょっと、お茶しない?」

サングラスを少しずらして片目だけウィンクすると、彼女は誰なのか気づいて嬉しそうな表情を浮かべる。

「あ、あの…もしかして『白夜』ですか?」

コクと黙ってうなづく。

「…ウソ、本物…?夢みてるのかな」

「夢じゃないよ」

周りに視線を見回すと、彼が両手にコップを持って上機嫌にこっちにもどってくるところだった。それを確認してから、にっこりと笑ってそっと彼女の手に触れる。

「ほら、ちゃんと感触があるだろ?」

「~~~ッ」

彼女は真っ赤になってうつむいた。

「何やってるんだ!お前…!!」

そう怒鳴り声が聞こえてきたかと思うと、片手を力をこめてしめあげられる。

「何って、ナンパ?」

ギリッと歯をくいしばり彼のこぶしのがこれ以上力をいれたら血がでそうなほどにぎりしめられた。

「…誰だ、お前…」

「…答える必要はないよ。キミこそこの子の何?」

なるべく冷たい目を向けるように努力した。

「俺は…」

「なんの権利があって、彼女の行動制限しようとしてるわけ??」

「…」

「じゃ、そこの彼がにらんでるしまたね」

二人には聞こえないところまで歩いてきてから、小声でつぶやいていた。

「…言い返しなよ、『ともだち』って言ってもいいんだしさ・・・」

それは、誰かに言いたかったことなのかもしれない。

などなど、あれからミッション8くらいはやったにもかかわらず、どれも達成ならずでいつのまにかあたりはすっかり暗くなって、閉園まじかになっていた。


「まぁまぁ、いい雰囲気になってきているからいいんじゃない?」

「うんうん。夕方ちかくに乗る船の一番上の景色ってあんなに綺麗なの、始めて知ったよ♪」

サツキを見ると、キラキラトーンが彼女の周りに出現して、そのままどこか別の世界を描き始めている。たぶん、登場人物は竜牙とサツキで場所はあの船の上んまのは決定っぽい感じがする。

「あの~、たぶん、タイタニックとかやる人いないと思うよ?というか、見ているこっちが恥ずかしい」

「…え、なんで分かったの?」

「なんとなく」

「あ、二人とも観覧車にのるよ?」

鈴香に言われて見ると、長い列に並んでいる二人を見つけた。

その列のほとんどはカップルで、一人でいるときに見ると正直、羨ましいっていうのもあってウザく感じる。

「…ねぇ、キスしちゃうのかなぁ…?」

「そうだよねぇ、密室だしもしかしたら…」

夜になってテンションが上がってきたのか、二人とも妄想がすごくなってきているような。私は苦笑を浮かべた。

「ないでしょ、告白してないし。アレッて何気に上から丸見えだし、目があったらかなり気まずいものがあるよ?それに、静かってわけでもなくどうでもいい、説明のアナウンスが流れているし」

「弧華、それって経験談?」

「……」

両脇に挟まれているので逃れなれなくて、浅いため息をはく。

「ハイ、 ただ乗ってただ…」

「ウソ、したんじゃないの?キス」

「したんでしょ?」

私は黙って頷いた。 その後の質問攻めは言うまでもないかな。


数日後。

光邦君が部室に来て理緒と付き合い始めたとの報告してくれた。

どうやら、観覧車の中で告白をしたらしい。

結果は大成功ってところかな。

「睦月さん」

部活が終わって廊下に出たところで呼び止められて振り向くと、光邦君が立っていた。

「ありがとう」

「?」

笑顔でそういわれても、心当たりがない。

それを感じとったのか、彼は続けてこういった。

「はっぱかけてくれてありがとう。かけてくれたから、俺、伝えることができたんだ」

「…気づいていたんだ」

彼は黙って頷くと、ポケットからチケットを二枚取り出して渡してきた。

「あと、コレはやっぱりかえさなきゃって思って」

そのチケットは彼に渡しちゃったけど、皐月と行こうと思って大切にとっておいたものだったりする。結局、皐月の仕事が忙しくていけないといわれて、もう、あきらめていた。

うけとっても使い道がない。

「うん、ありがとう」

うけとらないわけにもいかないので、とりあえずポケットの中にしまう。

「じゃあ、また」

「ん、また明日」

手を振りながら、笑顔が自然と浮かんできた。

なぜか重荷がとれて気持ちが楽になったような気がする。

「お、睦月。ちょうど、よかった」

「皐月…どうかしたの?」

「前に言ってたチケットあったろ」

「うん」

「一日だけあいたから…その、泊まり行かないか…?」

彼にしてはめずらしく耳まで真っ赤になっているのが、すっごく可愛くてクスっと笑ってしまった。

「いいいよ」


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