8.タクという名の(2)
(それにしても、面白いなぁ)
結局、夏の入りとはいえ、日差しのきつい場所で佇んでいてもしょうがないということで、近場のゲームセンターに行こうということになった。
ダラダラと歩きながら、近くのゲームセンターへ向かう。
その中で、ルミだけが困惑していた。
(ゲームセンターなんていっても、私は何もできないし……困ったなぁ)
今まで、友達とゲームセンターに行っても、せいぜいプリクラを撮るくらいで、後は友達がやっているゲームを見ているだけだったのだ。
(いつもと同じでいいのかな。でも、何もしなかったら、詰まんないヤツだと思われないかな)
そんな不安を抱えながら、ついて行くしかない。
ゲームセンターに着くと、頭を音楽が殴りつけるように、音が飛び交っている。
ルミは耳をふさぎたくなるのを我慢して、音の洪水にひたすら慣れることだけを祈った。
「俺、これやるわ」
そういうと、Kが機械に向かってコインを投入する。
久しぶりに入ったゲームセンターには、新しい機種が並び、一体何が何なのか分からなくなっている。
ルミはKが操作するパネルを見つめていた。
パネルには、ツインテールの少女が現れ、なにやらしゃべっている。それにあわせているのか、次から次へと画面を操作すると、床に設置されたパネルの上に立った。
機械から音楽が流れ出す。
確かに聞いたことのある曲だが、あまりなじみがない。
Kは曲が始まると、左右の足ばかりか、上半身もきれいに動かして見事な曲線を描きながら踊って見せた。
すると、徐々にKの周りに人だかりができ始める。
「どう?」
タクがルミの隣に来て、外にいたときよりも大きな声で話しかけてきた。
「すごいです。何度も動画で見てきたけど、それが目の前で見れるなんて!」
「好きこそものの上手なれっていうからね。それに、Kはゲームセンターに来ると、いつもダンスして人目を集める。俺たちは太刀打ちできないのさ」
「そうそう、カラオケ勝負ならヤツよりもいくはずなんだけどね」
そう言ってきたのは、乱気流だ。
その横で、犬飯が『そうそう』と頷いている。
「それを言うなら、俺はデザイン画で勝負を挑みたいですね」
と、揚げうどんが勝負参戦を宣言してきた。
「いいよなぁ、お前らは。俺なんて、勝負できるものがない」
タクがそういうと、三人が『確かに!』と頷くのだ。
そうしているうちに、一曲目が終わり二曲目へ突入した。
「しょうがない、ユーフォーキャッチャーでもしてくるか」
みんながそれぞれ、好きなものをやりに消えていく。
言葉の通り、ユーフォーキャッチャーでアームを動かすものがいたり、太鼓を叩くものがいたり。
どの人も、普通の若者で、まるでルミだけが取り残されたような気がした。
「俺も同じ、ここに来ても何もすることがないんだ。でも、みんなが楽しそうにしてるのを見てるのが好きなんだ」
まるで、ルミの心の声を読んだかのように、タクが話し出した。
「ほら見て、犬飯のヤツあんなに大きなぬいぐるみゲットしてるよ」
見てみると、見事にアームが人形を挟み持ち上げているのだ。
しかし、そんなに大きなぬいぐるみが落ちてくるはずもなく。店員が駆け足でやってくると、ゲーム機のドアを開けて人形を取り出した。それをどうするのかと思っていたら、そばで『犬飯さんですよね』と目をハートにしている少女たちに惜しげもなくあげたのだった。